Ryusuke Kawai

ジャーナリスト。慶應大学法学部卒。毎日新聞記者などを経て独立、ノンフィクションを中心に執筆。『大和コロニー「フロリダに日本を残した男たち」』(旬報社)、『「十九の春」を探して』、『122対0の青春』(共に講談社)など著書多数。日系2世の作家、ジョン・オカダ著『No-No Boy』の翻訳を旬報社より出版。『大和コロニー』は、「Yamato Colony: The Pioneers Who Brought Japan to Florida」として、University Press of Floridaより英語版が出版。

(2018年3月 更新)

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第18回 第十章、人種差別に向けられるオカダのなまざし

アメリカのなかの日本人と黒人

日系人はアメリカ社会ではマイノリティーであり、移民当初から人種的な偏見にさらされてきた。同じようにマイノリティーとして中国をはじめアジア系のアメリカ人やユダヤ人、メキシコ人、ネイティブアメリカンも差別や偏見に遭ってきた。

こうした人種の問題について、オカダは、イチローの目を通して語っている。そのなかでも黒人に対しては、複雑な思いを寄せているのがわかる。

第一章のなかでまず、シアトルに帰って来たイチローは、かつての日本人町の繁華街で黒人から「ジャップはトーキョーへ帰れ」と、罵声を浴びせられる。この声を、オカダは迫害されてきた者たちが今度は別の者を迫害するという。

だが、あとの章では、日本人よりもっとひどい差別を受けている話をとりあげて、黒人に同情の目を向ける。おなじ差別される者のなかでも、さらにその枠の外に黒人がいるといった位置づけのようだ ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第17回 第九章、葬儀、そして再出発

シアトルの中の日本と“お寺” 

日本人移民の古い歴史を持つシアトルには、かつて日本人町が形成され、日本のコミュニティーにあるようなものは、ほとんど形をそろえていた。1903(明治36)年に渡米した永井荷風は、「アメリカ物語」のなかで、最初の寄港地であるシアトルの街のようすが、日本のまちと少しも変わらないと驚いている。

これらの中には、日本から持ち込まれた宗教(仏教など)もあり、日本的な寺院も建設されていく。シアトルでは移住当初、移民はキリスト教に影響をうけたが、1901年にシアトル仏教会(浄土真宗西本願寺派)が設立された。

「米國日系人百年史」(1961年 ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第16回 第八章、友の死、母の死

小説「ノーノー・ボーイ」は、物語の後半に入り、大きな山場を迎える。主人公イチローの母と、親しい友人ケンジが相次いでこの世を去る。八章では、この二つの死が同時に登場する。著者のジョン・オカダは、二つの死をどう描いたか。

戦争で片脚を失い、さらにその傷が悪化し、ポートランドの復員兵病院に入院したケンジ。友を見舞ったイチローは、現地で職探しをしたが結局は、シアトルにもどることにした。ケンジに頼まれたように彼のオールズモビルを運転し、ケンジの実家に届けた。

そこで、やさしい父親に会ったイチローは、病院でのケンジの様子などをあれこれ尋ねられる。最初は ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第15回 七章、良心ある白人との出会い

日米間の戦争という事情ゆえ、アメリカの日系人はアメリカ社会で全体として迫害をうけるが、その背景には人種的な偏見があり、この問題をどうとらえるかを、「ノーノー・ボーイ」のなかで、ジョン・オカダは随所で示している。

そのほとんどが、白人社会からの差別の実態とそれに対する苛立ちである。しかし、差別や偏見のない、「アメリカの良心」のような存在も一方でオカダは登場させている。それが、七章に出てくる、キャリックというエンジニアリングの会社を経営する白人男性だ。

物語を振り出しにもどすと、刑務所を出てシアトルに帰って来たイチローは、複雑な気持ちで狂信的な日本への愛国心を示す母と、頼りない父と、徴兵を拒否したイチローや母親に反発する弟のタローのいる家族のもとへ帰る。

それから、同じ境遇の友人フレディーに会い ...

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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第14回  六章、死を予感するケンジの悲しみ

著者のジョン・オカダが、心優しい日系人家族の姿を、美しくも悲しく描く印象的な章が、物語も中ほどにさしかかった第六章だ。

戦争で片脚を失ったばかりか、傷んだところが悪化してきたケンジは、シアトルから再びポートランドの復員兵病院へ行くことになる。これまでとちがいもう二度と戻って来られない予感がするケンジは、家族に別れを告げる。


一世の父の後悔

母はかなり前に亡くなり、父が長い間職人として男手ひとつで3男3女を育ててきた。アメリカで一旗揚げようとやってきた一世の父は必死に働き、その結果子供たちは二世として立派にアメリカ社会で生きている。

子供たちは父を敬い、父はまた子供たちを誇りに思っているこのほのぼのとした家族は、みんなケンジのことを案じていた。ケンジも傷ついた自分に対する家族の心遣いを十分理解していた。

とくに、父が自分のことを愛し心配していることは痛いほどわかっていた。多くの日系アメリカ人の若者が「日系」であるがゆえに、アメリカ人である証しを立てようと戦地に赴き傷ついたことを考えれば ...

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