>>その3担い手たち文学の担い手たちについても考えておこう。先に移民地の文学空間を占めた作品を三種類に分類したが、これに従えば「書き手」にも三種類が存在したと言えるだろう。(1)日本国内の作家、(2)主として国内で活動したが移民地での生活体験も持つ作家、(3)移民文士たち、である。このうち、移民地の文学空間を創造し、維持していくための主体となったのは(3)の人々である。読者の側を考えたときにも、次の事が言える。(A)まったく文学になど興味をもたなかった層、(B)読むとしても軽いもの--講談や通俗小説程度だった層、(C)文学に深い関心を寄せていた層があったと想定すれば、最後の層こそが文学空間の核となった層である。そして(3)と(C)とはほとんど重なると見ていい。熱心な文学読者たちが、移民地の書き手たちでもあった。文学作品の書き手として、また熱心な読者として、批評家として、あるいは新聞雑誌社の編集者として、書店の店員として、彼ら異郷の文学青年たちが核となって移民地文壇を形成していったのである。
当時の青年達は、夢を抱いてアメリカにやってきたが、現実はあまりにもきびしい。〔・・・〕やはり、精神的なはけ口は文学にむけられた。といっても、誰か大家に師事して本格的に勉強した連中ではない。ヤキマの平原で藷掘りをしながら、あるいはレストランで皿洗いをしながら、満たされぬまま、日本の文学雑誌をよ…