インタビュー:キップ・フルベック

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キップ・フルベックは、1965年、中国人の母とイギリス・アイリッシュ系の父の元に生まれました。

このアルバムでは、2006年5月3日に行われたインタビューから19このクリップを紹介します。(略歴を含む)

1. 幼少時から自分のアイデンティティを意識

2. アートを通して見つけた共通点

3. アジア系アメリカ人として中国系の名前を使うことを拒否

4. ハパ・プロジェクト

5. 特有性の認識

6. ハパ・プロジェクトを通してみる認識の変化

7. 『あなたは何ですか?』の質問に答えることの難しさ

8. ハパ・プロジェクトで学んだこと 

9. 性別によるハパ・プロジェクトに対する反応の違い

10. 意識的プロセスとしてのアイデンティティ 

11. 日系アメリカ人が持つ「ハパ」としての意識の高さ

12. 自分にとって最も重要なアイデンティティ-「ハパ」

13. 他人にレッテルを貼られることの不快さ

14. 「ハパ」アイデンティティの国際的側面 

15. アメリカ国外でのアイデンティティに関する問題

16. 他人にアイデンティティを強要

17. 「アイデンティティ芸術」にみる変化

18. 自分が誰であるかを主張する権利

19. 「ハパ」の定義

* このインタビューは、ディスカバーニッケイのインタビューセクションへもアップされています。

Slides in this album 

幼少時から自分のアイデンティティを意識

随分小さい頃から(アイデンティティについて)意識していました。ここ(ロサンゼルスのダウンタウン)から30分位のところにある Covinaで育ちましたからね。家族はニューヨーク出身のイギリス・アイリッシュ系である父を除き、全員が中国から来た中国人です。私の姉も兄も中国出 身の純粋な中国人ですし、いとこ達も全員そうです。家族中で父の子のハパ(混血)は私だけです。ですから、自分の意識の中では、私はいつも白人でした。中 国語も話さないし普通のアメリカ人の子供と変わらないと思っていました。でもあれは5歳の時だったでしょうか。初めて幼稚園に行った日のことです。当時白 人が集中する地域に住んでいたのですが、(幼稚園に)足を踏み入れた瞬間「うわ、ここはボクの居場所じゃない。学校中で(肌の色が)茶色い子はボクだけ じゃないか」と思ったんです。この時私はこのようなこと、即ち見かけや外見が周りの人達にとってはとても大きなことなのだと知りました。

Kip Fulbeck Interview #1: Early consciousness of identity
提供: editor

アートを通して見つけた共通点

どんなアーティストもエゴイストなところがあって、「自分達がやっていることは凄く重要で、誰もが自分達に耳を傾けるべきだ。」といった 気持ちがあるのではないでしょうか。その反面「自分の芸術は独りよがりなのか?」と感じる時もあると思います。。ただ、私がいつも感じることは、自分の個 人的な経験を、より細かく堀り下げて表現すればするほど、より多くの人達が彼らの人生と私の人生に共通項を見出してくれるんです。これは学ぶべき重要な教 訓でした。実は、今までもらった数少ないファンレターで、今も取ってある手紙があるんです。この近くのサンタモニカにあるHighways Spaceでパフォーマンスをした際、そのパフォーマンスを見たある男性が書いてくれたんです。それには「あなたが南カリフォルニアでハパとして育ったこ とが、私がテキサスでゲイとして育ったこととあまりに似ているので驚きました!」と書いてあったんです。これは凄い褒め言葉だと思いました。私達の間に何 らかの類似点があったという意味ですからね。これがまさに私のやろうとしていることなんです。

