ある日系二世ブラジル人の正月の想い
私は元旦生まれである。父母の生涯でもっとも異常な時期であった戦時中、サントス市日本人退去命令のため、田舎町パラガスー・パウリスタの小さな日本人旅館「丸林」の一室に住んでいたときに生まれたと、父の古い日記に書かれてある。すなわち、これが私のこの世の始めての正月であったのだ。
父はこの事を下記のように書き記している。
「一九四四年一月一日午前十時四十分、妻、敏子、男児出産する。この子、なんと天運の良き児であろう、なんと有意義な日に出生したのだろうか。私は三十歳の年をむかえることになった。この児及び一家に幸あれ。
年頭から本年はヨーロッパ戦線で非常になる激戦になる模様である。ドイツ軍はほとんど東ヨーロッパを撤兵中だ。…