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「ノーノー・ボーイ」の世界を探る

第19回 第11章(終章)~希望の兆しなのか

戦争が終わって故郷のシアトルに帰って来たイチローのその後数日を周囲の人間とのかかわりなかで描いた「ノーノー・ボーイ」は、イチローの内面の独白が軸になっていて、物語性は強くはない。それでも、イチローが苦悩しながらどんな生き方を見つけていくのか、苦悩から抜け出す道はあるのだろうかと読む者は考える。

最終章では、事件は起きるが、なにかが解決したとか、苦悩が解消していくといった感情の浄化のような出来事が起きるわけでもない。だが、最後にオカダが語るように、かすかな光が、主人公の内面に射し希望の兆しが示唆される。物語は安易に閉じることはなく、著者が投げかけたボールはそのままずしりと読者のグラブにおさまったままになる。


クラブ・オリエンタル

最終章の舞台は、物語の序盤に戻り、シアトルの日本人町があったジャクソン通り界隈になる。戦争によってすっかり姿を変えてしまった猥雑なところで、著者はさらに、象徴的な場所であるクラブ・オリエンタルへと読者を誘う。

以前イチローが友人のケンジと一緒に飲みに行き、同じ日系だが退役軍人のブルにからかわれ、怒りで酔っぱらったあと、今度は弟のタローとその仲間に呼び出され、ノーノー・ボーイであることから襲撃されたのは、クラブ・オリエンタルでの出来事だった。

次に、ケンジが家族に別れを告げて、死を覚悟して傷んだ脚を診てもらうためにイチローを誘ってポートランドに出かける直前、ひとり静かに酒を飲んだのもこの場所だ。そこは、どうやら場所柄日系人たちがよく飲みに行くところのようで、中国系のマスターがいて、黒人は入店を許されなかった。

小説に出てくるようなかつてのクラブの跡(シアトルで、2009年)  

イチローの友人として登場するケンジとフレディー。従軍してドイツで負傷し片脚を失ったケンジは、やさしく、思慮深く、人間味溢れる男だった。これに対して、イチローと同様にノーノー・ボーイであるフレディーは、戦争がもたらした同胞による自分たちへの差別に怒り、また、自分を日系人たらしめた親たちにも怒りの矛先を向けた。

時代や状況のなにもかもに反発し、その日その日をひたすら享楽的に過ごそうと、半ば無理をしながら生きていた。それは苦しさの裏返しだったのかもしれず、そんな彼にイチローは痛々しささえ感じた。おそらく読者の多くは、ケンジに同情しながらフレディーには距離を置いて見るのではないだろうか。

そんな危なっかしいフレディーにときおりうんざりしながらも、イチローはどこか放っておけなかった。それがイチローのやさしさであり、同じ立場の者への哀れみだったのかもしれない。こうした危険を顧みず突っ走るフレディーが最期を迎えるのが最終章だ。

フレディーに誘われ、連れ立ってイチローは玉突き場に行く。そこで同じ日系人とフレディーがさっそくトラブルを起こし、急いで逃げて出る。わけがわからなくなっているようなフレディーを見てイチローは友のことを案じる。

「イチローは心の底から友のことを哀れに思った。生きる活力となる、前向きな肯定の姿勢を捻じ曲げて、意味なく拒絶する空虚な否定の姿勢に変えてしまった現実社会。友は、理不尽で混沌とした厳しいこの世を嫌悪し、自分自身や家族や社会を憎み、拒絶することで、やみくもに慰めを求めていた。」


フレディーの最期

このあと、もめごとを決して起こさないことを条件に、イチローはフレディーに付き合ってクラブ・オリエンタルに向かう。しかし、これまでも日系の退役軍人らとトラブルを起こしていたフレディーは、店内でブルに見つけられ痛めつけられそうになる。

ブルが言う。

「……おれはおまえらみてえなくだらねえやつのためにひでえ戦争を戦ってきたんじゃねえ」

ブルもまた戦争によってわけのわからぬ怒りを内に抱えていた。

ブルの暴力をとめるため、イチローもまた力でブルに挑む。なんとかブルを押さえつけたイチローは力の限りブルを殴り「頼むから喧嘩はやめてくれ」と言う。このあと、いったん騒ぎはおさまったかに見えたが、フレディーがブルのすきをついて一撃を食らわす。

そこからあと、オカダの筆致は早くなる。最後は車で逃げようとするフレディーを、ブルがつかみかけるが、それを振り切り車は急発進する。その直後、通りに出たところで別の車に衝突し、車は宙を舞う。

群衆は集まり、警察がやってくる。ブルは打ちひしがれてなおも毒づきながら、泣きわめく。フレディーのことを哀れに思いながらイチローは、この数日間に出会ったひとたちのことを考えた。最後に、物語はこう締めくくられる。

「イチローは歩いて行った。考えながら、探しながら、考えそして確かめながら。アメリカのほんの一部である、ちっぽけなコミュニティーの路地の暗闇のなかで、イチローは、かすかで捉えどころはないが、希望の兆しを追い求めた。それは心のなかで形になりつつあった。」

何が希望の兆しだったのか、それは読者に投げかけられたままである。

(敬称略、翻訳は筆者による)

 

© 2016 Ryusuke Kawai

john okada Nisei No-No Boy (book) resister world war II

Sobre esta série

太平洋戦争を挟みアメリカで生きた日系アメリカ人二世、ジョン・オカダ(John Okada)が残した小説「ノーノー・ボーイ(No-No Boy)」。1971年に47歳で亡くなった彼の唯一の作品は、戦争を経験した日系アメリカ人ならではの視点でアイデンティティをはじめ家族や国家・民族と個人の在り方などさまざまなテーマを問う。いまも読み継がれるこの小説の世界を探りながらその魅力と意義を探っていく。

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