Kip Fulbeck Interview #2: Finding parallels through art
提供: editor

アジア系アメリカ人として中国系の名前を使うことを拒否

私は、自分がなりたいともう姿でいることができたらと思うんです。先ほどお話ししたすごく尊敬しているアーティスト達は、仲間でもあり同 僚でもあるのでとても親近感を覚えます。みんな同じような苦労をしてきましたからね。ただ私の場合は、ハパとして、アジア系アメリカ人としての自分を確立 していかなければなりませんでした。そんなことが必要だとは思いませんでしたが。学生時代、私はAPSA (Asian Pacific Student Association)のメンバーだったので、アジア系アメリカ人が(一般的に)することは一通りやってきました。お盆祭りに行ったり、ハワイに住んで 色々なことをしたり、日本に行ったり、中国に行ったりとね。アジア系アメリカ人であることにすごく良い感情を抱いていたんです。でも最初の映画を撮った時 のことです。応募したいくつかのフェスティバルでは選出されましたが、アジア系アメリカ人のフィルム・フェスティバルでは落選したことがありました。その 組織で働いている人と話したところ彼に「そうだねえキップ、本当に採用されたかったら中国名を使った方がいいよ。ほら何て言うの・・・そのことが採用され なかった理由じゃないだろうけど、“キップ・フルベック”っていう名前を見るとすごくWASP1的な感じじゃない?」と言われたん です。「お母さんのミドルネームとか姓を自分のミドルネームとして使ったらどう?」とね。私は多くの同僚がそうしていたのを知っています。作家、俳優、 ニュースキャスターの多くもそうです。でも私はちょっと気取った感じがするので、敢えてそうしませんでした。少なくとも今はある程度知名度も上がり、アー ティストとして自分を確立することができたため、そんなことをする(中国名を使う)必要も無いので、良かったと思います。

注釈1: ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント (White Anglo-Saxon Protestant) の頭文字をとった略語 

Kip Fulbeck Interview #3: Refusing to use a Chinese name to identify as Asian American
提供: editor

ハパ・プロジェクト

ハパ・プロジェクトは約10年前に考えついたアイディアで、自分と似たような経験をした人達を写真に収めようというものです。プロジェク トを通して自分にとってもっと居心地のよい場所が見つけられるかどうかやってみたかったんです。ある意味私のわがままな動機で始まったわけですが…自分と 同じ境遇の人を見つけたいと思ったのです。(ハパについて)すでに映画を撮ったり本を書いたりしてきましたが、どういう手法ならこれが実現できるかを長い 間考えていたんです。そこで私が実際によく聞かれる「What are you (あなたは何ですか)?」という質問をして、他の人達だったらどう答えるのか試してみる事を思いついたのです。その人なりのやり方で(質問に)答えてもら う、言葉だけでなく彼等自身の手書きでね。こうしてハパ・・・ハパという言葉自体スラングで色々な定義が出来ると思いますが・・・ハパ達の写真を撮るとい うアイディアが生まれました。真正面で鎖骨から上の姿、アクセサリー、服、化粧、表情はなしの素顔のままの彼等を写真に収めました。私達は自分達が何者で あるかと言うことを、常に証明しなくてはならない世界に住んでいます。運転免許、パスポート、学生証など…。自分が(証明書の)本人で何者であるかの証明 なしには、キャンパスの何処にも行けません。だからそれを証明するためにこういった写真を持ち歩いているわけです。そこで思いついたんです。(自分が何者 であるかを証明する)権利を彼ら自身に与えてみようとね。「こっちに来て写真を撮ろう!自分で好きな1枚を選んで、『What are you?』という質問にあなたの答えを書いてみよう。そこから始めてみようじゃないか。」これが大きな展示や本になったんです。

Kip Fulbeck Interview #4: The Hapa Project
提供: editor

特有性の認識

ハパ・プロジェクトで、面白い話があるんです。他の人種と接することの少ない地域から来た人の話なんですけど、オクラホマから手紙を送っ てくれた女性がいたんです。その手紙には、「オクラホマに来て私の写真をこの(プロジェクトの)為に絶対撮るべきだわ!信じられないかもしれないけど、私 は黒人と韓国人(のハパ)なの!」と書いてあったんです。私は何と言っていいかわかりませんでした。きっと彼女は小さな世界に住んでいて、自分のような人 は世界でたった1人しかいないと思っていたのでしょう。ある意味でそれは素晴らしいことですが…。彼女に返事をしなくてはならなかったので「あなたの写真 を撮りたい気持ちはあるのですが、そちらに伺う事は出来そうにありません。またブラック・コリアン(韓国系の黒人)の人はこれまでに50人位撮影してきま した。そして…。他にもまだ(あなたと同じ様な人が)沢山いますよ。」と書いたんです。私としては前向きな感じで伝えたかったのですが、彼女は恐らく自分 は『マトリックス』のキアヌ・リーブスのような「選ばれし者」でないと感じてしまったのでしょうね、それから2度と返事は来ませんでした。

