その3>>4. 『ハートマウンテン文藝』の内容(1)短歌この文芸誌の「歌壇」は一般読者にも投稿をよびかけたが、ほぼ心嶺短歌会の会員による作品発表の場であったといってよい。心嶺短歌会は毎週2回(後に週1回となる)の歌会を持ち活発な活動を行っていた。
高柳沙水が短歌を詠む人に求めるものは「現在我々が直面してゐる境地から取材」することであった(5月号)。彼の作品は自然や季節の変化をよく取り上げるが、時局にも強い関心を示している。戦況を常に意識し、劣勢な戦いを進める日本に対して連帯の想いを表す(「戦時遠流の我等に歌の一つあれ後世史家の心打つ歌」)。毎号、選者として示す3首のうち、少なくとも1首は時局を詠んでいる。これは歌人としての高柳の姿勢を示すものである。「彩雲居抄」においてもこの姿勢は明確である。
心嶺短歌会会員の作品は優れたものが少なくない。会員の層の厚さを感じさせる。主なテーマは自然と季節の変化であり、日常生活であり、戦争である。師の高柳沙水の場合とほぼ同じである。抗議やストライキといった収容所内の政治的動きについて言及する作品はなく、アメリカへの明確な批判は見られない。恋慕の情を詠む歌もほとんどない。
自然と季節のもっとも重要な素材はハート山である。その美しさ、厳しさも表現されるが、自分たちを温かく見守ってくれる高峰としてこの山を見ている人が多い(福沢葉子「初めて仰ぐハート嶺一…