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「ウチナーンチュ」の移動の経験差と沖縄社会 ― 「第4回世界のウチナーンチュ大会」参加者の出生地と居住地の分析から―

1. はじめに

居住地を変えることで生活は変化する。それは日常的に接する人びととの関係が変化することでもある。ただし居住地を変えたからといって,これまで生 活していた場所での記憶を完全に消し去ることは難しく,それは新しい場所での生活に何らかの影響を与えていく。こうした場所にまつわる累積的な記憶を「移 動の地理的経験」とするならば,そうした記憶と移動の経験を持つ人びとは100年という歴史をもつ「移民社会」にとって,どのような役割を担うのだろう か。「移民社会」は,それが所在する「地域」やそれを構成する人々の「世代」といった準拠枠だけでなく,移民社会を構成する人々の移動の経路という側面か らも理解していく必要があろう。

とはいえ,こうした課題にアプローチしていくためには,移民社会がどのような移動の経験を持つ人々によって構成されているのかについてまず把握する 必要がある。「第4回 世界のウチナーンチュ大会」参加者に対して行ったアンケート調査には,回答者の出生地と現在の居住地とを,国名および州・県名とい う2つの空間レベルで把握する質問を設定していた(設問3,設問4)。本稿では,この設問に対する回答に基づいて,参加者の空間的な移動経路の特徴につい て把握し,「沖縄系」の人びとの移動の経験差と「沖縄社会」との関係について,特に参加者の多かったハワイ州およびカリフォルニア州に居住する人々に着目 しながら検討する。

2. 大会参加者の分布と移動のタイプ

アメリカ合衆国を出生地とし,現在もそこに居住する人びとが,本大会に最も多く参加していた。これは「沖縄系」と認識する人びとでも,また「沖縄 系」以外の参加者でも同様であった。このように,他の国の参加者でも出生地と居住地とが一致するものが多かった。ただし,少なくとも四分の一は出生国と居 住国とが一致せず,国境を越えた移動経験を持っていた。

もちろん,その多くは日本を出生国とする参加者ではあったが,なかにはペルーやブラジルなどの第三国で出生した2世や3世で現在,日本や合衆国に居 住する人もいた。その一方で,地理的に近く言語的に共通性のある南米の国々の間での「沖縄系」の人びとの国境を越えた移動は確認できなかった。さらなる国 境を越えた離散は,一定の方向性をもって起きているように見える。加えて,地域別にみた場合,圧倒的にハワイ州を出生地とし現在ハワイに居住する「沖縄 系」2世,3世の参加者が多く,次いで,カリフォルニア州,サンパウロ州が続く。

地域を単位として出生地と居住地との関係を整理すると,4つの類型を見いだせる。なかでも定住型にあてはまる参加者が最も多く「沖縄系」の人びとの 54.2%を占める.次いで,沖縄県を出生地とする初越境型(18.3%),国内移動型(11.0%),再越境型(3.9%)と続く。本大会で最大の参加 者数を誇ったハワイ州は第1類型に当てはまる人が多く,カリフォルニア州では第3類型にあてはまる人が多い。

こうした参加者について世代や日本語能力,女性の参加率,職業といった点みた場合,ハワイとカリフォルニアでは共通する特徴を示す。ただし,移動経 路から見たとき,ハワイとサンパウロでは出生地が同一の人びとが大多数を占める一方で,カリフォルニア州は出生地を他の地域,なかでもハワイとする人が多 かった.沖縄島からの「離散」ではなく,ハワイを故郷とする「沖縄系」の人びとの「離散」が合衆国国内で生じている。

3. 移動の経験と沖縄社会―ハワイとカリフォルニア―

こうした移動経路の相違は,沖縄県人会やそれを支える「沖縄社会」に対する態度の相違にも現れる。沖縄県人会への所属状況を問うた本アンケート調査 の設問5について,ハワイ州では「沖縄系」の参加者の約8割が県人会に所属しているのに対して,カリフォルニア州では約6割となっている。しかも,県人会 に所属している人の半数はハワイ州を出生地とする人びとである。

また,県人会活動の次世代への継承について問うた設問17について,ハワイ州では「(どちらかというと,)うまくいっている」とする回答が7割を越 えるのに対して,カリフォルニア州は5割程度にとどまる。加えて,「わからない」との回答がハワイ州では5.3%しかないのに,カリフォルニア州では 31.3%と大きな比率を占める。移動の経験を有するカリフォルニア州からの参加者は,うまく県人会の活動状況を把握できておらず,現地における「沖縄社 会」との関係が疎遠になっていることが窺える。

生まれ故郷という点で同質性の強いハワイと,そうでないカリフォルニアの「沖縄系」の人びととでは移動の経験が異なっている。そうした経験差が,県人会という「沖縄社会」のあり方にも影響を与えていると思われる。

4. ウチナーンチュ・ネットワークと移民社会の地域性

移動という観点から沖縄社会をみてみると,ハワイはカルフォルニアと比較して同質的な特徴を持つことが指摘できる。もしかすると,そこにある移動の経験の相違は,地域に対する「思い入れ」といった「場所に対する感覚」にも反映されているのかもしれない。

もし,沖縄島の沖縄社会と海外の沖縄社会との関係に留まらずに,より発展的にウチナーンチュのネットワークを構築していこうとするならば,こうした 沖縄社会のもつ地域性と「場所に対する感覚」を含みこみながら考える必要はないだろうか。というのも,世界に広がる沖縄社会は,島嶼(とうしょ),農業地 帯,大都市,さらに先進国や発展途上国にも存在するからである。こうした沖縄社会の持つ地域的な多様さを相互に理解していくことが,ウチナーンチュ・ネッ トワークを創造していくことに繋がるのではないだろうか。

© 2008 Kentaro Kuwatsuka

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