Kip Fulbeck Interview #5: Perceptions of uniqueness
提供: editor

ハパ・プロジェクトを通してみる認識の変化

このプロジェクトによって、ハパに対するありがちな神話が払拭されればと願っています。「hybrid vigor(雑種強勢)」または「ハパってみんなきれいでいいね。すべてが薔薇色でしょ?有名なモデルや俳優を見てごらんよ。わあ、キアヌ・リーブスって 本当に格好いい!」というような神話がすこしでも払拭されればと願っています。(ハパといっても)様々な年齢、民族、体系の人がいて、外見は皆それぞれ本 当に違うのですから。また同時に、みんなに自らのアイデンティティを形成する機会を与えたかったんです。このプロジェクトをきっかけに、参加するモデル達 にアイデンティティを確立させ、どれだけひとりひとりに違いがあるかを見せようとしているんです。違いを誇れるようにしたいですし、「Ainoko」や 「hybrid(混血)」「half-breed(ハーフ)」更には形式的には正しいのですが「アメラジア人」といったようなあまり良い意味をもたない言 葉にも抗議したいんです。(アメラジア人って)75年代のベトナム戦争後のような感じじゃないですか?そういった意味合いでドキュメンタリーでも使われて きましたしね。「ハパ」という言葉も、もともとはハワイで人をからかうような言葉として使われていたんです。みんなに自分達が何者であるかを自分の言葉で 言えるようになり、良い意味合いをもたない言葉には抗議し、違いを誇れる場があって欲しいんです。

Kip Fulbeck Interview #6: Defusing myths through The Hapa Project
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『あなたは何ですか?』の質問に答えることの難しさ

(作品モデルの)人達が部屋に入って座り、私が写真を5枚、10枚、15枚と撮ります。そして写真を見てもらい一番気に入ったものを選ん でもらいます。彼らが席に着いたところで7×7インチの紙とペンを渡し尋ねます「ではこの質問に答えて下さい『What are you(あなたは何ですか)?』」とね。中には撮影の際に8ページの手書きの文章を持ってくる人もいました。私は「これはちょっと受け取れません。このス ペースに収まる量じゃないとダメなんです。それはご自分の本用に使ってください。」とお断りしましたが。また中には座ったあと、書いては紙を丸め、また書 いては紙を丸めという人もいました。あと、これはある女の子をLAのBrentwoodで撮影した時ですけど、紙とペンを持ったまま3時間座ったきり動か なかったんです。彼女のボーイフレンドも一緒に座っていて・・・なかなか礼儀正しい青年でしたよ。私は彼女へ「何でもいいから書いてみて。もっと紙をあげ るから。とりあえず書き始めないと・・・」と言うと「いいです、いいです、大丈夫ですから。」と言うのです。それから1時間後、様子を見に戻ってくると、 やはり何も書いていない。さすがにボーイフレンドも帰っていました。そのまま私は撮影を続け…そして撮影が終わり片づけを始め、(撮影の)セットも全て片 付けた後…彼女に「私もう行かなくちゃ。」と言いました。すると彼女は私を見て「私には出来ない!」と言いペンを投げだし帰ってしまったんです。そこで私 が気づいたことは、ある人は今までこうしたことについて一度も考えたことがなく、またある人はこれまでにもかなり考えてきたんだなということです。この質 問に答える事は幼少の頃の苦い経験を沢山思い出したり、過去のある記憶が蘇ったりするのだと。自分が何であるかと実際に定義することはそれほど強烈なもの なんです。

Kip Fulbeck Interview #7: Difficulty responding to the question "What are you?"
提供: editor

