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第3回 キモチを双肩に担うミネドカの旅(前編)

日系人たちの記憶を如何に次世代へ継承するか――。

一世の声を聴くことが不可能に近い今、第二次世界大戦の収容経験を持つ二世たちも高齢を迎え、問題は年々、切実なものとなっている。今年で11年目を迎えたアイダホ州ハントにあるミネドカ日系人収容所跡地への旅では、一世、二世の経験を含め、将来へ語り継ぐべき「キモチ(kimochi)」に焦点があてられた。

ミネドカ収容所跡地を巡るツアー参加者たち (写真:馬 幸恵)

「近い将来には二世も三世も表舞台から去り、歴史を語り継ぐことは難しくなります。四世、五世といった若い世代には、我々の『キモチ』をその双肩に背負う覚悟がありますか?」

ミニドカの旅実行委員会の会議でマコ・ナカガワさんは語る。

「『二度とないように』を口で唱えるだけでは意味がありません、実際に行動を起こしましょう。とりわけ9・11以降のアラブ系米国人に対する差別はかつての日系人に対するそれに等しいです。歴史は繰り返すのです」

シアトル出身の二世で戦時中はミネドカ収容所で暮らした。語り部を担うひとりとして、将来へ警鐘を鳴らす。

日系人が使う「キモチ」は、いわゆる日本語の「気持ち」とは違う。当地非営利団体「日系コンサーンズ」のキーワードにも用いられるが、言葉の裏に特別な力が込められている。経験や思いを引き継ぎ、語り継いでいく意図を強く感じる。

今年のミネドカの旅は200人以上が参加した。若い日系学生を含め7名が奨学金を受けプログラムに参加、当時を知る高齢者からの話に耳を傾ける大きな機会を持った。参加者半数の約100人を乗せたバス2台が6月22日早朝、ベルビューカレッジを出発した。

「辛い歴史でも乗り越えなければならない」

バスの中で、ルイース・カシノさん (写真:馬 幸恵)

活気ある車中で、昨晩は眠れなかったという二世のルイーズ・カシノさんは話し始める。

「今でこそ現地を訪れることは楽しみになったけれど、戦後しばらくは、収容所の記憶を思い出したくなかった。とにかく『忠実な米国人』として社会に溶け込もうと必死でした」

戦後も続いた日系人の苦境が語られる。

夫は第442連隊戦闘団で活躍した故シローさん。初めてミネドカの旅へ参加したときは、躊躇する思いもあったという。

「一度行ってみると不思議なもので思ったほど悪くなかった。それで初めて辛い歴史でも乗り越えなければいけない、直視して語り継いでいかなければと思う様になりました」と笑みを浮かべた。

カシノさんは今年で87歳。足腰壮健で、今旅の閉会式典でもスピーチを務めるなど精力的に活動する。

バスは霧深いカスケード山脈を抜け、からりと晴れたワシントン州の中南部からオレゴン州北部の荒野を抜けアイダホ州へ出る。宿泊先となるツインフォールは午後6時に到着。風光明媚なスネークリバーなど、自然観光地としても知られ、日系人の収容所があった面影はほとんどない。

若者たちの継承意欲ともどかしさ

2日目は午前から夕方を南アイダホ大学で「米国移民」をテーマとしたシンポジウム、夜には若い世代を集めたユースセッションが開かれた。

ワ州日本文化市民会館で日系人に関する古い文献を研究するスティーブン・キタジョウさんが声を大にする。「一般化された歴史を教えても意味がない。より具体化された一人一人の個人のストーリーに耳を傾けてこそ、より『キモチ』を身近に感じ、記憶は語り継がれるはずだ」

「当時子供時代を収容所で過ごした祖父母の話は、今の自分と同じ年頃だからより興味深いです」とミケイラ・カトウさんも続く。オースティン・ソリアーノさんは、戦時中の強制退去の違憲性を唱え法廷闘争に身を捧げた大伯父の故ゴードン・ヒラバヤシさんから直接話を聞けなかったことを悔やむ。

四世を中心とする若い世代の本音、記憶の継承に対する意欲、また過ぎゆく時間へのもどかしさなどが共有された。

ツアー2日目夜に開かれたユースセッション (写真:渡邉 朔)

日本やヘリテージについても話題が向けられる。

「我々はなぜ祖国の言葉を話せないのだろうか」と語るのはマット・セキジマさん。高校時代、横須賀で滞在した経験がある四世だ。「他のアジア系住民に比べると、日系三世や四世の日本語力、祖国語の言語能力は著しく低い。戦中・戦後と米国社会への同化を余儀なくされた歴史のせいとはいえ、不公平だと感じることがある。だからこそ日本語を勉強したいし自分の子供にも教えたい」

「日本は大好き」というセキジマさんだが、日本人との間に壁も感じるという。「日本人は自分たちの文化が外国人に分かるわけがないと思っているような気がします。人当たりは良いですが、自分たちと少しでも違う人々をなかなか心から受け入れてくれない気もします」

日本人の持つ親切さと排他性の二面性を指摘すると、隣にいたタイシャ・ドゥーさんも同意を見せた。

日本のアニメなどサブカルチャーの貢献もあり、小さなころから日本に興味を持つ四世も多い。その関心が将来、日本へ足を運ぶきっかけにもなる。だがそういった日系人に対し、果たして日本人は真剣に向き合ってきたかという問いも投げかけられた。

日本語に込められた「キモチ」

シンポジウムの最中、古い手紙1葉の翻訳をキャンディス・ノガキさんに依頼された。流麗な日本語で書かれ、差出人のところには「1943年10月31日 ツルーレーク ツチダ」と書かれていた。

カリフォルニア州ツールレイク収容所にいたノガキさんの義兄のツチダさんが、ミネドカ収容所にいたノガキさん家族の安否を確かめる内容だった。

拙い訳だったが手紙の主旨を伝えるとノガキさんは安堵の表情を浮かべた。日系人の古い文献の研究が進んでいるが、日本語で書かれたものなどは解読・翻訳が難しい。ノガキさんの手紙のように、まだまだ多くの「キモチ」が歴史に埋もれている。

後編へ続く >>

 

* 本稿は、2013年7月25日、シアトルの日英バイリンガル新聞『北米報知  (The North American Post) 』に掲載されたものです。

© 2013 Hajime Watanabe, The North American Post

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About this series

Washington State has a history of Japanese Americans dating back more than 130 years. In the 2010 census, the state was ranked third in the nation for the number of people who answered that they were Japanese, behind California and Hawaii. There are many Japanese American organizations of all sizes in the state, centered around the state's largest city, Seattle. Cultural events are thriving throughout the year, including the Cherry Blossom Festival in April and the Autumn Festival in September, but what can the fourth and fifth generation Japanese Americans have inherited from the first generation immigrants who crossed the ocean during the Meiji era and passed on to the present? We followed their story from several perspectives.

*This series is a collaborative project with Seattle-based bilingual Japanese-English newspaper , The North American Post .

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About the Author

Former intern and journalist for the North American News Agency. While studying abroad at the University of Washington, he participated in the Minedoka trip as a scholarship student and was involved in running the program. He also conducted interviews and tried to hear the voices and thoughts of as many trip participants as possible from a wide range of generations and backgrounds. He is currently affiliated with the School of Culture, Media and Society at Waseda University.

(Updated October 2013)

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