ディスカバー・ニッケイ

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無限の夢を与える展示会(スペイン語)

(スペイン語)作品には順序だった物語と言うものがあります。私はこれをステップと呼んでいますが、「1,2,3,4,5,6・・・」とただ整然と並べるのではなく、無秩序な空間に配置されるべきなんです。人によっては1番目からではなく8番目から始める人もいるでしょう。ですので、日本の本のように後ろから読むということもできるようにし、最初のページから写真を見ながらその物語を読みすすめていても、突然話しがいったり来たりするようにし、そうすることで遊び心をくすぶることもできます。 このような自由な反応はそう多くなく、またはいつもそうなるとは限りません。芸術の世界でも同じですが、一種の固定概念があり、また自分もその枠にはまっていくのです。無意識に自分もその枠に収まってしまい、なかなかそこから逃げられない状況をつくってしまうのです。作品をつくるためでもありますが、芸術には音や空間の活用の仕方、文字やアイデア、そのアイデアを実現化するための様々なコンセプト等、これらに対しては多少の自由はあると思います。 一つの空間には様々な表現があります。花の香り一つとっても、その花は毎日のように変わりますし、花の枝が固定されているように見えても、近くによってよく見ながら触れてみると、別の側面が見えてきます。 自分でも自身の展示会を見ましたが、一つ一つの作品との間にほどよい緊張感があるのです。波の写真、蟹をつかもうとしている手、折り紙になって吊るされている蟹、壁に貼られた紙には複写された手、とても興味深いのです。そして、訪問者ひとり一人が異なった解釈をするのです。ある昼のことですが、年配の男性が訪れ、私の手を見て、そして自分の手を見て、展示会を後にしました。自分の手に何となく満足していたようなのですが、別れ際に「私の手も皺だらけです。切れ目もすごいでしょう」と言ったのです。たったそれだけですが、それがその人の解釈と手応えだったのでしょう。 私としては全ての物語を見てほしいのですが、でもそうでなくてもいいのです。その空間を訪れたことによって何かを発見し、何かを記憶から甦らせることによって自身にとって再発見になったり、見直になったり、微笑んだり、そして新たな夢をみるきっかけになってくれれば作者としてこれほど幸いなものはないのです。


日付: 2007年12月7日

場所: ペルー、リマ市

インタビュアー: ハルミ・ナコ

提供: ペルー日系人協会 (APJ)

語り手のプロフィール

カルロス・ルンシエ・タナカ氏は1958年、ペルーのリマで生まれた。大学では哲学を専攻し、その後陶芸家として活動をはじめた。そして、ブラジル、イタリア、そして日本で陶芸を学んだ。国内外にて共同展示会、特に現代アートの展示会へ、出展している。現在、複数の国の美術館やプライベイト・コレクションとして保有されている。 1981年より、ラテンアメリカ諸国、アメリカ、日本及びイタリアなどで個展をひらき、ここ数年の間は、日本やアメリカの大学で客員教授として鞭をとっている。研究や展示会に加え、1978年以来自身の工房で作品を作りづつけており、地元の陶土を使用し、その仕上げは1.300度のガス釜で焼き、自然に溶け込んだ機能的・実用的な作品をつくってきた。 2007年11月には、第35回目の「日本文化週間」の企画として、リマ市内にある日秘文化会館のジンナイ・リョウイチ・ギャラリーで「禅のお話と十の小さな物語(“Una Parábola Zen y Diez Pequeñas Historias / A Zen Parable and Ten Short Stories)”」という作品を展示した。 同年12月には、ペルー日系人協会の主催ではじめての著書を、前述の作品の名前で出版した。(2007年12月7日)