ハパ・プロジェクトで学んだこと

(ハパプロジェクトへの)全体的な反響は凄く良かったです。私にとって素晴らしい経験となりましたし、大事な事を教えられもしました。そ れは、私もみんなと同様に自分と違うタイプの人達と一緒にいることを怖がっているということでした。私の友達に同性愛者嫌いの人は一人もいませんし、女性 の選択の権利(妊娠中絶など)に反対する人もいません。また人種差別をする人もいませんし、ブッシュ大統領に投票する人も一人もいません!これが私の悪い ところなんです。いつも自分と同じような人にしか囲まれていない。全然良くないことですよね!ある時私宛に(日系人の)収容所について書いてきた男性がい ました。その文には「私達の両親の多くは収容所から出た後過剰に反応し、私達に日本語や日本文化を教えてくれませんでした。」とあったのです。これには ビックリしましたよ。こういうものの見方を知る機会は絶対にないので、この男性に会うことは凄く自分のためになるだろうと感じました。この男性はハパであ り日系人である、つまり私のコミュニティーな訳ですから、知る必要がありました。私の作品を見てくれる人達は全員が左翼や環境保護派またはSUV反対派だ けでないことを、知る必要があったんです。そのくくりはどうであれ…私は無精な事もあり(自分と似たような)友達だけに囲まれる傾向にあったので、彼に会 う事は自分の現実チェックになると感じました。

Kip Fulbeck Interview #8: Lessons learned from The Hapa Project
提供: editor

性別によるハパ・プロジェクトに対する反応の違い

予想外の面白い発見がありました。1000人くらい写真を撮ったんですが、だいたい3分の2から4分の3が女性なんです。そんな結果がで るとは全く予想もしていませんでした。なぜ女性の方が多いのだろうと考えさせられましたよ。べつに女性のハパの方が生物学的に多いわけでもないです し・・・わかったのは、おそらくこの国では女性の方が「What are you(あなたは一体何ですか)?」という問いに直面することが多いため、男性よりもこのプロジェクトに関心があり、また率先して自分の事について話すの ではないかということです。これは私にとって大きな発見でした。私は仕事の中で男らしさについて、東洋での考え方と比較してこの国では(男らしい)強さを どのように測るかについて色々と話します。例えば授業で男らしい強さをどう測るか?と生徒に問うと「ほら、男は泣かないでしょ、男は強いんだ。」「父親が 亡くなったけど、彼は泣かなかった。」「彼は泥棒を撃退した。」「彼はあの男をぼこぼこに殴った。」といったものがあがります。これに対し「量子物理学を マスターした。」「バイオリンをマスターした。」「年老いた両親の面倒をみている。」というようなものについては、この国では強さとして評価しません。つ まり、自分のことを(べらべらと)話して自分から喜んで写真を撮ってもらうという行為と、自分のことを(べらべら)しゃべるのは男らしくないというこの国 の評価(基準)の2つの要素は関連しているのではないかと思うのです。学びましたね・・・後でなるほどと考えされられましたよ。こういったことには常に興 味がありましたからね。

Kip Fulbeck Interview #9: Differing responses by gender to the Hapa Project
提供: editor

意識的プロセスとしてのアイデンティティ

プロジェクトをやったとしてもやらなかったとしても、私自身のアイデンティティは変化していると思います。アイデンティティは意識的に継 続するプロセスです。私達は、自分で意識的そして時には無意識に何をしたいかにより、または誰と付き合うかなどにより常に自分が何であるかを再定義してい くのです。私自身もライガードの友人と話す時やごく親しい人間と一緒にいる時、日本に住んでいる時には違う話し方で話しますし、ハワイに住んでいる時はピ ジン(英語)にすぐ切り替えますしね。私達のアイデンティティが流されていく何かがあるのです。例えば、これは大学で(生徒達に説明するとき)使うもので すが、誰かが電話で話をしているのを聞いているとして・・・そうですね、あなたのルームメートが電話で話しているとしましょうか、その男性は母親と話して いて「うんわかった、うんわかった、うん、じゃそろそろ行かなきゃ。」と言って電話を切ります。次に上司と話しこう言います「いや大丈夫ですよ。ははは、 そうですね。そうですね。わかりました。失礼します。」そして次にバーで会った女性に電話をし「ヘイ・ベイビー元気?」となるわけです。私達にはこうした 振る舞いがあるのです。ですからアイデンティティはプロセスであり、我々(のアイデンティティ)は常に変化していると思うのです。

