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ベリナ・ハス・ヒューストン~自らをアメラジアンと呼ぶ日系2世の劇作家 -その2

>>その1

アメリカ人とアジア人の親をもつ子どもとして

戦争花嫁の子どもであるベリナ自身も、様々な差別に遭遇している。沖縄出身の日系移民から「あなたのお母さんは売春婦だった」と言われたこと、学校での優秀な成績を学校側が認めたがらないことなど。アメリカは彼女を日本の子と見なし、日本はアメリカの子と見なす。でも、彼女は、そうした両方の存在であるがゆえに、アメリカの持つ独立心の感覚と日本人が持つ集団やコミュニティの感覚の両方をうまく融合することを学び、新しい考え方を創造している、と自分の立場をポジティブにとらえている。

サンフランシスコにあるアジア系アメリカ・メディアセンター(CAAM)が1993年に配給したドキュメンタリー作品、「Do 2 Halves Really Make a Whole?(半分2つを足して本当に全体になるのか)」で、出演者の一人であるベリナは、こんな話をしている。

よく思い出すことがあります。4歳のとき、ある日台所に行って、父に聞いたんです。「なぜパパはチョコレートで、ママはバニラなの?」。すると父は家を出て、お店でアイスクリームを買ってきました。父は、まず茶色のアイスクリームをスプーンですくって、これが黒人だった自分のお父さんだといいました。それからストロベリーを一すくいして、これがネイティブ・アメリカンだった自分のお母さん。その後バニラをすくって、これが日本人の君のお母さんだと。その後3つを混ぜて、これが君なんだよ。これをもとの3つにわけることができるかいって。もちろんできるわけがありませんが、これが自分のアイデンティティについての非常にわかりやすい父の教えでした。その教えは今でも生きています。

混ざったアイスクリームを分けることはできない。だから、彼女は、ジャパニーズ・アメリカンとかアジアン・アメリカン、アフロ・ジャパニーズといった2つに分けられる言葉よりも、アメラジアン(アメリカンとアジアンを組み合わせた合成語)という分けられない言葉で自分の存在を規定することを好んでいる。彼女の「Green Tea Girl in Orange Pekoe Country (オレンジペコ茶の国の緑茶娘)」という詩は、まさに彼女のそんな気持ちを詠んだ作品だ。アメラジアンとしての自覚と、アメリカ社会で生きていく困難さ、心を癒してくれる緑茶への想いが強く表現されている。以下、拙訳。

澄んだ液体が細かなお茶の葉に注がれる
一歳の眼が儀式を観るように
陶器を浸していく
食卓にはオコノミヤキ 皮を向いた桃 ご飯
オツケモノと移民の夢
アイボリーホワイトの日本人の母が
これらの夢の向こうにいる
シナモン色のアメラジアンの子どもを見つめている

湯飲みの用意はできている 気持ちの用意もできている
緑茶は文化の規律
茶さじの予防薬のなかへ
幼い子どもの口のなかへ
生命がはじまったお腹の中深くへ
そして彼女は生きる 日本人として 深く
玄関の靴 瀬戸際にある心
浴衣は寄木細工の床を引きずっている
使われていないフォークの隣にあるピンクの箸

戦前の四国のように静かな家は
お茶と時間の聖域
生きる希望の砦
アメラジアンの生活の象徴
彼女は玉露を飲んで育つ
ガマンシテクダサイ ガマンシテクダサイ
そう、彼女は我慢する でも私たちに訊く
西洋世界で東洋の優美さはどうなる

砦の外に緑茶はない
小さな桃は簡単に腐る
靴は掃除機のように通りに足跡をつけ
腐敗物をアメリカの家庭に持ち込む
ティーは黒くて苦い 
砂糖を入れれば甘くなるが
歯も手も汚れる
カップはペコ茶の匂いを放っている
私はどうなる 私は

オレンジペコ茶の国が外で大きな音を立てている
場違いの ほろ苦い アメラジアンは立ち向かう
ミルクと蜂蜜の国にいる緑茶娘
細かなお茶の葉が入っていないティーバッグ
彼女は色の濃いティーを飲むことを学ぶ
苦い真実を甘くするものはない
彼女は生きるために違うガマンを学ぶ
心がこぶしの中に入ったこの国で

でもこの国は彼女の国だろうか 彼らはこの国を彼らの国と呼ぶ
あるとき彼女はジャップで 家がない
あるときはニガーで やはり家がない
生きる情熱は 彼女の中に 川のように流れている
そして生活は ひとつの時代になり 政治力学になる
国は地上の混乱にすぎない
でも緑茶は静かに彼女を待っている
そして腹の中に深く沈みゆき
忍耐を養っている ガマン ガマン
          (amerasia journal 23:1 1997より)

その3>>

*本稿は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」 のコラムシリーズ『二つの国の視点から』第7回目に加筆したものです。 

© 2009 Association Press and Tatsuya Sudo

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About this series

There are approximately 3 million Japanese people living overseas, of which approximately 1 million are said to be in the United States. Japanese people in the United States, which began in the latter half of the 19th century, have at times been at the mercy of bilateral relations, but through their two cultures, they have come to have a unique perspective as Japanese people. What can we learn from these people who have lived between Japan and the United States? We explore the new worldview that emerges from the perspectives of the two countries they hold.

*This series is reprinted from Renso Publishing 's web magazine "Kaze," which features information about new books, such as articles linking new books to current issues and daily topics, monthly bestsellers, and columns reviewing new books.

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About the Author

Lecturer at Kanda University of International Studies. Born in Aichi Prefecture in 1959. Graduated from the Faculty of Foreign Studies at Sophia University in 1981. Graduated from Temple University Graduate School in 1994. Worked at the International Cooperation Service Center from 1981 to 1984. Lived in the United States from 1984 to 1985, and developed an interest in Japanese-American films and theater. Has been involved in English education since 1985, and currently lectures at Kanda University of International Studies. Since 1999, has presided over the Asian American Studies Group, holding study meetings several times a year in Tokyo. His hobbies are rakugo and ukulele.

(Updated October 2009)

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