ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2016/1/11/nao-magami/

馬上 直

馬上直さん、全米日系人博物館にて。(写真提供:日刊サン)

東京生まれの直さんは、1970年代、カリフォルニアの州立大学に在学中、日系人の友人が日本語を話さないことに気がついた。同じ東洋人でも、中国系、韓国系の学生は親が話す母国の言葉をそれぞれが話すのに、日系人だけなぜ話さないのだろうと不思議だった。そんなとき、日系人が強制収容所に入る体験を描いたテレビ映画「Farewell to Manzanar(マンザナールよ、さらば)」 をアジア系アメリカ人研究の授業で見て、初めてその理由がわかったような気がした。

それから30年以上たったころ、全米日系人博物館が、その映画をDVD化し、5年にわたり決められた数のDVDを販売する契約をとりつけた。その後、直さんは、日本語字幕をつける作業を手伝うことになった。「自分が最初に日系人の歴史を学ぶきっかけになった映画に再会したことに不思議な縁を感じた。これも、全米日系人博物館でボランティアをしていたからこそ、与えられた機会だと思う」

(写真提供:日刊サン)

直さんは、2010年からバイリンガルのガイドとして日本人の旅行者や学生グループなどに週1-2回、展示を案内している。日本から来た人や駐在員の中には、展示を見ながら「知らなかった」と涙を流す人やハンカチで目頭を押さえる人もいる。

また山崎豊子の小説「二つの祖国」をテレビドラマ化した「山河燃ゆ」(NHK、1984年)や橋田壽賀子脚本のテレビドラマ「99年の愛」(TBS、2010年)を視聴した来館者は「ああ、これがあのシーンだったんだ」と関連付けながら見学する姿も見てきた。

アメリカの日系人は日本から渡ってきた移民の子孫で、その歴史は19世紀にさかのぼることができる。様々な差別や困難を乗り越え、汗と涙と血を流して今のコミュニティーの基盤を築きあげてきた。彼らのおかげで現在、日本人が自由に旅行したり、留学したり、大手の日本企業がアメリカに進出したりすることができた、と直さんは言う。しかしそうした事実はあまり日本では知られておらず、「アメリカの歴史、そして日系人の歴史をひとりでも多くの人に知ってもらいたい」と博物館でガイドを続けている。

直さんは、アメリカは初等教育で南北戦争を境に前後の歴史を均等に教えるが、日本では、明治以降の「近代史」の教育に力を入れておらず、これは国際人として世界で活躍するための大きな問題点だと指摘する。「大学入学試験の問題に出ないという理由で、僕も学校では勉強しなかった。日本人が海外に進出するにあたって第二次世界大戦も含めた近代史を客観的に知る事が大切」、と語る。

博物館でボランティアをしていて感じることは、現在の日系人は昔の日本人のよさを引き継いでいる、ということだ。たとえば、手作りの食べ物を持ってきては、皆で分けあうのはよくあることだ。現代の日本人が忘れられがちな家庭的な気質を持っている。一方、博物館以外の場所で出会った日系人の中には、第二次世界大戦で真珠湾を奇襲攻撃した日本人を祖先に持つ事は、恥だと考えると話す人もいた。日本語を話さない日系人に対し、新一世が近づいて、お互いにコミュニケーションをとることがとても大切で、こうした役割こそ、新一世が果たせることのひとつではないかと感じていると話す。

新一世ガイドの田島さんと (写真提供:全米日系人博物館)

 

* 本稿は、 日刊サンの金丸智美氏がインタビューをし、そのインタビューを元に、ニットータイヤが出資し、羅府新報が発行した『Voices of the Volunteers: The Building Blocks of the Japanese American National Museum (ボランティアの声:全米日系人博物館を支える人々)』へ大西良子氏が執筆したものです。また、ディスカバーニッケイへの掲載にあたり、オリジナルの原稿を編集して転載させていただきました。

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このシリーズについて

このシリーズでは、ニットータイヤからの資金提供を受け『羅府新報』が出版した冊子「ボランティアの声:全米日系人博物館を支える人々 (Voices of the Volunteers: The Building Blocks of the Japanese American National Museum)」から、全米日系人博物館ボランティアの体験談をご紹介します。

数年前、ニット―タイヤはロサンゼルスの邦字新聞『日刊サン』と共同で全米日系人博物館(JANM)のボランティアをインタビューしました。2014年末、これらのインタビューを小冊子にまとめるべく、ニットータイヤから私たち『羅府新報』に声がかかり、私たちは喜んで引き受けることにしました。JANMインターン経験者の私は、ボランティアの重要性や彼らがいかに献身的に活動しているか、そしてその存在がどれほど日系人の歴史に人間性を与えているか、実感していました。

冊子の編集にあたり、私は体験談ひとつひとつを何度も読み返しました。それは夢に出てくるほどでした。彼らの体験談に夢中になるのは私だけではありません。読んだ人は皆彼らの体験にひきこまれ、その魅力に取りつかれました。これが体験者本人の生の声を聞く醍醐味です。JANMのガイドツアーに参加する来館者が、ボランティアガイドに一気に親近感を抱く感覚と似ています。ボランティアへの親近感がJANMの常設展『コモン・グラウンド』を生き生きとさせるのです。30年間、ボランティアが存在することで日系史は顔の見える歴史であり続けました。その間ボランティアはずっとコミュニティの物語を支えてきました。次は私たちが彼らの物語を支える番です。

以下の皆様の協力を得て、ミア・ナカジ・モニエが編集しました。ご協力いただいた皆様には、ここに厚く御礼申し上げます。(編集者 - クリス・コマイ;日本語編者 - マキ・ヒラノ、タカシ・イシハラ、大西良子;ボランティアリエゾン - リチャード・ムラカミ;インタビュー - 金丸智美 [日刊サン]、アリス・ハマ [日刊サン]、ミア・ナカジ・モニエ)

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執筆者について

『羅府新報』は日系アメリカ人コミュニティ最大手の新聞です。1903年の創刊以来、本紙はロサンゼルスおよびその他の地域の日系に関わるニュースを日英両言語で分析し、報道してきました。『羅府新報』の購読、配達申し込み、オンラインニュースの登録についてはウェブサイトをご覧ください。

(2015年9月 更新)

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