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青年活動から生まれた文芸誌『怒濤』-その4/5

>>その3

4.『怒濤』の内容

これは機関誌という性格から、青年団の活動報告などが多数掲載されていると考えられるが、そのような記事は少ない。野球が創刊号と第2号に、相撲大会の結果が第2号に、各部の行事は創刊号、第2号、第5号で扱われているが毎号載っているわけではない。スポーツ大会の結果は週一回発行の新聞紙上に掲載されたため、ニュース性の少ない機関誌には載らなかったのであろう。

特徴としては青年たちを啓蒙する記事が多く掲載されている。安芸良「結婚と出産とキャンプ生活」(創刊号)、丸山郁雄「戦時体制下の日本」(創刊号)、「組合への再認識」(第2号)、「戦争への回顧」(第5号)、萩原卓也「国史教育への一考察」(第3号)、土屋天眠「現代の青年のために」(第3号)、くすのせ「戦争と科学」(第4号)、「坂本竜馬」(第4号から第7号で完結、無記名だか藤田晃の作品)、安芸良「キャンプの実数的興味」(第5号)、玉那覇晃洋「人間親鸞」(第6号)、池本覚「シオン議定書」(第7号)などで、いずれも日本人が身につけておくべき教養として掲載されたものである。「坂本竜馬」は所内の映画会で上映されて人気があったため書かれたものであろう。

しかしこれらの啓蒙記事をしのぐ数の随筆、短詩型文学、小説など文学作品が掲載されていて文学誌と見まちがうほどである。藤田・橋本の二人の文学青年は、機関誌の名を借りて、実は文学誌を作りたかったのではないかと思われる。文学をめざした人びとは『鉄柵』同人となって創作に励んでいたが、『鉄柵』に遅れること半年で創刊された『怒濤』にも同様に多くの創作が掲載されている。ただし、『鉄柵』同人のように質の高い文学を生み出そうと努力して、水準の合わない作品の掲載を断ったり、合評会などがあったわけではない。投稿された作品はすべて採用された。編集担当の二人は各分野で力作を載せている。『怒濤』は編集者二人の大奮闘によって支えられていたといって過言ではない。

藤田には、小説「汽車の中」(創刊号)、「Mと私」(第2号)、「母と子」(第3号)、「或る環境」(第6号)、「影と蔭」(第7号)および戯曲「甦る家族」(第5号)がある。さらに菅井良のペンネームで、詩「成長」(創刊号)を書いた。無記名だが「映画雑記」(第4号)、「映画談義」(第5号)も映画評論を得意とする藤田の記事であると推測される。

「汽車の中」は、勉学のために収容所を出た記代という若い女性が休暇で収容所へ戻る車中の心理を描いた小説である。彼女は収容所では健全な生活が送れないと確信して外部へ出る。しかし外部の生活を経験したあとで、文明に依存して自然を破壊するのがアメリカ社会であると悟る。以前に訪れた日本の社会は自然と調和した美しいところであった。彼女は両者を比較して、日本の自然の美しさに惹かれる自分には日本人の血が流れているのだと自覚する。藤田は、この中で二世は日本人として生きるべきだと主張している。ひとつの文が長く複雑でたいへん読みにくく表現の稚拙さが目立つが、創作にひたむきに取り組む藤田の姿勢がよく表れている。第3号の「母と子」では、同じ記代という女性が休暇で帰宅したときの母との交流を描いている。ここでは「汽車の中」で見られるような生硬さはなく、娘を案じる母の気持や外部への就学を希望しながら姉のためにその希望を果たせないでいる妹への思いやりなどを自然な会話を通じて描いている。まだ習作の域を出ていないが、創刊号に比べると努力のあとが見える。

橋本京詩は、巻頭言(創刊号)に始まり、小説「お姉さん」(第2号)、「邂逅」(第3号)、「霧の中に消えた男」(第5号)、短詩型文学では創刊号と第7号に短歌、創刊号・第2号・第3号・第4号・第7号に川柳を載せている。また、いくつかのペンネームを使い分けて多くの作品を書いている。それらを列挙すると樹立繁の名で短歌「鷗乃物語」(第5号)、詩「その男」(第6号)、水上総吾の名で短歌「月明抄」(第6号)、紺屋川幸作の名で随筆「川柳を始めた動機」(第2号)、読書感想「『一握の砂』を読みて」(第3号)、となる。さらに創刊号から第7号までの表紙の絵を担当して多彩ぶりを発揮している。彼は自分の持つエネルギーを最大限に発揮して、楽しみながら創作していたようである。

「お姉さん」は、アメリカで収容所にはいっている弟が紆余曲折を経て日本にいる兄の妻に会うという話で、自分にも姉がいるのだという喜びと姉を慕う気持ちを率直に書いている。「邂逅」は、帰米して日本語学校の教師をしていた主人公がある反抗的な教え子を叱ったことから解雇される。その後収容所でこの教え子の女性と再会し、その不幸で孤独な生活に同情し、淡い恋心を抱くというストーリーである。いずれも文学青年らしいセンチメンタルな作品である。

その他小説では、『若人』で大いに活躍した帰米二世の伊藤正も「この道を行く」(創刊号、第2号)を載せているが、その後、おもに『鉄柵』へ作品を出すようになった。「この道を行く」は、ハワイ生まれの帰米二世がアメリカ軍兵士として出征するまでの心の葛藤を描いた小説で、生まじめな伊藤らしさが表れた作品である。

その5>>

* 篠田左多江・山本岩夫共編著 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

© 1998 Fuji Shippan

About this series

Many Japanese-language magazines for Japanese Americans were lost during the chaotic times of war and the postwar period, and were discarded because their successors could not understand Japanese. In this column, we will introduce annotations of magazines included in the collection of Japanese-American literary magazines, such as "Shukaku," a magazine that was called a phantom magazine because only the name was known and the actual magazine could not be found, as well as internment camp magazines that were missing from American records because they were Japanese-language magazines, and literary magazines that were also included by postwar immigrants.

All of these valuable literary magazines are not stored in libraries or elsewhere, but were borrowed from private collections and were completed with the cooperation of many Japanese-American writers.

*Reprinted from Shinoda Satae and Yamamoto Iwao, Studies on Japanese American Literary Magazines: Focusing on Japanese Language Magazines (Fuji Publishing, 1998).

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About the Author

Professor at the Faculty of Humanities, Tokyo Kasei University. Graduated from the Graduate School of Japan Women's University. Specializes in Japanese-American history and literature. Major works: Co-edited and authored "Collection of Japanese American Literary Magazines," co-authored "Japanese Culture in North and South America" ​​(Jinbun Shoin, 2007), co-translated "Japanese-Americans and Globalization" (Jinbun Shoin, 2006), co-translated "Yuri Kochiyama Memoirs" (Sairyusha, 2010), and others.

(Updated February 2011)

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