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スティーブン・オカザキ~太平洋の真ん中に立つ映画監督-その1

日系3世のスティーブン・オカザキ(1952~)にとって「ヒロシマ」とは何なのだろうか。2年前の 2007年、彼はヒロシマの被爆者や原爆投下に関わったアメリカの軍人らにインタビューしたドキュメンタリー『ヒロシマ ナガサキ』(原題はWhite Light/Black Rain)を制作した。この年の8月6日にアメリカのケーブルテレビで放映され、日本でも上映された。昨秋、エミー賞を獲得している。

風化している「ヒロシマ」の現状を描きたい

スティーブン・オカザキ

オカザキのヒロシマへの関心は、20代後半に中沢啓一の『はだしのゲン』の英語版を読んだことがきっかけだった。その後、サンフランシスコで在米被爆者の会に参加したことから、このテーマでドキュメンタリーをつくることになる。在米被爆者とは広島で被爆した後、アメリカ本土に渡った日本人、日系人のことである。これが彼の記録映画『サバイバーズ』で、1982年に発表された。韓国、中国人が被爆したことはある程度知られていても、日系アメリカ人が被爆したことは今でもあまり知られていないのではないか。そんなところにも日本人と日系人の断絶を感じる。

『サバイバーズ』から『ヒロシマ ナガサキ』までちょうど四半世紀。その間、オカザキがインタビューした被爆者は500人にものぼる。1990年代、 NHKとアメリカのPBSの共同制作で「ヒロシマの今」を撮る計画があったが、紆余曲折を経てこの話は流れてしまった。それでもオカザキは原爆にこだわった。このとき、彼は中国新聞のインタビューに次のように答えている。

「在日の韓国朝鮮人被爆者や原爆小頭症の人々、被爆2世の問題なども取り上げたい。また冷戦が終結した今、ヒロシマが何を訴えていくべきかや、日本の経済発展の陰でヒロシマが風化している現状を率直に描きたい」(中国新聞 1994年4月8日朝刊版)

オカザキのヒロシマへの関心は、このときすでに大きく広がっている。韓国朝鮮人被爆者をテーマにした作品はまだつくられていないが、『ヒロシマ ナガサキ』で韓国人被爆者のキム・パニョンさんが証言者の一人として登場している。また、原爆小頭症の人たちについては2005年に『マッシュルーム・クラブ』という35分の短編ドキュメンタリーをつくっており、翌2006年にアカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされている。時間をかけながら、言ったこと一つひとつを実行に移しているところがオカザキのすばらしいところだ。

日系人だからこそ引き出せた被爆者の声

在米被爆者は約1000人と考えられている。

第二次世界大戦中の1941年当時、日本にいた日系2世は約3万人、そのうち4800人が広島にいた。いかに広島からの移民が多かったかがわかる。長崎にいた日系人の数はわかっていない。

日系アメリカ人が日本に滞在していた理由はさまざまだった。アメリカで生れたが教育のために日本に滞在していた帰米2世、配偶者を求めて日本に滞在していた2世、日本人と結婚して日本に滞在していた2世、1世の両親とともに親戚を訪れるために来日していた2世、アメリカでの反日感情が高まりつつあるのを感じて日本に引き上げてきた人たち。

これら日本で被爆した日系人のほかに、広島、長崎で被爆した日本人で、戦後、身寄りがなく新天地を求めてアメリカやカナダに渡った人。政府が推進した移住政策によって南米に移住した人など、それぞれが異なる境遇を背負っていた。

被爆者であることを明らかにしない人もいるので正確な数字はわからない。被爆者であることを明かすと、健康保険が停止になったり、職を失う危険があるし、そもそも原爆投下を正当化させる風土の中で被爆者であることを訴えにくい。南米では190人、カナダでは20人が確認されている。

『サバイバーズ』には十数人の在米被爆者が出てくるが、もっとも印象的なのは、顔と手にケロイドの跡が深く残っている笹森恵子(ささもり・しげこ)さん の証言である。被爆したときは13歳。戦後、いわゆる原爆乙女の一人としてアメリカで一年半にわたり、25回にものぼる形成外科手術を受けた。帰国後も10 年間、病院通いを続けた。

笹森さんは『ヒロシマ ナガサキ』でも証言者として出演しており、私はなつかしい人に再会したような気がした。

「よく考えるんです。もし被爆しなかったらどんな人生だったのかしらって。全然違っていたでしょう。おそらくは普通に結婚して奥さんやお母さんになって暮していたでしょう。ついつい色々考えるんです」

笹森さんの言葉が、ズシリと心に響く。

その2>>

*本稿は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」 のコラムシリーズ『二つの国の視点から』第2回目からの転載です。

© 2009 Association Press and Tatsuya Sudo

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About this series

There are approximately 3 million Japanese people living overseas, of which approximately 1 million are said to be in the United States. Japanese people in the United States, which began in the latter half of the 19th century, have at times been at the mercy of bilateral relations, but through their two cultures, they have come to have a unique perspective as Japanese people. What can we learn from these people who have lived between Japan and the United States? We explore the new worldview that emerges from the perspectives of the two countries they hold.

*This series is reprinted from Renso Publishing 's web magazine "Kaze," which features information about new books, such as articles linking new books to current issues and daily topics, monthly bestsellers, and columns reviewing new books.

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About the Author

Lecturer at Kanda University of International Studies. Born in Aichi Prefecture in 1959. Graduated from the Faculty of Foreign Studies at Sophia University in 1981. Graduated from Temple University Graduate School in 1994. Worked at the International Cooperation Service Center from 1981 to 1984. Lived in the United States from 1984 to 1985, and developed an interest in Japanese-American films and theater. Has been involved in English education since 1985, and currently lectures at Kanda University of International Studies. Since 1999, has presided over the Asian American Studies Group, holding study meetings several times a year in Tokyo. His hobbies are rakugo and ukulele.

(Updated October 2009)

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