日系アメリカ文学を読む

日系アメリカ人による小説をはじめ、日系アメリカ社会を捉えた作品、あるいは日本人による日系アメリカを舞台にした作品など、日本とアメリカを交差する文学作品を読み、日系の歴史を振り返りながらその魅力や意義を探る。

culture ja

第8回 『カリフォルニア州 ヨコハマ町』

最初の日系アメリカ人作家ともいわれるトシオ・モリ(Toshio Mori)が、1949年に出版した短編集が『Yokohama, California』(The Caxton Printers, Ltd., Calldwell, Idaho)である。それから29年たった1978年、日本で『カリフォルニア州 ヨコハマ町』として大橋吉之輔の訳で毎日新聞社から出版された。

場面は戦前のアメリカ西海岸の日系人社会だが、時代と国境を越えても、変わることのない人間の本質といったものが、日常の物語のなかで生き生きと描かれ、今日もなお読み応えのある作品であることがわかる ...

continue a ler

culture ja

第7回 『北針』

かつて日本からアメリカに渡った人たちのなかには、正規の渡航手続きを経ずに出国した人たちもいた。いわゆる密航である。

明治期からはじまったアメリカ移民は、西海岸を中心に排日の動きが高まる中で1908年には日米間の紳士協約によって日本が旅券の発給を自粛したことで制限され、さらに1924年には新移民法によって全面的にアメリカへの移民はできなくなった。

しかし、それでもアメリカに行きたいと思う人は後を絶たなかった。その理由はなにより、お金を稼ぐためである。とはいっても生活のためだけではない。アメリカに行って日本の何倍もの金を稼ぎ、何か自分の夢を実現させるという“アメリカン・ドリーム”を目指してである。

そのためには、身の危険を冒してまでもチャレンジした。方法は三つあり、ひとつは、本来は船員として乗船している船から、海外で抜け出る「脱船」。二つ目は、貨物船など海外航路の船舶へ潜入し上陸するというもの ...

continue a ler

culture ja

第6回 『失われた祖国』

アメリカのトランプ大統領による排他的な移民政策によって、アメリカ国内の移民、マイノリティーのなかから隣国カナダへのさらなる移住を希望する人が急増しているという報道があった。アメリカより移民に寛容なカナダを好んでのことだという。

しかし、太平洋戦争開始後はアメリカと同様、いや、それ以上に日系人に対して厳しい隔離政策をとっていたのがカナダだった。太平洋岸のバンクーバー周辺の日系人は、財産を没収され、内陸部に強制移住させられた。カナダ生まれでカナダ国籍をもっていても、当時のアメリカ同様、日系人であればその権利をはく奪された。

また、アメリカでは、終戦と前後して収容所は廃止され、日系人は形式的には解放され自由になった。しかし、カナダでは終戦後4年間も、バンクーバーに戻ることが許されなかった。

こうした戦中、戦後に日系カナダ人家族が置かれた厳しい状況を物語として描いたのが日系カナダ人2世の女性作家、ジョイ・コガワ ...

continue a ler

culture ja

第5回 『荒野に追われた人々 戦時下日系米人家族の記録』

日系二世の女性作家、ヨシコ・ウチダは、1921(大正10)年、カリフォルニア州アラメダで生まれ、バークレーで育った。数多くの児童文学作品を残し、日本の民芸にも造詣の深い彼女が、戦時中の自身と家族の収容所体験をつづったノンフィクションが『荒野に追われた人々 戦時下日系米人家族の記録』(1985年、波多野和夫訳、岩波書店)である。

原題は『DESERT EXILE: The Uprooting of a Japanese ...

continue a ler

culture ja

第4回 『丙午の女』

アメリカにせよ南米にせよ、近代の日本からの海外移民の主人公は男たちである。男たちが、お金やよりよい生活を求めて、自らの意志で海外に飛翔した。なかには妻帯者もいるが、妻は夫に従ってきた。また、まずは単身夫が移民し、あとで妻や家族を呼び寄せるという形をとった。

独身の男たちは、やがて妻をめとるが、その際同じ移民のなかで相手を見つけることができればいいが、多くはいったん母国へ帰って結婚し妻を連れてくるか、あるいは「写真結婚」をした。一度も相手に会うことなしに写真だけを頼りに、相手を決めて結婚したのだ。

いずれにしても、移民する女(妻)たちのほとんどは、男(夫 ...

continue a ler