ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2009/04/10/

日本語を習い始める大人の日系人たち(前編)

“このほんはいいですね”

ケイ・ガーヴィン(川上ガーヴィン香保里)さんが、黒板に大きな字でこう書いた。全部ひらがなだ。この日は、付加疑問文を教えている。

“ぜんぜん、よくありません”

答え方を黒板に書きつづる。
「100%、No という意味です」。ケイさんが英語で説明すると、「もう一回(説明して)!」と生徒から日本語でリクエストの声が飛ぶ。

ここは、WLAのベニス・ジャパニーズ・コミュニティ・センター(12448 Braddock Drive, LA CA 90066: tel 310-822-8885)。日本人のケイさんを先生に、夜間の日本語クラスが毎週金曜日に行われる。日本語を習いに集まっているのは、昼間の仕事を終え てやって来た、40~50歳代くらいの大人たち。ほとんどが日系人だが、白人の姿もしばしば見かける。武道から日本に興味を持った人や、配偶者やパート ナーが日本人という人たちだ。このセンターでは、土曜日に子どもたちに向けた日本語教室を開いている。

「この dirty の意味は何ですか?」ケイさんが質問する。
一人の生徒が小さな声で答えると、
「それも正解!」とケイさんが、大声で誉める。

土曜日のクラスでは間違いかもしれないが、文法的には正しい答えだった。何より、ケイさんは生徒が答えを絞り出してくれたことが嬉しい。

2000年から始まった、大人のための日本語クラス。ケイさんによれば、初回のクラスには、教室からあふれるくらい生徒がやって来たという。だんだ んと人が減り、今では毎週10人前後が入れ替わり立ち替わりやって来る。人によって学習期間がまちまちだから、普通の学校のように、一年でこれだけ消化す るというカリキュラムはない。「カメの一歩のようにゆっくりと」(ケイさん)したペースで進行する。生徒たちの中には、日本語チャンネルを毎週見ている人 もいて、このクラスのおかげでリスニングが上達してきたという。

ロサンゼルスに住む日系(日本)人の子を持つ親の中には、地元の学校に通う我が子を、土曜日だけ日本語学校に通わせている人も多い。日本語学校はお寺や教会、日系文化センター、そして民間の教育機関でも開いており、ロサンゼルス日本総領事館のウェブサイト(http://www.la.us.emb-japan.go.jp/web/m04_01_04.htm) に掲載されているだけでも約15校ある。最近ではアニメに親しんだ非日系以外の子どもたちも日本語学校に来るらしいが、やはり日本の言語に親しんでほしい と送り出された日系(日本)人の子どもが大部分。週一回数時間のクラスでも、家庭で親たちが日本語を使い、子どもの吸収力を持ってすれば、日本語はかなり 上達するようである(読み書きはやっぱり難しいらしい)。

一方で大人が学ぶ日本語クラスは、子ども向けほどにはなくて、通年して開設されているのは、ベニス、ガーデナ、ハリウッド、そしてイースト・サン ゲーブル・バレーなど各ジャパニーズ・コミュニティ・センターくらいだろう。では、なぜ日系人の大人たちは、日本語を学ぶのか? 続く後編では、ベニスの 日本語クラスの皆さんに協力を得て、アンケートを実施し、「なぜ日本語を習うのか?」と聞いてみた。

後編>>

© 2009 Yumiko Hashimoto

執筆者について

兵庫県神戸市生まれ、97年よりロサンゼルス在住。日系コミュニティ紙に編集者としての勤務していたが、近年はフリーランスライターとしてローカル情報を 中心に記事を執筆。日本にいたころは、第二次世界大戦時の強制収容所はおろか、“日系人”という言葉さえ、耳にすることもなかった。「日系人の存在を少し でも身近に考えてもらえれば」。その思いで「ディスカバー・ニッケイ」のサイトに寄稿している。

(2008年10月 更新)

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