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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

誰のため、何のための“移民政策”なのか

日本の移民政策議論と外国人労働者

ここ5~6年前から、官民を含めて今後深刻な社会経済問題になるとされている少子高齢化問題。この解決策として、外国人労働者の受入れ拡大を提言し ている機関や団体が目立っている。

財界からは、日本経団連の「活力と魅力溢れる日本を目指して」というビジョンや「外国人受入れ問題に関する中間取りまとめ〜多様性のダイナミズムを実現するために『人材開国』を〜」という報告等、経済同友会からは「外国人が『訪れたい、学びたい、働きたい』日本となるため に」、商工会議所からは「少子化問題とその対策について〜『出産・子育てに優しい経済社会』の実現に向けた戦略〜」や「少子高齢化、経済グローバル化時代 における外国人労働者の受入れのあり方について」等がある。学会からの提言は「多文化共生社会の形成に向けて(明治大学の山脇啓造教授等)」等があるが、その他、政府の諮問会議からは「高度な専門技術外国人〜留学生30万人計画」、さらに自民党国家戦略本部の「日本型移民国家への道プロジェクトチーム」か らは移民1千万の受入れ提言がある。

いずれにしても、外国人を受け入れようとしているのは、介護や福祉、農業や製造業等で、誰にとっても労働条件が厳しい職種である。人手不足であるに も関わらず賃金が低いという、歪んだ業界でのニーズが高い。介護や福祉は資格を持っている人は大量にいるが、定着率が非常に低い。農業は、高齢化しており 後継者不足という実態がある。多額の補助金が支給されているにもかかわらず非効率で競争率が低い。製造業は労働生産性が高いと言われているが、機械化や自 動化で補えない部分がまだ多く、労働力が必要とされている。さらに、日本の若い人が敬遠する夜勤や3K労働である。

人手不足であり、競争力がなく、魅力的でもない業種に外国人を“ウェルカム”ということのようだ。日本人が就労しようとしない実態と少子化事情を絡めて、若い移民に状況を“改善してほしい”という日本側のかなり一方的な思惑である。

移民と化している日系人と課題とその解決案

日本は過去、1990年の入管法改正で、製造業の人手不足を補うために南米の日系人を大量に受入れた。しかし、政府の準備不足と移民と化したことで 多くの課題が未だに解決されていない。今後、もし新たに移民を受入れるであれば、下記に挙げる事項だけは整備しておいた方がいい。

  • 言葉の問題:南米系の就労者・移民は、昔日本から移民した日本人移住者の子孫であるため、日系人という「日系」がついているが、文化的に はブラジル人であり、ペルー人である。多少日本語が出来たとしても考え方も生活パターンも出身国で養ったものである。アジア諸国から受入れたとしても南米 系同様に、外国人であることに変わりはない。言葉の壁は労働・社会生活に影響するため、受入れ国が積極的に講習会を行うべきである。欧州ではビザの更新に 受講証明書もしくは検定資格証明書のようなものを条件にしている国もあるが、職種によってはそんなに言葉が出来なくても大きな貢献ができるということも念 頭に置くべきである。日本の場合必要なのは、居住地域での共存と相互理解のための実用的な日本語教室であろう。自治体や交流協会、外国人支援団体、そして 企業等を通じて公的助成を充てて、制度的にこうした講習会を行なえば、日本社会の風習や習慣、諸義務と権利に対する理解を高めることができる。共存が少し ずつスムーズになれば受入れ社会である日本側も異なった文化や考え方から何かを学ぼうとするに違いない。外国人に不慣れな日本社会は多文化共生を前提にす るのではなく、結果にすることの方が適している。
  • 労働•社会保障:外国人の場合、どの業種でも間接雇用が多い。偽装請負という脱法行為もあるが、派遣法を所管している行政は職安で あり、労働基準監督官のような権限はない。企業や団体は法律を甘く見ていることが少なくない。介護ではつい最近、大手企業の不正が発覚したばかりであり、 多くの日本人スタッフが非常に不安定な雇用を強いられていた。

    運営のノウハウが必要なため外国人の間接雇用も初期段階はやむを得ないのかもしれないが、社会保険(健康保険及び厚生年金)や労働保険(雇用保険と 労災保険)、税の徴収等の遵守と監視を強化する必要がある。ただ、この課題は年金漏れ事件でもみられた通り、日本国民にも関わることであり、安心して就労 できる社会保障の制度強化が必要である。

    また、外国人に適用している「年金の脱退一時金制度」を拡張し、完全に帰国する際は、掛けた期間分をきちんと返還すべきである。また、外国人を問わず年金受給資格の条件緩和等も検討する必要がある。

