Discover Nikkei

https://www.discovernikkei.org/en/journal/2008/4/17/Los-giwaku/

『ロス疑惑』に思う

2月23日早朝、一大ニュースが日本中を、そしてLAの日系社会をも駆け巡った。

『ロス疑惑』妻殺害容疑 三浦知義元被告 ロス市警サイパンで逮捕

私が勤務する、ロサンゼルスの日本語新聞、日刊サン2月25日号の第一面である。(記事は日本のサンケイスポーツ社と契約)

27年前の『ロス疑惑』騒動を知らない、海外の若い方のために事件と今回の容疑を、簡単に説明しておこう。1981年11月、LAダウンタウン近く の駐車場で三浦元被告の妻、一美さん(当時28歳)が頭部を銃撃された。意識不明のまま一美さんは、米軍のヘリコプターで異例の“帰国”。しかし翌年帰ら ぬ人に。その後、三浦元被告に1億5千万円の保険金が下りたことなどから、『週刊文春』誌がスクープ記事を発表。警視庁も動き出し、逮捕となった。三浦元 被告は、1審で無期懲役の有罪判決が下されたが、2審で逆転無罪、最高裁でも2003年無罪が確定した。今回の LAPD(ロス市警)によるサイパンでの逮捕は、この一美さん殺害事件の殺人容疑などによるものだという。

一面に『逮捕』を日本とほぼ同じスピードで掲載しただけに、日刊サンには次々と日本からのジャーナリストたちが連絡してきた。一番熱心だったのは、 日本から急いでロスに飛ばされてきた、日本の新聞や雑誌記者たち。もちろん LA 支局のテレビ、新聞社の記者も電話をかけてきて、何か情報はないか、地元の日本人たちの様子はどうかと繰り返し尋ねられた。私たちにさえこうなのだから、 LAPDは大騒動。普段から出入りしている米系記者が目を丸くするくらい、日本のジャーナリストが押しかけたと聞く。そのころLAPDの広報に電話した私 は、“また日本人か、またミウラの話か”と思われたのであろう(事実そうだが)、もううんざりとでもいいたげな対応で追いやられてしまった。

『逮捕』の一報にはここリトル東京の日系社会も、少なからず驚いた。当時の記憶を思い出した人もたくさんいて、地元ならではの関連ネタもいくつか教えても らった(詳しく書くのは控えるが)。確かに当時は、ここリトル東京でも大騒ぎだったらしい。「最初の一ヶ月くらいは、奥さんと二人で撃たれて“可哀想、可 哀想”って、みんな言ってたの」—これが、最初のころの日系社会の典型的なリアクション。新婚旅行の最中に撃たれた日本人カップルに誰もが同情的だった。 悲劇の主人公、三浦元被告のために、ここの日系人たちはカンパを集めていたとも聞いた。

けれど、27年前の出来事である。代替わりしたようなリトル東京には、日本で起こっているフィーバーと同じに感じることはないだろう。ある日本の新 聞記者は私に「“ロスは怖いところだ”と、日本から観光で来るのを控えるようにならなければいい、と地元の人が話していた」と言う。だけど、それは多分、 リップサービスだ。27年前の銃撃事件を掘り起こして、「やっぱりロスは怖い」と考える人が今頃いるとは到底思えない。今じゃ日本だって、ずっと怖い国で ある。

4月始め現在、三浦元被告をサイパンからLAへ移送できるかどうかも決まっていない。“主役不在”に『ロス疑惑』も、LAではいったん鎮静したかの ようだ。しかしLA側の三浦元被告を担当する弁護士は、マーク・ゲラゴス氏。マイケル・ジャクソンやウィノナ・ライダーなどセレブたちを弁護したことでア メリカのメディアにも有名だ。もし三浦元被告がLAへ移送され、裁判になったら、日米で狂乱騒ぎとなるかもしれない。

事件現場に行ってみた。日本人らしき2人の男性がビデオカメラを構えていた。車の窓を開けて尋ねてみると「この辺りが現場と言われています」と丁寧 に教えてくれた。三浦元被告の証言にあったパームツリーは切り倒され、新しく建てられたビルに出入りするのだろうか、車も割合よく通っている。今となって は、ここで白昼、未解決の銃撃事件が起こるとは想像しがたい。

27年前、バブル期の日本人が関わった銃撃事件。LAPDによって、第二章は予期せず始められた。この後、どのように綴られるのか。いずれにせよ、LAの日系社会は何らかの役割を担うことになるだろう。

© 2008 Yumiko Hashimoto

About the Author

Born in Kobe city of the Hyogo prefecture, she has lived in Los Angeles since 1997. Works as an editor for a Nikkei Community paper, and also writes articles based on local happenings. When she was in Japan, she had never even heard of the word “Nikkei-jin,” let alone the existence of internment camps during World War II. She is participating in the Discover Nikkei site in hopes that the readers can “keep the existence of Nikkei people close to their hearts and minds.”

Updated October 2008

Explore more stories! Learn more about Nikkei around the world by searching our vast archive. Explore the Journal
We’re looking for stories like yours! Submit your article, essay, fiction, or poetry to be included in our archive of global Nikkei stories. Learn More
New Site Design See exciting new changes to Discover Nikkei. Find out what’s new and what’s coming soon! Learn More