Ryusuke Kawai

ジャーナリスト。慶應大学法学部卒。毎日新聞記者などを経て独立、ノンフィクションを中心に執筆。『大和コロニー「フロリダに日本を残した男たち」』(旬報社)、『「十九の春」を探して』、『122対0の青春』(共に講談社)など著書多数。日系2世の作家、ジョン・オカダ著『No-No Boy』の翻訳を旬報社より出版。『大和コロニー』は、「Yamato Colony: The Pioneers Who Brought Japan to Florida」として、University Press of Floridaより英語版が出版。

(2018年3月 更新)

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第13回 五章、日本からの手紙

イチロー・ヤマダの母は、戦争が終わっても日本が負けたことを信じられずにいる。その頑迷さと狂信性にイチローは腹を立て、同時にそんな母の間違いを正さず、あたらず触らずの態度をとっている父の態度にも腹を立てていた。

五章では、この母に対して初めて父が、正気に戻るように迫る姿が描かれる。母のもとには、日本で暮らす姉や親せきから、戦争によって生活が苦しく物的な援助をしてもらえないだろうかという悲痛な手紙が届いていた。

しかし、母はこれらの手紙はすべて仕組まれたものであって、ほんとうに姉や親戚から来たものではないと言って、読むことすら拒否していた。父は仕方ないと思っていたが、度重なる手紙に、先方への同情と母を立ち直させるために、珍しく毅然とした態度で母を呼びつけ読むよう強く迫った。

それでも拒否した母に対して、父は母の目の前で読んで聞かせた。イチローはそばにいて、これで何かが変わるかもしれないと期待して見守っていた。

父は手紙の内容を声に出した ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第12回 第四章、傷ついた心のエミと出会う

前向きな姿勢と良心

主人公イチローの友人で、戦場で片脚を失ったケンジにつづいて第四章では、印象的な存在として著者は女性であるエミを登場させる。同じ日系人であり若く魅力的な存在である彼女もまた、心に傷を負っている。

エミは、同じ日系人のラルフと結婚しているが、戦争が終わっても夫のラルフはヨーロッパで軍務についたままアメリカに帰国しようとしなかった。それは、兄のマイクの存在を恥じてのことだった。イチローの弟タローが、アメリカに背を向けた兄の行為を恥じるのと同じ理由からだ。

マイクは、第一次大戦にアメリカ軍に従軍した経験をもつほどアメリカ国民として生きてきた。しかし、日米開戦後のアメリカ政府に対する自分たち日系人への措置に激怒して、一転して反アメリカの立場をとり、収容所に入れられ、最後はなんの馴染みもない日本へ行ってしまった。

同じように、アメリカにいたエミの父親も強制送還を希望して日本へ行ってしまった。イチローの母親同様に、日本が負けるはずがないと信じていたからだった。しかし実際は ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第11回 第三章、片脚を失った友との再会

著者のジョン・オカダは、主人公イチローの心の葛藤を描き、同時に人間社会のさまざまな問題を読者に考えさせる。その葛藤は家族をはじめ、彼が関わっていく人間とのふれあいのなかで生まれる。

こうした人物のなかで、この章から登場する友人のケンジの存在は物語にとって非常に重く、重要になっている。


かつて学んだ大学を訪ねてみたが…… 

前章で、自分と同じ“ノーノー・ボーイ”の友人、フレディーに会ったイチローは、刹那的に暮らしているフレディーもまた、彼なりの闇を抱えていることを知り彼と別れる。

「いつか自分にも再び居場所ができるだろう。家を買い、家族を愛し、息子の手を取って通りを歩き、人々は立ち止まり自分たちと天気や野球や選挙について話をするだろう。」

そう楽観的に考えもしたイチローは、なにげなくバスに乗り ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第10回 第二章、同じ境遇の友との再会

二年間の服役を終えて、イチローはシアトルのわが家に戻る。しかし、その帰郷はまったく心休まるものなどではなく、戦争に行かなかった者への冷たい視線を感じた。一方、日本が負けてはいないと信じる母親への憎悪は募り、その母と日本に背けなかった自分とは何かと問い苦しむ。


狂気だと、母への憎悪が爆発

二章では、一章につづき母に対する怒りと苛立ちが描かれる。戦死した日系人のボブとその母を、日本人ではなくなっため罰をうけたのだと非難する母に対して、イチローはあえて問う。そして母が答える。

「もしおれが軍に入ってボブみたいに撃たれたらどうなるんだ?」

「そのときは、私も死ぬだろうね」

「おれみたいに死ぬのかい?」

「そう、おまえがアメリカの軍隊に入るときに私も死ぬよ。アメリカの軍隊に入るって決めてもだよ。おまえが日本人であることをやめて、アメリカの軍隊に入ろうって気を起させるような気になっても私は死にますよ ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第9回 第一章、戦争が終わり、刑務所から故郷へ  

全十一章からなる「ノーノー・ボーイ」の第一章は、戦争が終わって刑務所から出て来た主人公のイチロー・ヤマダが、故郷のシアトルに戻って来たところからはじまる。徴兵を拒否して、二年間服役していた彼が、その二年間の重みを背負いながら家族と再会する。著者は、そのなかで主人公の抱える問題の本質をまず浮かび上がらせる。

自分の意志でしたこととはいえ、なぜ徴兵を拒否してしまったのか、誰のためなのか、誰のせいなのか、自分はいったい何をしようとしたのか、あるいはしたかったのか、いったい何者なのか・・・。さまざまな自問をイチローは抱えている。


母との葛藤

25歳になったばかりのイチローが、バスでシアトルのまちに着く。二年間は収容所、二年間は刑務所にいたので四年ぶりの帰郷だ ...

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