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https://www.discovernikkei.org/en/journal/2013/10/31/shibucho/

江戸前の寿司をLAで握って42年 しぶ長 店主 工藤滋さん

老舗に通う客は99%アメリカ人

その店は、ロサンゼルスのダウンタウンとコリアタウンの中間にある。店を出した1970年代はどのような環境だったか知らないが、今はヒスパニック系の店舗が集中していることが、周囲の看板から見てとれる。日本食が他にまったくない場所にぽつんと佇む寿司屋。

まぐろを捌くしげさん。一番美味しいところを使うにも職人としての経験が必要。

店の名前はしぶ長。老舗中の老舗として、ロサンゼルスでおそらく知らない人はいないだろう。しかし、行ったことがあるかと問われるとそれはまた別の話だ。私も2013年の秋、店主の工藤滋さん(以下、しげさん)の話を聞くために訪れるまでは行ったことがなかった。

敷居が高く感じられたものの、店内に1歩入ると、そこはほっと落ち着ける空間だった。板場の後ろの壁には、しげさんとセレブリティが一緒に映った写真が何枚も貼られている。ローリングストーンズのロン・ウッドや俳優のジャック・ブラックの顔も見える。その親しげな雰囲気から、彼らがこの店の常連だということがわかる。

LA TimesやFood & Wineの雑誌でも「行くべき寿司屋」として紹介されてきた。しかし、日本語の媒体ではほとんど見たことがない。それは場所柄なのか何なのか。

「うちの客は99%白人です」としげさんは言う。「アメリカでやっているんだから、日本人だけを相手にするんじゃなくて、アメリカ人相手にやらないと意味がない、私はそう思いますよ」

アメリカ人顧客の心を掴んでいるのが、ワインと寿司の組み合わせだ。しかも寿司はマヨネーズやスパイシーなソースとは一切無縁の本格的な江戸前握り。「スパイシーなんとかなんて、自分でうまいと思えないものは作らない」とぴしゃり。しかし、一転、アペタイザーに関してはイタリアンやフレンチのレストランに通ってヒントを得たものを出している。「てんぷらが悪いって言うんじゃないけど、できれば人と違うことをしたい」、その気持ちが洋のアペタイザーに表現されているのだ。

「寿司自体は日本と一緒です。でもアメリカ人のお客さんが苦手なものは最初に聞いて出さないようにします。だって、また店に来てほしいでしょ。二度と来ない、じゃ、意味がない。お任せ寿司と言っても、握る側の好みで客に押し付けてはいけない。お任せが押し売りになっちゃいけない、と私は思います」

日本の食文化を担う責任感

しげさんがアメリカに渡ったのは1971年。「渡米の目的?そんなものはありゃありません。東京のほり川という寿司屋から、こちらの店に赴任されて来たんです。当時はそうでもなきゃあビザなんておりません。寿司のキャリアは48年。え?長い?それはあなた、本物の寿司屋に会ったことがないんじゃないですか?寿司屋だったらそれくらいのキャリア、当たり前だと思いますね」

冗談のように、48年も握っていると寿司を自分で食べる気はしないと話す。店が休みの日はしぶ長の常連の、イタリアンレストランのオーナーの店に通う。ワインのコレクションにも余念がない。

「昔からうちのお客さんはイタリアの人ですから。ダウンタウンのREXとかMADEOとかね。お互いにしょっちゅう出入りしています。自分で食べに行くなら、本物に行かないと意味がない。勉強のためにもね」

北海道出身のしげさんは中学卒業後に東京の寿司屋で修行を始めた。「お金をもらいながら、職人としての技を身につけることができるんですから、これ以上、素晴らしいことはない」

そう、彼には、自分がアメリカで寿司の文化を担う寿司職人だという自負がある。「職人の世界をきちんとわかっている人とそうじゃない人がいます。職人のプライドとして、出すべき料理をわかってないといけない。そして出したものには責任をもたなければダメです」

しぶ長は、先輩職人に当たる渋谷さんが、1975年に開店した店だ。そこを引き継ぐ形で85年からしげさんが店主を務めている、

「うまいものを出せば客はわかるんです。職人として腕は売るけどこびは売らない。日本の誇れる食文化をお客様に出す責任感です。私はそう思うんですけど、アメリカという異国に住んでいる、いまどきの日本人にはそういう気概がほとんど感じられない。寿司にしたって、美味しくする方法を知らないで、ただ切って出すだけの人、多いでしょう?」

一貫の寿司で伝わる凄み

経験が必要だとしげさんは強調する。経験があるから責任感が生まれる。そして責任があるから経験に基づいて寿司を握るのだ

「魚はもともと腐りやすいものですが、いかに洗うか、使う時に表面の皮をいかに削ぐかという技術が必要になってきます。そして一番いい所を使うのです。経験がない人は無駄も多くなります。それから、シャリ。これが一番大切。シャリは古代人の教えで一肌と言いますが、アメリカの米と日本の米では違います。カリフォルニア米は水の含みが悪いから、本当はとぐ必要がないくらいなんです。1回くらいといで、後は何度もすすぎをやる。私の経験では、さらに炊く前に30分間水に浸しておく。もちろん、その時間は夏と冬で違います。そしてだし昆布を入れて炊きます。これがうちのシャリです」

経験値は毎日変わる。天候や食材の状態と相談しながら、最高に美味しい状態のシャリを炊き上げるための適切な方法を編み出す。それが職人のあるべき姿だとしげさんは言う。

「マニュアルはないんです。簡単にはマネできない。しかも職人によって味が変わる。だから、客は自分の好みの職人を見つけて、そこに通うわけです」

しかし、「いまどきの日本人」は、寿司の修行を軽視している。しげさんは、たった1人で仕入れをして、仕込みをして、寿司を握っている。

「文句言わずに人の話を聞く姿勢っていうのが修行に必要です。学校じゃないんだから。でも、学ぶ姿勢がある人には教えますよ。でもそういう人(学ぶ姿勢がある人)、いないでしょう?いまどきの人はインターネットの人たちだから。経験積まなくても検索すれば出てくる、と。寿司の握り方も検索して出てくるもんだと思っているんでしょう」

文章にすると辛辣に聞こえるかもしれないが、しげさんの「寿司に真摯に向き合う姿勢」はユーモア溢れる語り口のせいですんなりと納得させられる。そして、彼が何度も繰り返す「経験」と「責任感」は、目の前に出された一貫の握りを口に入れるだけで説得力を持って迫ってくる。これをまた食べたい。その力が彼の寿司にはある。「本物は食べればわかるんです」、しげさんの言葉が今も耳に残っている。

まるで芸術品のように美しいまぐろととろの握り。

Sushi Shibucho

3114 West Beverly Blvd., Los Angeles, CA 90057
Monday- Saturday 6:00pm-12:00am
Closed  Sunday & Holiday
TEL: (213)387-8498 

 

© 2013 Keiko Fukuda

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About the Author

Keiko Fukuda was born in Oita, Japan. After graduating from International Christian University, she worked for a publishing company. Fukuda moved to the United States in 1992 where she became the chief editor of a Japanese community magazine. In 2003, Fukuda started working as a freelance writer. She currently writes articles for both Japanese and U.S. magazines with a focus on interviews. Fukuda is the co-author of Nihon ni umarete (“Born in Japan”) published by Hankyu Communications. Website: https://angeleno.net 

Updated July 2020

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