2014年公開の日本映画『バンクーバーの朝日』は、第二次世界大戦前に実在した伝説の日系カナダ人野球チーム「朝日」の活躍を描いた作品である。新進気鋭の若手監督と豪華キャストを揃えたエンターテイメント性の高い同作品は、史実とフィクションを巧みに織り交ぜつつ、戦前のバンクーバー日系コミュニティの諸相や白人社会からの差別の有様を21世紀の現代に生きる観客にもわかりやすく伝えている。
日系カナダ人・日系アメリカ人の歴史を専門とする和泉真澄による本書『日系カナダ人の移動と運動』は、最新の研究動向を踏まえ、史料を批判的に検証した極めて学術性の高い1冊でありながらも、随所に書き方の工夫が見られ、カナダの歴史に精通していないような読者でも日系カナダ人史やコミュニティが抱える問題の複雑性が容易に把握できるようになっている。その意味では、本書も映画と同様の役割を果たしていると言えるかもしれない。
2020年に上梓された本書は、上記「朝日」にまつわる近年の越境的な人の交流も題材として取り扱うが、特定テーマに焦点を当てたモノグラフではなく、140年に渡るカナダ日本人移民・日系人の歩みを通史として描いた歴史書である。日本人研究者による日系カナダ人の通史的な著作としては、第二次世界大戦後の「再定住」までを扱った新保満による日系カナダ人社会史『石をもて追わるるごとく』(1975年)や、政府文書を駆使し日…