  • 教育:子弟の教育については、義務教育規定を適用すべきである。歴史的な理由で一部の在日外国人にその規定を免除するというのであれば、 それは日本国の判断であるが、それ以外の外国人には移民受入れ国として当然のごとくその責務を果たしてもらう必要がある。そして、制度の中で相当の予算を 見積もって日本語取得と教科学習のサポート体制を整備すべきである。また、バイリンガル・カウンセラーによって外国人保護者に対する制度の説明、子弟の進 路オリエンテーション等を行うべきであろう。
  • 渉外法務:異なった国や法制度の人が入ってくると、いくら日本の法を遵守することが前提であっても、やむを得ない法の不都合やミス マッチが発生する。国籍法だけではなく、家事法関係や税法も同様である。場合によっては、個別に各事項について二国間協定も必要になってくる。国際結婚も 増えるため、外国人登録制度と戸籍制度との照合、諸外国法の定期的な情報更新、日本の家庭裁判所で行われる諸手続に対する多言語による情報提供などが必要 になる。国際私法の観点からは諸外国の判決や裁判決定の相互承認等、政府間・司法府間の意見交換をもっと積極的に進めるべきである。

  • 国内コンセンサスと移民の歴史認識:この150年間1960年代までは日本は移民を送り出してきたが、その経緯や世界情勢等につい ては一般の日本人にはあまり理解されていない。そのため、移民の意義や意味について学校や社会全体でもっと広報する必要がある。日本の歴史もきちんと勉強 していない「ゆとり教育世代」の中には、自身の社会をあまり誇りに思っていない人も多いようだ。このような社会環境でどのように移民の子弟を教育し、この 日本で住んでいることに誇りと希望をもってもらい、感謝してもらい、いずれ尽くもらえるというのだろうか。

    また移民を受入れるということは、産業界と少子化対策に熱心な一部官僚と政治家の思惑だけでは十分ではなく、国内コンセンサスも必要である。

  • 移民受入れサポートの人材とその処遇:行政や民間団体等外国人を対象にサポートする相談窓口は言葉だけではなく、広範囲な知識と専 門用語の熟知が必要である。これまでの嘱託職員を低賃金で雇う方式は適切でない。専門職として相当の処遇と定期研修制度を設けて人材を育成する必要があ る。教育現場のカウンセラーも同様である。バイリンガルスタッフを育てることは容易なことではない。また、ほぼ毎日のように外国人に対応することは精神的 に大きな負担である。国としても、ただ縦割りに表向きの「相談窓口」を設けるのではなく、機能的で機動的で、関係機関(労働基準監督署、職安、社会保険 庁、警察、児童相談所、家裁、弁護士会、市役所、入管等)への連絡体制を制度的に整備しないことには効果は見込めない。「外国人総合アドバイザー」という ような肩書きの有能な人材が、電話やインターネットで情報を提供し、相談に当ることが肝要である。その他、病院等で活動できる医療通訳等の制度的整備も必 要である。

移民の動向と一つの受入れ方法

1960年代から外国人労働者を積極的に受入れてきたヨーロッパ諸国でも、現在では移民を制限しており、既に住んでいる外国人に対しても様々な義務 (言葉の取得や子弟の教育等)や規制を強化している。中南米からの移民に寛容的な姿勢をとってきたスペインでは、外国人子弟の教育には多額の予算を割当 て、社会統合を優先課題にしている。さらに、失業が悪化している建設業等の外国人労働者には公的資金を投入し、帰国支援を実施している。また、自治州別に まとめた移民の雇用契約の実施件数と社会保障の移動状況も定期的に更新、公開している。可能な限り非正規雇用や非合法滞在者の雇用を抑制しようとしている のだ。

重要なのは、移民の議論と並行して行なうべきことは、その産業への影響と国内労働市場の歪んだ部分の改善だということである。企業はもっと多様な労 働力を活用し、若年、女性、中途採用、退職者、さらには外国人にかかわらず、誰でも安心して働けるようにしなければならない。移民してきた者は最初のうち 多少の不満や不平等は我慢するかもしれないが、不公平感が募り不満が爆発した時はフランスの暴動ではすまされないことになる。そして、若い移民であれば少 子化対策になるという安易な考えは棄てるべきである。滞在歴10年以上にもなり生活も豊かになればしだいに日本人の女性と共通したライフスタイルと考え方 になり、出生率は伸びなくなる可能性も高い。

冒頭でも指摘した通り、移民は、受入れる方にも入って来る方にもかなりの覚悟と努力が必要であり、時間と忍耐も必要である。そして、摩擦と誤解はつ きものである。そうした負担を、国をはじめ、企業も地域住民も移民も分かち合わなければならない。財界や官僚が各報告書でかかげている「キャッチフレー ズ」とは、かなりかけ離れた現実が待っているのである。

それでも、相当数を受入れるというのであれば上記で指摘している課題をクリアし、迅速に体制を整え、受入れ対象になっている業界や職種の環境改善と ともに移民送り出し国との二国間協定のようなものが必要になるのかも知れない。が、いくら整備しても相手側から日本が移民先として魅力に映らなければ当然 やってこないし、期待はずれの労働力がやって来るに違いない。

それからもう一つの受入れ方法もあるが、それは次の機会に委ねる。

© 2008 Alberto J. Matsumoto

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.