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バイリンガル教育としてのコロニア日本語教育

松田真希子准教授

「日本語教育は幼稚園に投資すると効果が高い」――現在、当地で「南米日系社会における複言語話者の日本語使用特性の研究」を調査する金沢大学の松田真希子准教授は、そう結論付ける。

ピニャールやピラール・ド・スルなどの日本語学校で「かなり高度なバイリンガルが育っている」ことに驚き、幼稚園があり、日本語学校にほぼ毎日通っている現実がその結果を生んでいると見ている。

つまり、今までコロニアで「日本語教育」と呼んでいた物は、日本の専門家から見れば、実は「バイリンガル教育」であった――。

高度バイリンガルを育てる秘訣を「そこにいけば日本語環境がある。日常的に日本語を話している集団があり、子供がそこで自然にやりとりをおぼえることが大事」「日本語を習うことで先輩たちとの絆が強まる。日本語を使いたい相手がいる」「おじいちゃん、おばあちゃんと日本語で触れ合う場があった方が良い」だと強調する。

ピラールでは青年部を復活させ、日本語のできる先輩が日本語学校生徒の近くにいるような場を作っている。それに、かつての移住地はまさにそのようなバイリンガル環境だった。だから戦前育ちの二世には、読み書きまで可能な人が多かったのだと、話を聞きながら痛感した。

「日本語教育のある幼稚園に力を入れるために必要なのは、バイリンガル絵本だ」と松田さんは断言する。日本的な考え方や思想が込められたエピソードが、幼児期にスッと頭に入ってくるような絵本は重要だ。今はマンガやアニメがその代役をしているのかもしれないが、やはり教室には良質な絵本が似合う。

「日本語を教える技術の問題以前に、まずは日本語で書かれた教科書や本の内容が子供や大人にとって魅力的でないと飛びつかない」と言われ、心臓が飛び出そうになるほどドキッとした。

まさにそう思って、シリーズ本『日本文化』の編集作業をしている最中だ。「何が残すべき日本文化なのか」「何を日本の歴史として日系社会に広めるべきなのか」を日々考え、本の中身を選んでいる。その悩みの核心をズバリと突く一言だった。

日本語教育は、日系子弟には民族教育であり、一般ブラジル人にはエリート教育だ。いずれにせよ、ブラジル教程で優秀な成績を取っている生徒であることが前提だ。ポ語で論理的な思考能力が人並み以上に養われており、そこに日本語で独特の思考方法や文化、教養が加わる。

だから「二倍の情報から物事の判断ができる」「間に立つことが出来る」「ブラジル文化を越境することで想像力を発揮しやすい。日本的なものを取り入れた新しい文化を創造しやすい」というメリットがあると松田さんは言う。

難しいのは「誰でもバイリンガルになれる訳ではない」という点だ。「バイリンガルの子は人の二倍の情報量をこなさないといけないため、むしろ小学校レベルでは授業から遅れがち。長い目で見て、まず主言語を十分に発達させ、それで論理的な思考能力を十分につける。

その上で時間をかけてバイリンガルにする。温かい目で見守っていれば、ある時ポンと覚醒する」。見守る親にも教師にもバイリンガルに関する十分な理解と知識が必要だ。「子どもによっては、ムリにバイリンガルに育てるのは酷な場合がある。それに家庭の方にも二言語教育するには金銭的な余裕が必要」との言葉には考えさせられた。

「今日系社会で行われている日本語教育は、実はすごいノウハウが詰まっている。スポーツ、文化を同時に体験させながら幼児教育からやっていくピラールのやり方は『ピラール式バイリンガル教育法』のようなメソッドとして、将来は世界に向けて発信されても良いと思っています」とまで言う。

5年、10年先の優秀な日系人材を確保したい企業は、今からピラール日本語学校などに資金協力を申し出て、ツバをつけておいた方がいいかも。

7日に移民110周年は開幕した。移住開始一世紀を超えた成果を見据え、もっともっと先を見て行かなければいけない。40年後の移民150年祭を支える人材の多くは間違いなく、今日本語学校で学んでいる。まわりの日本語学校を支援し、孫たちに日本語で話しかけよう。

 

* 本稿は、ブラジルのコミュニティ新聞「ニッケイ新聞」(2018年1月9日)からの転載です。

 

© 2018 Masayuki Fukasawa

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