メアリ・キモト・トミタ(1918~2009)著、『ミエへの手紙』(Dear Miye: Letters Home From Japan 1939-1946) (1995)は、国境を超えて移動した人々の経験を考える上で、私たちに多くのことを教えてくれる。これは、1939年に留学生として来日した日系アメリ カ二世のメアリが、1946年までの約7年間に及ぶ日本滞在中に、カリフォルニアに住む親友の日系二世ミエと、メアリと同じ二世留学生の親友ケイに宛てた 書簡を収録したものである。共通の背景を持つ同性・同世代の友人に向けて、感情の赴くままに書かれたこの書簡は、メアリの心のうちを生き生きと語ってい る。そして、手紙に表現されている彼女の心の葛藤や揺れは、来日留学生の実生活をより豊かに物語る。
1930年代の来日留学生の日本体験について、これまでの先行研究では、留学を促した日米双方の越境教育という理念や、受け入れ機関の教育方針が主 に論じられてきた。特に早稲田国際学院の留学生については、二世のアイデンティティの二重性を認めないという国家主義的な学院の教育方針に翻弄されて、二 世留学生は日本人として戦時の日本に協力するという姿勢をすりこまれる傾向があったと指摘された。学校の教育方針による影響は確かに大きかったと思われ る。しかしながら、もっと個人の内面に分け入ってみたとき、戦時下の国家のイ…