ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2016/4/4/ryukyu-ryori/

正統派の琉球料理を伝える山本彩香さんと沖縄出身のシェフ、上地勝也さんに聞く

「山本彩香」をインターネットで検索すると、彼女の那覇の店の料理に関するさまざまなブログにたどり着く。琉球の宮廷料理を受け継ぐ料理人として広く知られる存在である彼女の店をいつか訪ねていきたいと思っていたが、残念なことに2012年に「琉球料理乃山本彩香」は閉店してしまった。そんな折、彩香さん本人がロサンゼルスを訪れ、北米沖縄県人会館で料理に関する講演と試食会が実施されるという好機に恵まれた。さらにこの日、スタッフを引き連れ、沖縄出身の有名シェフ、上地勝也さんが調理のサポートに参加した。彩香さんと勝也さんに、それぞれにとっての琉球料理について聞いた。


初心に返って学ぶ〜勝也さん

勝也さんが彩香さんに出会ったのは、元の北米沖縄県人会長の当銘由洋さんの紹介で、彩香さんの店に行った時だった。勝也さんの記憶では今から4、5年前というから、閉店の少し前だった可能性が高い。

「料理をいただいて、琉球料理なのにまったく脂っこさやしつこさがない点が非常に印象に残りました。味が軽く、すっと入るといった感じでした。本来、皆さんがイメージするような和食により近いと思いましたね」

勝也さん(左)と、最初に彩香さんを引き合わせた当銘由洋さん

勝也さんの料理人歴は38年。カツヤグループ並びにパートナーシップで全世界に日本食レストランを展開する彼は、経営者であり、アントレプレナーだ。斬新なアイデアが光る日本食で業界を席巻した勝也さんが、次に琉球料理をアメリカに広める計画はないかと質問すると、その返事は意外にもハードルが高く難しい、というものだった。「誤解を恐れずに言えば、アメリカ人に琉球料理の味が理解できるという確信が持てません」。料理を受け入れる側の味覚が、追いつくことができていないのではないかというのが、勝也さんの考えだ。

では逆に勝也さんの店を沖縄に出すことは計画していないのか、と聞くと、実は過去に何度も話はあったが実現しなかったそうだ。「沖縄が狭いこともあるし、経済的に必ずしもよくない。物価は高いが失業率が高いということで、ビジネスとして考えた時にこれもまた難しいと判断しました。今はもう計画は消えてしまいました」

アメリカ人に琉球料理は理解されにくい、逆に勝也さんが手掛ける斬新な日本食も沖縄ではビジネスとして難しいと答えた。それでも、今は経営者と指導者の立場であり、実際の現場に立つことはない彼が、今回、彩香さんがロサンゼルスでイベントを行うと聞き、サポート役を買って出た。「普段は琉球料理を作る機会はないですし、非常に新鮮な経験でした。また、楽しんでやらせていただきました。初心に立ち返ったような気持ちになりましたね」


伝え続ける使命〜彩香さん

彩香さんが北米沖縄県人会でイベントを開催したのは3月14日。午後7時半から開催される試食会と講演会に先立ち、午後2時から県人会館のキッチンには、彩香さんを囲む同県人会婦人部のメンバー10人、勝也さんとそのスタッフの姿があった。琉球料理の第一人者の現場を見られる貴重な機会とあって、皆が彩香さんの動きに注目し、一言も聞き逃すまいと彼女の言葉に耳を傾ける。聞けば、店を閉めた後は、琉球料理の指導に多忙な日々を送っているそうだ。

1:豚肉に黒ゴマをのせた、宮廷料理のミヌダルを調理中の彩香さん(左)と勝也さん(中央)

「私は今年の4月1日で81歳になります。昨年受けた人間ドックでも、悪いところはまったく見つかりませんでした。どこも悪くないんです。健康体は、普段口にしているもので作られます。これは間違いありません。朝食べたものを覚えておいて、昼と夜、それぞれ違うものを食べてバランスを取ります。私は昔から、たとえ戦時中でもひもじい思いをしたことがありません。育ててくれた養母が料理の達人でした。配給でサバの缶詰が2個あれば、最初はそのまま食べて、次はお塩を入れて置いておく。それを出汁に使うという工夫を凝らしていました。私は母がそのようにしていたことをすべて見ていました。子どもの頃から母が食に気を配ってくれたおかげで、この年齢になってもインフルエンザにもかかったことがありません。自分では身体が上等だからだと思っています」

琉球料理の継承に力を注ぐ彩香さん

琉球舞踊の踊り手で指導者でもあった彩香さんは、途中まで料理と踊りの二足のわらじを履いていたが、50歳を過ぎてから料理一本に絞った。それもすべて「正統派の琉球料理を人々に伝えなければ途絶えてしまう」ことに危機感を抱いたからだと言う。

それでは和食と琉球料理の違いとは何か? 彩香さんに突然、そんな質問をされた。答えられないでいると、「和食に多用される食材の裏ごしを、琉球料理では一切しません。つまり、裏ごしせずに繊維をたっぷり取るということに意味があるのです。琉球料理は健康と直結しています」

こうして、健康的で上品さを持ち味とする彩香さんの料理は、多くの人々を引き付け、本土からもファンが来店した。彼女の口からはこともなげに常連だった誰もが知る有名人の名前が出てくる。

今回のロサンゼルス滞在では、勝也さんの店でカリフォルニアの和食を味わったという。「飛行機を乗り継いでアメリカに到着した後だったので、疲れているだろうと、あえて薄味にしてくれたのではないかと思います。料理は相手を見て、また場所によって味付けを変えなければなりません。身体を激しく動かす子どもと大人では、塩分を取り方も変わってきます」

期せずして、勝也さんもまったく同じことを口にしていた。料理はその人の体調や場所の気候によっても調整が必要である、と。琉球料理は私たち一般人が考えている以上に奥が深そうだ。彩香さんからは、その奥義を少しでも多くの人に伝え続けなければならないという強い意志が感じられた。

 

© 2016 Keiko Fukuda

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執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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