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『南加文藝』-ロサンゼルスに根づいた文芸誌 -その1/5

『南加文藝』はアメリカでもっとも長続きした日本語による文芸同人誌である。第二次大戦中、ヒラリヴァー強制収容所の『若人』に始まった帰米二世の文芸活動は、トゥーリレイク隔離収容所の『怒濤』、『鉄柵』を経て、戦後はニューヨークで『NY文藝』およびロサンゼルスで『南加文藝』となった。『南加文藝』は『NY文藝』が終わったあとも続き、1986年の『南加文芸特別号』の出版で20年の歴史に幕を下ろした。『南加文藝』は戦争の中で芽ぶいた帰米二世文学が木となって咲かせた花ともいうべきものである。

しかしこれは帰米二世にとどまらず、新しい戦後移住者の文学の種を蒔くことになった。その種もやがて芽を出し、枝葉を茂らせた。戦後移住者の参加はそのテーマを農村の狭い日系コミュニティの中からさまざまな人種と接触する都会へと広がりのあるものに変えた。従来の日系文学に新しい傾向が生まれたのである。『南加文藝』は日本へも紹介され、日系文学研究の中で必ず言及されてきた。しかしあまりにも膨大であるため、まだ研究は進んでいない。ここに『南加文藝』20年の軌跡をたどり概観してみることにする。

1.生活再建の時代-収容所を出た日系文芸人

時です――
偉大なる時の回転です
おまえのあふりを食らった人間の群が
世界の一隅でよろめいてゐます

時です――
荒々しき時の足音です
おまえの重き足の下に
白き腹を見せながら
喘いでゐる人々の群があります   
                                          (『羅府新報』1946年4月16日付)

抑留所からの釈放直後に書かれた藤田晃のこの詩は、戦後の時代の変化に翻弄される「不忠誠組」の気持を率直に表わしている。1946年、トゥーリレイク隔離収容所を最後に全ての収容所は閉鎖された。収容所で文芸活動にたずさわった多くの人びとは、収容所の閉鎖とともにある者は送還船で日本へ、ある者はアメリカに留まる決心をして、各地へ散って行った。原爆投下と日本の降伏は一世や帰米二世が抱いていたきわめて漠然とした日本勝利の希望を打ち砕き、その結果アメリカで生きる決心はより強固になった。

『鉄柵』同人の山城正雄はニューヨークへ、加屋良晴はユタ州ソルトレイクへ行き、藤田晃はクリスタルシティの抑留所へ送られた後、やっと釈放された。水戸川光雄は市民権を放棄して日本へ行った。彼らは仕事も財産も失い、文字通りゼロからの出発であった。戦争が終わって、目まぐるしく変ってゆく世の中の動きに、彼らはとまどい、よろめきつつも再定住へ一歩を踏み出していった。

還暦でまた出直した皿洗ひ  
                                          今村仁逸 (『羅府新報』1946年2月20日付)

再建に奮い立ちたる古稀我れのホウ振る腕に力漲る 
                                          船越茂吉 (同6月21日付)

老いた一世はふたたび移民当初の状態に戻ってしまった。人びとはひとまず季節労働者となって全米各地の農園を巡ったり、大都市のホテルやレストランで皿洗いなどをして生計をたてた。家を失った人びとは戦時転住局(WRA)や宗教団体が各地に用意したホステル(日系人のための一時宿泊所)、トレーラーキャンプなどの仮設住宅で暮した。失った家や畑、倉庫に保管した荷物などを取り戻すために裁判をしなければならない人びともあった。強制収容所の損害賠償請求も始まり、市民権を放棄した人びとはその回復を求めて長い間にわたる裁判を開始した。

戦前からカリフォルニアに住んでいた日系人は、いったんは東部や中西部へ行ったが、いつの間にか多くの者はふたたび住み慣れた元の居住地へ帰っていった。戦争中、南部から来たアフリカ系労働者の町になっていたリトル・トウキョウにも次第に日系人が帰って、かつての活気を取り戻しつつあった。ここで人びとは助け合いながら、生活を再建していった。多くの人は需要が多く、器用さを生かせるガーデナ(庭師)になった。山城、藤田、加屋もガーデナとして汗を流して働いた。この仕事は少ない資本で開業することができ、労働をいとわなければかなりの収入を得ることができた。伊藤正は白人の家で家事手伝いをしていた。

日系人の忍耐強さ、勤勉、そして何よりも戦場で戦うことによって合衆国への忠誠を証明した日系兵士たちの活躍のお陰で、日系人を取り巻くアメリカ社会の状況も少しづつ変化していった。彼らがようやく元の生活を取り戻したのは、1950年代の半ばであった。

続く>>

* 篠田左多江・山本岩夫共編著 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

© 1998 Fuji Shippan

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About this series

Many Japanese-language magazines for Japanese Americans were lost during the chaotic times of war and the postwar period, and were discarded because their successors could not understand Japanese. In this column, we will introduce annotations of magazines included in the collection of Japanese-American literary magazines, such as "Shukaku," a magazine that was called a phantom magazine because only the name was known and the actual magazine could not be found, as well as internment camp magazines that were missing from American records because they were Japanese-language magazines, and literary magazines that were also included by postwar immigrants.

All of these valuable literary magazines are not stored in libraries or elsewhere, but were borrowed from private collections and were completed with the cooperation of many Japanese-American writers.

*Reprinted from Shinoda Satae and Yamamoto Iwao, Studies on Japanese American Literary Magazines: Focusing on Japanese Language Magazines (Fuji Publishing, 1998).

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About the Author

Professor at the Faculty of Humanities, Tokyo Kasei University. Graduated from the Graduate School of Japan Women's University. Specializes in Japanese-American history and literature. Major works: Co-edited and authored "Collection of Japanese American Literary Magazines," co-authored "Japanese Culture in North and South America" ​​(Jinbun Shoin, 2007), co-translated "Japanese-Americans and Globalization" (Jinbun Shoin, 2006), co-translated "Yuri Kochiyama Memoirs" (Sairyusha, 2010), and others.

(Updated February 2011)

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