移民を授業する -日系アメリカ人学習活動の手引き-

現代は,「移民の時代」とも呼ばれています。国連人口部によれば,世界中で国境を越えて移動する人々は,2005年には1 億9,100万人に達し,地球上で自国以外に住んでいると推計される人口は世界の人口の30人に1人の割合になってきています。このようなグローバルな人の移動の増大は,一方で一国内の多民族化・多文化化を生み出しています。

 このような移民の加速化の動きは,日本においても顕著になってきています。2005年末の我が国の外国人登録者数は約201万人となり,初めて200万人を突破し,総人口の1.57%に達しています。一方,逆の視点から見ると,日本もつい半世紀前までは移民の送り出し国でした。日本は,開国早々の百数十年前,ハワイや北米に多くの移民を送りました。その後も,中南米,東南アジア,中国大陸等へと多くの日本人が移住しました。戦後も,農村の次三男問題の中で,自己の潜在能力を広く海外に求めた青年の移住が続き,そのような歴史的経緯の中で,現在も250万人以上の日系人が海外に生活しています。

 しかし,これまで日本の学校教育において,日本から海外に出ていった日本人移民や,日本に移民してきた外国人の歴史的経験や現状について,これまで教科書を始め授業の中で十分に取り上げられてきませんでした。近代日本の黎明期に多くの日本人が海外に移民した事実,彼らとその子孫の現地での苦労や貢献,文化や現状,そして現在日本にリターン移民してきている日系人の現状や問題を立場を変えて共感的に学ぶことは,グローバル化と多文化化が連動して進行するこれからの社会を生きる子どもたちにとって「共生」に向けての資質を養う上で意義があると考えます。

 今後,世界の移民人口はますます増加すると予想されています。このような地球的規模で相互依存を増しつつある21世紀の世界の中で,グローバルな価値の実現をめざして行動できる地球市民としての資質に加え,多文化社会の中で異なる文化を受容し,尊重し,それとの共生に向けて行動できる市民としての資質の育成の両方が求められています。「移民」についての学習は,ヒトの国境を越えたグローバルな移動とそれに伴う世界的な規模での相互依存関係と,一国内における多文化の共生をつなげて考える格好のテーマです。

 また,歴史的に移民は移住先において「他者」として絶えず自由,平等,公正と行った基本的人権の脅威にさらされてきました。その意味で,移民についての学習は,今日の多文化社会における人権や市民権のあり方といった民主主義の基本原理を学ぶシティズンシップ教育の格好の機会ともなりえます。さらに,移民文化の特色は,複数の文化が接触,混交して形成される「ハイブリディティ(異種混淆性)」で
す。移民についての学習は,ある国(民族)やその文化を本質的なステレオタイプとしてとらえることが多かった従来の国際理解教育(異文化理解教育)に対して,文化の可変性や混淆性といったダイナミックで批判的な視点を提供してくれます。

 本冊子では,以上のような移民学習の意義を踏まえて構想,実践された小・中・高等学校の学習活動案と教師の教材研究に役立つさまざまな資料を掲載しました。特に,本研究会では学習者が興味を持って学習に取り組めるように,移民学習に活用できるさまざまなモノを集めたアウトリーチ教材「ニッケイ移民トランク」を開発しました。本冊子と「ニッケイ移民トランク」が,日系移民についての授業づくりを計画されている先生方のお役に立てれば幸いです。

多文化社会米国理解教育研究会
代表 森茂岳雄

発  行  
多文化社会米国理解教育研究会
〒192-0393 東京都八王子市東中野742-1
中央大学文学部 森茂岳雄研究室気付    

発行年月  2007 年3 月

*本手引き書は、国際交流基金日米センター(CGP)の助成を受けて研究した成果を刊行したものである。

添付書類:

はじめに -移民を授業する- - 1.2 MB
日系アメリカ人の歩みをたどる - 1.3 MB
コラム - 756.7 KB
日系アメリカ人の経験に学ぶ -インタビューから- - 964.0 KB
授業づくりに役立てる - 1.0 MB