Kip Fulbeck Interview #10: Identity as a conscious ongoing process
提供: editor

日系アメリカ人が持つ「ハパ」としての意識の高さ

ハパの中でも日系アメリカ人がかなりたくさん参加してくれたのには驚きましたね。一番多かったのは間違いありません。このグループはアイ デンティティについて、(他の人種よりも)意識が高いのではないでしょうか。恐らくこの問題に人一倍取り組んできた、または多くの人がこの問題に対しより 高く意識してきたからかもしれません。日系アメリカ人のハパは私の意見により賛同してくれる傾向にあるんです。恐らく(プロジェクトに参加してくれた人た ちの)最低でも半数、もしかすると3分の2が少なくとも一部日系アメリカ人という人達でした。

Kip Fulbeck Interview #11: Japanese Americans are more aware of their Hapa identity
提供: editor

自分にとって最も重要なアイデンティティ-「ハパ」

私は、Anti-miscegenation(反異人種間婚姻)に関する法律が廃止になる2年前の1965年に生まれました。国政調査 (の人種欄)で初めて複数の欄にチェックできるようになったのは、私が35歳なってからです。とんでもないでしょ!どの求職申込書や学校のアンケートも全 て「ひとつだけ選んで下さい」というものばかり。又は「その他」とあって次に理由を説明しなさいとあるんです。私も両親もいつも「嫌です、説明はしませ ん!」と書いていました。私にしてみれば、子供に中国人か白人か選ばせることは、父と母のどちらかを選ぶようなもので、「今日はパパが好きだから白人にし よう。」というような感じに思えたのです。だいたい4歳か5歳の時ハパという言葉を聞かされました。アラバマから来た友達でもあったいとこから「そうだな あ、お前はハパだね。」という感じでね。というのもそのいとこ達は全員が中国系アメリカ人という学校に行っていたからなんです。「お前はハパなんだよ!」 「OK!」という具合で、当時は何も考えていませんでした。ハワイに住み始めるまでは、それがどうかしたということもなかったんです。でもハワイは凄く違 う・・・ハワイではハパであることなどは問題にもならないですし、(ハパへの)認識がすごく高いので、バスケットボールをしていると「ヘイ、ハパ・ハオレ (白人)!」と声を掛けたり「ヘイ、ポポロ(黒人)!」という感じでみんなが呼ぶんです。単に認識(の問題)ですね。ですから私にはハパ(という呼び方) がぴったり来るものに感じられるのです。「アメリア人」は好きではありませんでした。確かに私はアジア系アメリカ人ですが、それ以前にハパなんです。

Kip Fulbeck Interview #12: Hapa as his primary identity
提供: editor

他人にレッテルを貼られることの不快さ

他人にレッテルを貼られるのは余り好きではありません。自分のアイデンティティ(が何か)を決めるのは、自分自身の選択です。これは素晴 らしいことだと思います。そのアイデンティティが何であっても構いませんが、アイデンティティを特定する場合に・・・。そういえば、この間犬をビーチに連 れて行き違反切符を切られた時、例の「You people(お前たち)」という呼び方をされたのです。人から「You people」と呼ばれた瞬間、そう呼ばれた人がマイノリティーになり、そしてその「You people」の解釈はどんな意味にもなり得るわけです。「You people」と呼ばれた人としては「成るほどね、どういうスタンスの会話かわかったよ。」という気なります。ですからこの男性に「この事についてはお前 たちには長い間言ってきているだろう!」と言われた時、私としては「うーん、『お前たち』って犬をビーチに連れてきている人のこと?それともサーファー? (肌の)茶色い人?タトゥーのある人?髪の長い人?」と思ったのです。その人にとってどういう人達を指すものであれ・・・私は「お前たちってどういう意味 ですか?」と聞いてみました。しかしその男性は黙ったまま違反切符を書き続け、答えようとはしませんでした。その時私は、この男性は頭の中で(私に対し勝 手に)何だかのレッテルを貼っていて、それが(意識の中で)働いているのだと気が付いたんです。この男性の「You people」が意味するところは、「我々のこの偉大な国や市の法律を無視する、お前たち法律違反者」なのかもしれませんし、または別のものが(意識の中 で)働いていたのかもしれません。とにかく、私は極力自分のやり方で自分自身のアイデンディディを決める選択をしているんです。

