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ジャズの調べとともに―ジャズ・ミュージシャン、井原リチャードさん

ウクレレの演奏にあわせて、キーボードの演奏をするリチャードさん(右)
( 写真提供:羅府新報、撮影:J.K. 山本)

南加(南カリフォルニア)はブレア市内のレストラン、シーダー・クリーク・イン(Cedar Creek Inn Restaurant)では、金曜日の夜から週末にかけて、レストラン内のバーで、ジャズの生演奏を聴きながら、お酒や食事を楽しむことができます。このレストランでは、地元南加を活動の拠点とする魅力的なジャズ・ミュージシャンたちが、かわるがわる演奏をおこなうので、地元の人々の人気スポットのひとつとなっています。

ある日、わたしはいつもお世話になっている井原先生から、シーダー・クリーク・インに来ないかと誘われました。

「そうだ、タカ、今日の夜、シーダー・クリーク・インに行かないか?弟のリチャードが生演奏をやるんだ」

弟のリチャードさんがジャズピアニストであることは知ってはいましたが、お目にかかったことはなかったので、先生のお誘いを受けることにしました。

リチャードさんは、戦争が終わった数年後、井原家の三男として生まれました。当時の井原家は、アーカンソー州ローワーの収容施設を離れ、シカゴやシンシナティ、そしてクリーブランドなどを転々としたのち、ようやく、住み慣れた南加ガーデナ市に移り住みました。

楽才に恵まれたリチャードさんは、加州州立大学ノースリッジ校(California State University, Northridge)への進学をきっかけに、本格的に音楽の勉強をはじめ、特にジャズに力をいれました。卒業後は、郵便局で働きながら、南加を拠点にレストランやバーで演奏活動を行いました。また、クルーズ船内でのライブ演奏を依頼されたこともありました。

また、リチャードさんは、役者としてテレビ・ドラマに出演したこともありました。SFドラマシリーズ「スライダーズ」(“Sliders”)の第1シーズンの第9話の冒頭における法廷の場面で、判事役を演じました。このときのリチャードさんの姿は、シンプソン事件の裁判を担当したことで知られる、日系三世の伊藤判事(Judge Lance Allan Ito)を思い起こさせる格好をしていました。

約束の時間にバーへ行くと、すでに、井原先生が友人と一緒に、リチャードさんによるジャズの生演奏に聞き入っていました。先生は、わたしを快くテーブルに迎え入れてくれました。

ジャズの調べは心地よく、お酒と食事の味をより一層引き立てるスパイスとなっていました。軽やかなジャズのリズムにのせて、社交ダンスをはじめる人々が、バーの「華」(はな)となって、人々のまなざしを集めていました。先生は友人と、曲のリズムにあわせて社交ダンスを始めました。

わたしはというと、軽快にピアノを演奏しているリチャードさんの方へ向かい、彼の演奏をながめることにしました。

楽しいひと時は、あっという間に終わってしまうもので、音楽に魅了されているうちに、生演奏の時間は終わりを迎えました。

「皆さん、本日も夜遅くまでありがとうございます。最後に、この曲でお開きにしましょう。皆さん、良い週末をお過ごしください。」

そう言ったリチャードさんが、最後に披露した曲はルイス・アームストロングの「この素晴らしき世界」(What A Wonderful World)でした。

I see trees of green, red roses too
I see them bloom for me and you
And I think to myself what a wonderful world...

わたしはリチャードさんの魅力的な声に脱帽してしまいました。これまで、いろいろな人による「この素晴らしき世界」を聞いたことがありましたが、これほど魅力的な演奏は聴いたことがありませんでした。

演奏が終わると、バーにいたお客さんたちから、大きな、大きな拍手が、リチャードさんに贈られました。多くの人が帰り際に、ピアノの上に置かれた金魚鉢ほどの大きさのガラスのビンに、チップを入れていきました。

そして、井原先生はわたしにリチャードさんを紹介してくれました。

「タカ、弟のリチャードだ。僕の弟はジャパニーズ(日系人)に見えるかな?」

黒い山高帽をかぶり、黒いジャケットを身にまとい、ヒゲを生やしたリチャードさんは、よく見ると、日本人の雰囲気を感じとることができますが、一見しただけでは日系人のようには見えません。しかし、私の目には、リチャードさんは、なによりも魅力的な音楽家という印象をもちました。

わたしは長年にわたってクラシック音楽を勉強してきたので、こんな身近なところで、魅力的な音楽家に出会い、素晴らしい音楽に触れることができたことは、非常に光栄なことです。弟さんを紹介してくださった井原先生には、感謝の気持ちでいっぱいです。

リチャードさんは、今後も、ブレア市内のシーダー・クリーク・インも含め、南加のレストランやバーで生演奏をおこなうとのことです。機会があれば、リチャードさんの生演奏を聴くことをお勧めします。

参考リンク:
シーダー・クリーク・イン(Cedar Creek Inn Restaurant): http://www.cedarcreekinn.com 

 

© 2015 Takamichi Go

Jazz music pianist Richard Ihara