授業案のタイトル 対象学年
小学校1: Let's 盆ダンス
盆ダンスという海の向こうにある日本文化に触 れることで生まれる問いに対する答えを見つけようとすることで,身近にある盆踊りの起源や使われているものに対する理解が深まる。このように異文化に触れることによって自分たちの文化が継承される中で忘れてきたものに気づき,自分たちの文化を見つめ直すことや自分たちの文化を尊重していく姿勢を持つことが期待できる。
K-4
5-8
小学校2: ハワイで暮らす日系人から見た第二次世界大戦
 第二次世界大戦については,戦争に向かった背景,戦争の激化,それにともなう人々の生活の変化,原爆投下から終戦という流れで学習が進む。また,身近な人へのインタビューや資料館などの活用が学習活動の中に取りいれられることが多い。本単元ではこれらの活動を取りいれることも考慮しながら,発展的な学習として取り組めるように配慮した。
5-8
小学校3: ブックトーク:日系アメリカ人の経験を読もう
本学習活動は文学作品を読むことを通して日系アメリカ人の歴史的経験を知り,また登場人物の心情に迫ることで共感的な理解を深めることを目的としている。国語科学習において,戦争をテーマにした文学教材を扱う学習活動の発展学習として本活動を位置づけ,戦争中の日系アメリカ人の様子や人々の生活について読み深めることができる。 また,「図書紹介」などの読書活動を広げる学習の一環でブックトークとして本活動を位置づけることもできる。その他,社会科学習において第二次世界大戦に関する学習や日本と関係の深い国々に関する学習の発展として取り組むこともできる。このような国語科や社会科における既存の学習単元を横断的に再編し,総合的な学習の時間と関連づけて単元として設定することも可能である。
5-8
中学校1: 日系アメリカ人の歴史と市民権から学ぶ -多様な人々が暮らすハワイから-
本単元は,今後ますますグローバル化と多文化化が進行していく社会の中で,私たちはどのような方法で,どんな社会をつくっていくのか,ハワイという多様な人々が共に暮らす社会から学ぶものである。教科領域としては,地理・歴史・公民的分野にわたって多様な学習活動が展開できる「選択社会」がふさわしい。
5-8
中学校2 太平洋戦争とは何だったのか? -日系人の視点から考えよう-
日本軍による真珠湾への攻撃が開始されるまでの間,日米両国ではぎりぎりの和平交渉が展開されていた。1941年4月ワシントンで日本の野村吉三郎,米のハル国務長官との交渉が始まるが,同年7 月28 日,日本陸軍のベトナム南部への侵攻の情報が入ると状況は急転する。8 月1 日ルーズベルト大統領は対日石油の禁輸を決定し,大東亜共栄圏構想を掲げる日本の中国・東南アジアへの侵攻はさらに激しくなり,日本国内は準戦体制へと一気に加速していく。10月18日に発足した東条英機内閣は,アメリカからの最終和平交渉案(いわゆるハル・ノート)を黙殺し,山本五十六率いる連合艦隊をハワイへと出港させる。そしてアメリカとの開戦はもはや不可避との判断が下され,1941 年12 月8 日,日本軍は真珠湾の攻撃を開始した。まさにこの瞬間こそ太平洋戦争の勃発であり,その後アメリカ政府が日本軍の攻撃の不当性を国際社会に訴え,宣戦布告がなされることになる。太平洋戦争幕開けの舞台となったハワイには ...
5-8
中学校3 日系移民について考える -日本の伝統が残る,あなたの知らないハワイ-
本単元は,日系移民や日系アメリカ人の存在を知るとともに,かれらの歴史や文化について生徒が興味をもって学習に取り組み,アメリカ社会に生きる日本文化や移民に対する人権や差別についての理解を深めるような学習単元や教材を開発することを目的としている。
5-8
高等学校1 グローバル化と移民 -日系人の体験を通して-
本単元を設定するに当たっては,以下の諸点に着目する。 (1) 19世紀後半以降,日本を含めたアジア諸国は,欧米諸国を中核とする世界システムに組 み込まれ(世界の一体化),従属国化や植民地化され自国民を移民として世界の労働市場 に供給することになった(華僑,印僑など)。本単元は,日系人に焦点を当てて,これまで中学校社会科歴史的分野や高校地歴科世界史の授業であまり取り上げられてこなかった移民・移住を通して近代世界や現代世界の仕組みや特徴を明らかにする。 (2) ハワイを事例として,移住先でのライフヒストリー(労働,生活,戦争体験)を取り上げ,彼 らが新しい土地にどのように迎えられ定着していったのか,また日系人としてのアイデンティティを保持しつつ,その国の市民としてどのような貢献を果たしたのかを明らかにする。 (3) サトウキビやパイナップルなどを栽培したプランテーションでの労働や生活の様子,第二次世界大戦下の日系人の体験 ...
9-12
高等学校2 レシテーション活動 -ニッケイの人たちのことば-
本単元ではレシテーションとノート取りを同じ教材を理解するための一連の作業として行い,能動的な語り手と聞き手双方のスキル体得を目指す。さらにコミュニケーションをより実践的にするために,クラス内の生徒と活動を行う。そして生徒同士に評価の一部も担ってもらう(ピア・エバリュエーション)。また生徒間の実力に差があっても同じ作業を行うことができるように難易度が違う二つの教材を用意した。
9-12
大学 海を渡る日系人 -グローバル化と移民-
 本授業案は,大学における「日系人論」の講 義15回を行った実践をもとにして作成した。日 系人とはどのような人びとを示し,日系人の歴史的経験について学ぶ事は私たちにどのような関係があるのかを考えるオリエンテーションから始め,(1)北米日系人史をたどる (2)第二次世界大戦時における日系人の経験を理解する (3)南米日系人史をたどる (4)現在の日系人 (5)在日日系人の実際 (6)資料館見学という構成で授業を展開する。
undergraduate

Lessons in this unit cover the following:

対象学年:

K-4, 5-8, 9-12, undergraduate

言語:

Japanese

ニッケイヒーロー:私たちの模範となり、誇りを与えてくれる人

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