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第二次世界大戦をめぐるハワイ日本人移民の忠誠心と日本人意識 ―短歌・俳句・川柳を史料として― - その1/3

はじめに

この発表は、ハワイの日本人移民一世の短歌・俳句・川柳を素材として、彼らの日本人意識、祖国への忠誠と移住地アメリカへの同化に焦点をあわせて、その変化を追うものである。取り上げる期間は、1931年の満州事変から、太平洋戦争を経て、1952年のサンフランシスコ講和条約発効に至るまでの、波乱に満ちた約20年間である。

この間、一世の法的地位・社会的立場は大変動を経た。戦前、日本人移民に帰化権はなく、一世は日本国籍の日本人であったが、ハワイ定住を決心しており、子どもたち二世をアメリカ人として育てた。一世は日米開戦とともに「敵性外国人」となり、日本人としての誇りや文化を抑圧される中で、アメリカへの恭順を表明し、息子をアメリカ軍に送り出した。戦後は、日本の敗戦に打ちひしがれた一世であったが、1952年マッカラン・ウォールター移民帰化法成立によって念願の帰化権を付与され、アメリカ国籍を取得していった。

一世の文芸作品を分析すると、その間一貫して、祖国への想いが姿を変えつつも維持され、日本文化や価値観が保持され続けたことが見えてくる。一世移民は、日本とアメリカに対する二重の属性を戦前、戦中、戦後と、形をかえて保持し続けたのである。その二重性のゆえに、戦争は、一世の心を引き裂いた。一世は、戦争中も短歌や俳句に日々の感慨を綴り続けた。詩を作ることは、彼らの人間としての尊厳を保つ方法の一つであった。

今回私は、一世の文芸作品―短歌・俳句・川柳―を史料として、一世の思考や行動、情念を読み解きたいと思う。

 

1. 1930年日中戦争

日中戦争が勃発すると、ハワイの多くの日本人一世は大陸侵略のニュースに感激し、「皇国日本」を誇りに思った。戦況を知りたくて移民たちは邦字新聞や東京からの短波ラジオにかじりついた。そして、中国大陸の日本人兵士を思いやり、こぞって祖国に献金や慰問袋を送った。祖国訪問団も増えた。

戦況のラジオに秋の夜は更けぬ 横山松青

六十のおきな戦に出るとききわが雄心は勃々ともゆ 岩谷残花

戦没の勇士の霊を慰むと行く人のあり今日の船には 岩谷残花

日米関係が緊迫化して、1940年に日米通商条約が破棄されると、移民は日米戦争の陰に不安を覚えた。

春雷す日本は遂に無条約(通商条約廃棄) 横山松青

夏追うて宣戦の電波乱れ飛ぶ 横山松青

2.1941年12月真珠湾奇襲と開戦

真珠湾奇襲は、ハワイの住民の誰にとっても青天の霹靂であった。信じられなくて、米軍の演習だろうと思ったほどであった。開戦のその日に、ハワイ準州は軍政下に置かれた。ただちに灯火管制、夜間外出禁止令が発せられた。そして一世指導者たちが検挙されて収容所に抑留された(抑留されたのは日系人人口の1パーセント以下)。一世たちは、この衝撃をどのように受けとめたらいいかとまどった。

起こるべからざる事の起こりて日の国と星の国との戦ひ始まる 相賀渓芳

日本攻撃真珠湾の放送にやがて吾等は愕然としぬ 中林無有

捕はれてゆく夫門に見送れば白青燈の車闇に消えゆく 志賀野浦子

一世は「適正外国人」となった。スパイ行為の危惧から、一世のカメラとラジオの所持が禁じられた。公的な場での日本語の使用と、日本人の10人以上に集会が禁止となった。親書は検閲され電話は盗聴された。予想されたように日系人コミュニティは混乱したが、ハワイ軍政政府は日系人に基本的な部分で他の人々と変わらない生活を保証した。防毒ガスマスクも平等に配給された。一世は、引き裂かれたアイデンティティを詩に表現し、人間らしさを保った。

   敵性(エネミー)外国人(エイリアン)とふ其称呼よ夢の中にも吾にのしかかる
                                                                                           中林無有

ギャスマスクカメラに代へて春の町 横山松青

一世の日本人意識や大和民族としての誇りが容易に変わるはずもなかった。1942年、開戦後最初の正月を迎え、ハワイの一世はそれまでと変わりなく日本人として元旦を祝った。

一億の民の火玉か初光り(四十二年戒厳令下に新年を迎ふ) 横山松青

門松や問はでもあるじ日本人 横山松青

ハワイにいる一世には、戦艦の動きや砲車の動きから、戦況が肌に伝わってきた。日本を思いやる一世の心情が歌に詠われている。

島を出入る艦あわただし冬の雷 横山松青

街を砲車あとからあとから、日本が追ひつめられてゆく 古川文詩朗

日本による真珠湾攻撃 (Photo: U.S. National Archives, ID#295980)

その2 >>

 

*2013年7月4日から7日にかけて行われた全米日系人博物館による全米カンフェレンス『Speaking Up! Democracy, Justice, Dignity』での日本語セッション「一世の詩、一世の声 (Issei Poetry, Issei Voices)」のセッションでの発表原稿です。

このセッションの発表を聞く(音声のみ)>>

 

 

© 2013 Noriko Shimada

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About this series

For the 25th anniversary of the Japanese American Redress legislation, the Japanese American National Museum presented its fourth national conference “Speaking Up! Democracy, Justice, Dignity” in Seattle, Washington from July 4 to 7, 2013.  This conference brought fresh insights, scholarly analysis, and community perspectives to bear on the issues of democracy, justice, and dignity. 

These articles stem from the conference and detail the Japanese American experiences from different perspectives.

Visit the conference website for program details >>

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About the Author

Professor Emeritus at Japan Women's University. Her field of research is Japanese American history. Her research topics include the Pacific War experiences of Japanese Americans on the West Coast, the Pacific War experiences of Japanese Americans in Hawaii, changes in Japanese society as seen in short poems by Japanese Americans in Hawaii, changes in the identity of Okinawan society in Hawaii, war brides and picture brides, etc. She has written many books and research papers. Her main books include Japanese Americans in the Pacific War (1995, Liber Publishing), A Social History of War and Immigration: Japanese Americans in Hawaii at War (2004, Gendai Shiryo Publishing), and edited The Path of Picture Brides and War Brides: Excavating the History of Female Immigrants (2009, Akashi Shoten).

(Updated August 2013)

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