「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

太平洋戦争を挟みアメリカで生きた日系アメリカ人二世、ジョン・オカダ(John Okada)が残した小説「ノーノー・ボーイ(No-No Boy)」。1971年に47歳で亡くなった彼の唯一の作品は、戦争を経験した日系アメリカ人ならではの視点でアイデンティティをはじめ家族や国家・民族と個人の在り方などさまざまなテーマを問う。いまも読み継がれるこの小説の世界を探りながらその魅力と意義を探っていく。

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第5回 新版がアメリカで一昨年出版

表紙に描かれた主人公の苦悩

初版はまったく注目されなかった「No-No Boy」は、1976年に復刊された。以来読み継がれ、版元のワシントン大学出版では13回版を重ねて累計で10万部以上を出版している。この間、ずっと同じ表紙で同じ内容だったが、一昨年新たな序文を加え表紙も一新した新版が出た。

ボブ・オノデラの手によるこれまでの表紙のイラストは、一見何をあらわしているのかわからないが、よく見ると人間の顔のようで片方の目は星条旗が、そしてもう片方には旭日旗が小さく描かれている。小説の主人公イチローの目だと類推できる。

赤色の「NO-NO BOY」という字体は、アメリカ軍の戦車などに使用されるアーミー・ステンシル・フォントで、これも内容を暗示している ...

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第4回 日本での出版

1979年、中山容氏が翻訳

小説「ノーノー・ボーイ」がアメリカで復刊されたのが1976年。それから3年後の1979年3月、日本語で翻訳が出版された。出版社は海外の文芸作品の翻訳など個性的な作品を手がける晶文社(東京都千代田区)で、中山容氏が翻訳を手掛けた。

翻訳のタイトルは「ノー・ノー・ボーイ」と表記され、「時は1945年、徴兵を拒否して二年間の刑務所ぐらしを終えて、故郷のシアトルに戻ってきたイチロー。自らの生き方を求めて激しく悩み、傷つきながら彷徨する魂の姿を、叩きつけるようなリズムで描き切った、日系アメリカ人二世による白眉の青春小説」という紹介文が添えられた ...

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第3回 復刻版にこめられた熱い思い  

3月12日、シアトルのワシントン州日本文化会館で、「ノーノー・ボーイ」に関するシンポジウムが開かれる。第二次大戦中にアメリカの日系人が収容所に入れられた際に問われたアメリカ国家への忠誠に対する質問の意味をはじめ、日系人社会の反応など、小説の背景にある問題を研究者らが語り合うという。

シンポジウムは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校アジア系米国人研究部のプログラムの一環として行われるというが、いまもって「ノーノー・ボーイ」に象徴される世界は、文学だけにとどまらず、考察されつづけるテーマになっていることがわかる。それだけにこの小説も読み継がれているのだろう。


オカダの影を追って

話題になることもなく埋もれてしまった初版から19年経った1976年にアジア系アメリカ人の若者の手によって復刊されたジョン・オカダの「ノーノー・ボーイ」は、その後ワシントン大学出版が版元を引き受け出版を継続した。

1957年の初版は ...

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第2回 再発見された“我々の文学”

アイデンティティの問題などを鋭く問うジョン・オカダの小説「ノーノー・ボーイ」は、1957年に出版されたのち、世間の注目を浴びることなくほぼ忘れ去られてしまった。それが70年代に入り見直されることになる。

そのいきさつについて触れる前に、昨今のアメリカをはじめ世界各地での移民や民族間、国家・文化間に生じている摩擦や問題からみて、「ノーノー・ボーイ」を考察する意味をひとこと触れておきたい。


いま、なぜ「ノーノー・ボーイ」なのか

大統領選がはじまったアメリカでは共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏らがイスラム教徒への偏見、差別を助長しかねない言動に出ている。これに関連して戦時中の日系人の隔離政策を是認する発言をし ...

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第1回 「ノーノー・ボーイ」とは何か

太平洋戦争を挟みアメリカで生きた日系アメリカ人二世、ジョン・オカダ(John Okada)が残した小説「ノーノー・ボーイ(No-No Boy)」。1971年に47歳で亡くなった彼の唯一の作品は、戦争を経験した日系アメリカ人ならではの視点でアイデンティティをはじめ家族や国家・民族と個人の在り方などさまざまなテーマを問う。いまも読み継がれるこの小説の世界を探りながらその魅力と意義を探っていく。

小説「ノーノー・ボーイ」が出版されたのは1957年、アメリカと東京に本部を置くチャールズ・イー・タトル出版から出された。1948年に設立された同社の創立者チャールズ・イー・タトルは、戦後連合国総司令官ダグラス ...

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