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腰かけブラジル日系社会体験記

第2回 日系二世という「種族」 その1

ルイーザさんは、少なくとも仕事相手としては、きわめて第一印象の悪い人だ。ぶっきらぼうというのか、人によったらけんか腰に感じるのではないかと いうような態度を、わけへだてなく、誰にでも初対面から容赦なしにとるものだから、会った途端にルイーザさんの人柄に魅了される人などまずいそうにない。 私はやや例外的だったと言えるが、それは何も私の心が特別に広いといったことではなく、私がルイーザさんとは正反対の自他共に認める八方美人的人間だから だ。好んでそうしているつもりではない私には、ルイーザさんの公平なぶっきらぼうさはまぶしく、憧れの対象ですらある。

日本からブラジルに仕事にやってくる会社の、ブラジル側コーディネーターがルイーザさんの仕事だ。年齢は40代半ばというところだろう。ブラジル 特有の強い紫外線にずっと無頓着だったことをうかがわせる肌に化粧っ気なし、実用的な理由だけで束ねられた髪の毛、挨拶本来の効用みたいなものは全廃され た投げつけるような「はじめまして」、「こんにちは」などなど。文句なしに有能なひとなのだが、いやもしかしたらそれだけ自分の能力に自信があるからなの か、とにかく、仕事相手とまずはよい人間関係を作ろう、などという心遣い《小細工?》は一切ない。

コーディネータールイーザの優秀性の基本は、日本語とポルトガル語をほとんど同じレベルで操れることにある。父親が戦後の日本人移民、母親は日系 二世の二世だという。家では日本語、学校でポルトガル語という環境に育ったのではないかと思うが、だからといって自然にバイリンガルになりましたというも のではもちろんない。それは他の二世の人たちを見ていればわかる。二言語習得の背後には相当な努力があったに違いない。日本語は、まったく癖もなく自然 だ。日本のどこかでルイーザさんと出会っていれば、ポルトガル語が得意な日本人だと感心することになっただろう。

それでも私には、どこかでルイーザさんは日系二世だという意識があったようだ。ブラジル日系社会で生活している日本人が、最近難しい言葉を忘れた よ、などと笑い話にすることがある。日常会話は普通にできても、会話ではあまり出てこない漢語になるとまったく知らない二世、三世は多い。だからいつの間 にか、しゃべる前にできるだけやさしい言い回しに翻訳するのが習い性になるのだ。そんな「配慮」を、ルイーザさんに対してもしていたものとみえる。

サンパウロに着いたばかりの日本人ビジネスマンふたりと4人で食事をしていたときのことだった。

「彼はローセイしたタイプなのよ」

その場で話題にしていた人物を評したルイーザさんの言葉だったが、一瞬反応が遅れた。ローセイ??・・ろう・せい?・・老成。使い慣れない言葉使っ てみるときの日本人得意の、尻上がりの調子もなしに出てくると、頼まれもしないのに簡単な日本語モードに切り替わっていた頭の中には素直に入ってこない。 一呼吸おいて、テーブルを挟んだほかのふたりと目が合った。どうやらふたりも同じような「配慮」をしていたようだ。私と同じようなばつの悪さを感じていた のだろうか。

その時ルイーザさんはもしかしたら、してやったり、という表情だったかもしれないと後になって考えたのは、その後いっしょに仕事をしたルイーザさん が、百戦錬磨の人だとわかったからだ。余計な配慮が要らないことをビジネスパートナーに知らせる、一番簡単で効果的な方法が、この時はローセイだったのか もしれない。ルイーザさんのぶっきらぼうは、ひょっとするとこんな配慮に満ちた日本人たちへの苛立ちが募った結果かもしれないと思えてくる。会話の中にぽ んっと投げ込まれたこの二字熟語には、いろいろ考えさせられた。

さて、ルイーザさんは、第一印象とは正反対の、実際にはとても魅力的な人だった。というのはたぶん最初から十分予想の付いた結末だろうから、そこに至るま でをくどくど記すことはしない。第一印象の悪い人というのはだいたいそうしたものだ。そしていったん第一印象の悪さが克服されて理解がはじまると、当初の とっつきの悪さが逆にその人の奥深さのようなものに見えてくる。八方美人には羨ましいところだ。

ルイーザさんとだんだん打ち解けて会話できるようになって聞かせてもらった話は、どれも興味深かった。それは私が、それまで年配者以外の二世の人と 直接ちゃんと話したことがなかったせいもありそうだ。自身も二世であるルイーザさんのブラジル日系二世観はなかでも新鮮だった。ひとまずここでそれを紹介 しておいて、次回でその先に話を進めてみたい。

「私に言わせれば、二世というのはひとつの種族のようなものですね」

ルイーザさんは戦後生まれの二世ということになる。ブラジル日本移民は1908年からはじまっているわけだから、ブラジル日系社会のなかでルイーザ さんの同世代となれば、二世だけではなく、三世、四世もたくさんいることになる。ルイーザさんの日系社会での付き合いも、当然三世、四世の人が多く含まれ る。しかし二世同士の付き合いには、彼らとの付き合いとはまた別種の趣があるという。そこには三世、四世とは違った気持ちの通じ合いがあるのだという。そ の独特の親近感を表現するために選んだ言葉が、同じ「種族」ということらしい。

「だからつまり、同世代の三世よりも、戦前生まれでずっと年長の二世の方が、ずっと近い感じがするんです」

ルーザさんの話は、それまで戦前生まれの二世との付き合いの中で私が感じていた、ちょっとしたひっかかりを解くヒントになりそうな気がした。

© 2009 Fumihito Haga