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日本文化に夢中:日本の伝統文化を極める“ガイジン”さんに、その魅力を聞くシリーズ

第11回 (最終回) 「侍の世界を吟じる」 - ロター・W・オーミシェンさん -

詩吟とは、江戸時代後期に始まった、独特の調子(節調)を付けて漢詩や和詩を朗読する芸能だ。アメリカにも詩吟愛好家は多く、ロサンゼルスには大小合わせて八つの愛好会がある。「国総流詩吟会」もその一つだ。2004年発足の同会会員の中で唯一の白人(師匠は日系人、他の会員は皆アジア系)が詩吟歴20年のロター・W・オーミシェンさん。詩吟を始めたのは、1962年に日本映画の名作「七人の侍」を見たのがきっかけだったという。

城や侍が登場する詩を好んで吟じるというオーミシェンさん

黒澤映画、ピアノバー、そして詩吟へ

「かつて私の家の近くに、日本の東宝映画を専門に上映する映画館があった。そこで黒澤明監督の『七人の侍』を見て衝撃を受けた。ハリウッド映画の登場人物にはどこか作り物のような冷たさがある。私から見ればロボットだ。しかし、『七人の侍』の登場人物たちは血が通っているように見えた。真実味のある人物描写とドラマチックな映像と音楽が、私を一気に『サムライ』の世界の虜にした」

ほどなくして、ロサンゼルス市内にある日本人経営のピアノバーに通い始めた。「SAKURA」という店名に魅かれたからだ。「毎晩、夜の9時から午前2時まで入り浸って、いろいろな日本の曲、特に演歌や民謡を聴いた。飽きることがなかった。やがて、リトル東京の文化堂という店でレコードを買うようになった。レコードを聞きながら日本語の歌詞を聞き取って、ローマ字で書きとめる。そして自分でも歌ってみたんだ。『武田節』や美空ひばりの曲がお気に入りだった」

そんな時、日本人の友人から詩吟を紹介され、誘われるまま、ロサンゼルスにある同好会「羅府国誠流詩吟会」に入門した。「習い始めて、彼が私に詩吟を勧めた理由がすぐに分かった。侍や日本の城を題材にした詩を吟じると、目の前に侍映画の映像が繰り広げられる。自分が侍の世界に入っていくような錯覚に捕われるのが、詩吟の最大の魅力だ」。その後、国総流の発足と同時に会を移り、78歳になる現在も、総師範の世木錦光(せき・きんこう)さんの下で熱心に練習を続けている。師範の下の階級の範師として、大見仙錦士(おおみせん・きんし)という日本名も持つ。

騎士道精神に通じる侍の魂

オーミシェンさんは1931年、ドイツのベルリンで生まれた。第二次大戦後、仕事を探して単身でアメリカに移住した。何代か前にさかのぼると、先祖には王家に使えた騎士がいるそうだ。「侍をモチーフにした詩を吟じていると、心の底から恍惚感がわき上がってくる。きっと侍の魂と騎士の魂には相通ずるところがあって、だから私も侍の世界に惹かれるのだろう。アメリカ人は自分たちが一番優秀だと思っていて、謙虚な姿勢が足りない。しかし、日本人やヨーロッパ人には、自らを客観的に捉える真摯さが備わっているように思う。いざと言うときには自分だけが逃げ出すのではなく、自分にとって大切な存在を命がけで守る。それこそが騎士道精神であり、侍のスピリットだ」

「七人の侍」を見て日本文化に目覚めて以降、日本に足を運んだ回数は10回以上だとか。温泉、民宿、日本料理が大好き。そして、何より好きな場所が「城」だ。「弘前城、松本城、姫路城と各地の城を見て回った。そこで自分を侍になぞらえて、詩を吟じるのがまた最高の気分だ」。インタビューの後で、実際に「古城」という詩を吟じてくれた。「松風さわぐ丘の上、古城よ、ひとり何しのぶ」で始まる、今は荒れ果ててしまった城をテーマにした歌謡吟だ。その声は、朗々として実にのびやかだった。

オーミシェンさんが持っていた詩吟の本には、日本語の詞をローマ字に直した書き込みがあった。ひらがなや漢字は読めるのだろうか? 「残念ながら日本語の読み書きは出来ない。でも英語に翻訳して意味を理解しているから吟じる上で何の問題もないよ」とのこと。言葉は通じなくても、魂で理解しているということだろう。

* 本稿はU.S. FrontLine 2009年 12/5号からの転載です。

© 2009 Keiko Fukuda

shigin tradition U.S. FrontLine

About this series

三味線、陶芸、詩吟、武道、着物…その道を極めるアメリカ人たちに、日本文化との出会いと魅力について聞く。(2009年のU.S. FrontLine より転載。)