ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2018/8/13/isahama-imin-4/

第4回 強制接収から2年、ブラジルへ

戦中のことを語る屋良さん

聖市カーザ・ヴェルデ地区在住の伊佐浜移民、屋良朝二(やら・ともじ)さん(78)の一家は戦前、フィリピン・ダバオでマニラ麻の農園に従事していた。戦争が始まると敵性国民として追い立てられ、他の日本人たちとともに避難生活が続いた。まともに食べる物がないなか逃げ回り、みんな足を悪くしたり、病気になったりした。このとき2人の兄弟を栄養失調で亡くしている。

戦争が終わって収容されたキャンプ地では、野外に張られたテントの中で過ごした。ここでも食べ物が不足していて「やっと日本に帰れる」と喜んでいた兄も栄養失調で亡くなった。

1年ほどキャンプ地で過ごしてから日本に帰ると、まず本土の病院に入院し、その後沖縄に戻った。伊佐浜には立ち入りの許可が下りていなかったので、宜野湾市野嵩の親戚の家で1年間過ごした。伊佐浜に戻ると家は半壊していた。

伊佐浜土地闘争の末、土地は接収されたが、家は壊されなかったのでそのまま住み続けた。しかし、海岸近くだったので、台風や高潮のたびに海水が浸水してきた。

ブラジル行きを決めた父親について、屋良さんは「沖縄で苦労するより、土地が広い外地に行こうと考えていたと思います。ダバオでの経験もありましたから」と話す。「私もとにかく沖縄から外に出ることがよいことだと思っていました」と述懐した。

しかし、実際のブラジルでの生活は楽なものではなかった。伊佐浜移民はサンパウロ州内陸部トッパンにある2つのコーヒー農園に、5家族ずつ分かれて配耕された。屋良家は田里家、澤岻家と同じ「島袋組」だった。慣れない作業で指が豆だらけになるし、収穫量は天候に左右された。トッパンに2年ほどいて、その後は他の農地を転々としたが、その間貯蓄は全然無かった。

同じころ、澤岻さんは生まれたばかりの子供を抱えていた。澤岻さんは「10家族の中で最も若い家長で、最もお金がなかった。私も妻も仕事が忙しくてまともに子供の面倒を見ることが出来なかった。農作業から帰ると子供が寝室から這い出て台所で寝ているのを見て思わず涙がでたよ。自分はブラジルに子供を捨てに来たのかって」と話す。

当時、沖縄では土地闘争について盛んに報道されていたが、ブラジルではそのことを知っている人はほとんどおらず、同情されることはなかった。田里友憲さんは「ブラジルでは自分たちだけが特別ではなかった。皆苦しんでいたし、文句を言わずにやるしかなかった」と振り返る。

彼らの生活が楽になったのは、農業をやめて出聖してからだった。63年に田里一家がサンパウロ市で穀物などの販売を始めた。人手の多いところに店を構えたため飛ぶように売れた。

その後の田里家の隆盛は目を見張るものがあった。66年ごろ、二階建ての大きな家を建て、一階は在庫を保管する倉庫にした。当時カーザ・ヴェルデ地区でこんな大きい家は他になかった。

その10年後には、サンパウロ州オザスコ市にスーパーを建て経営を始めた。続いてバルエリ市に2号店をつくり、今は友憲さんの弟や子供達が引き継いでいる。友憲さんは80年代にはゴイアス州ゴアイアニア市に土地を買い、現在は牛500頭ほどを飼育する牧場と1400ヘクタールの大豆農場になった。

第5回 >>

 

*本稿は、「ニッケイ新聞」(2018年3月17日)からの転載です。

 

© 2018 Rikuto Yamagata / Nikkey Shimbun

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このシリーズについて

終戦から10年目の1955年7月19日、「沖縄有数の美田」といわれた宜野湾市伊佐浜の土地、さらに家屋までが米軍によって強制接収された。土地を失った10家族が縁故のいない未知の国、ブラジルに移住したのはその2年後のことだった。「伊佐浜土地闘争」は強制接収に対する初期の抵抗運動として、その後の「島ぐるみ闘争」で象徴的に語られる史実となった。その一方、渡伯した人々がどんな人生を送ったかは、あまり知られていない。どのような想いで土地を奪われ、故郷を離れたのか。どんな思いを秘めてブラジルで生きてきたのか。3組の伊佐浜移民への取材を通して、激動の沖縄近代史の一端をたどった。全5回シリーズ。「ニッケイ新聞」からの転載。

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執筆者について

1992年⽣まれ、埼⽟県出⾝。明治⼤学商学部卒。⼤学⽣のときにブラジル、アルゼンチンなど中南⽶諸国を訪問。卒業後2年間保険会社で務めた後、2017年から1年間、ブラジル⽇本交流協会の研修制度を利⽤してニッケイ新聞で研修を受ける。18年からニッケイ新聞記者。

(2018年7月 更新)

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