Kip Fulbeck Interview #13: Discomfort at being labeled by others
提供: editor

「ハパ」アイデンティティの国際的側面

(「ハパ」への意識は)基本的にはアメリカ特有の現象なんです。この国ほどこれについて話す国は他にありませんからね。シンガポールでも ある程度ハパへの高い意識がありますが、ユーラシア人(とのハパ)の話が多いのが現状です。殆どがユーラシア人で、アフロ系アジア人やラテン系などはあま りいませんからね。ユーラシア系となると、また意味合いの違う問題になってくるのです。ご承知のとおり、今のところ人種の問題については、他の国と比べア メリカが最もよく話しています。たとえ外国人だとしても(アメリカにいると)その話をしたがるのです。本当のところ、人種の枠を超えた養子のような人がプ ロジェクトに参加してくれるかどうか興味がありまして…1人だけ考えてくれていた女性がいたのですが、写真を撮るのを嫌がりました。またそれも面白い考え 方だと思います。ある人達は、私の定義では「ハパ」ではありませんでしたが、(プロジェクトに)参加しました。それが彼らの自己アイデンティティなので、 それはそれでいいと思いました。黒人と白人の(両方の血を引く)女性が来て「私もハパよ。」と言うので、私も「わかりました。じゃあ写真を撮りましょ う。」という感じでね。

Kip Fulbeck Interview #14: International dimensions of hapa identity
提供: editor

アメリカ国外でのアイデンティティに関する問題

他の国では(自分の作品を)まだ見せていません。夏に日本の横浜に住んでいたので、自分のポートフォリオを持って見せて回りました。日本 でも国際結婚率は増えてきているので、ある程度興味を示してくれました。でもまだアメリカ特有の現象という見方で「本当にみんなよく自分の事を語るのね。 私には絶対書けないわ!」という反応でした。そしてまた別世界のことを羨ましがるように「私だったら絶対そんなこと言えない。」と言っていました。でも興 味は持ってもらえたようです。

Kip Fulbeck Interview #15: Issues of identity outside of America
提供: editor

他人にアイデンティティを強要

確かに海外などに行くと、アイデンティティを(勝手に)決められてしまいます。私はこの向かいの通りで育ち、毎週チャイナタウンで過ごし ましたが、日系アメリカ人の影響も強く受け育っているのです。兄が松涛館(空手道場)に通っていたという事もあって、私自身も松涛館に通い今までずっと学 んできましたからね。そして大学で日本語を勉強して、何度か日本に住んで学校にも通いました。恐らく日本文化の方が中国文化より身近に感じるのではないで しょうか。ですから私のアイデンティティは日本に溶け込んでいると言えるかもしれません。そういうと「ちょっと待って、あなたのアイデンティティは・・・ 中国人でしょ!」と(勝手に)押し付けて、反対する人がいるかもしれません。しかし私が中国人でない事を世界中でもっとも強く主張するのは、中国の人達な んです。実際、私が中国人でないと最も強く主張する人は私の姉以上に誰もいませんからね。

Kip Fulbeck Interview #16: Imposing identity upon others
提供: editor

「アイデンティティ芸術」にみる変化

私が(アイデンティティワークで)デビューしたてのころは、90年代の初めでアイデンティティに関する研究が芸術分野で流行していまし た。(その当時は)とても大きな問題だったのですが、今では芸術作品を売るという観点、(つまり)芸術作品の商品主義において大きな問題ではありません。 しかし(アイデンティティを大切にすることは)売れる作品を作るのと同じぐらい、もしかするとそれ以上(に大事)だと私は言いたいです。(今)出回ってい るものにアイデンティティという意識がないということです。例えば(こんなことがありました)。アイデンティティワークで大仕事をしたアーティスト――ア ルバート・チョンというジャマイカ出身のハパのアーティストで、素晴らしい写真家です――を客員アーティストとして(私が教えている学校に)推薦し、アイ デンティティをテーマにこれだけの仕事をしたと言ったのですが「アイデンティティは今ホットな話題ではありません。」と言われ、最初の話し合いでは却下さ れたんです。そこで私は「どうしてそんなことが言えるのですか?ここは大学ですよ!生徒達が初めて家から出てくる(場所な)のですよ!どうしてアイデン ティティが・・・」と書いて(大学側に)提出したのです。(結局)アルバート・チョンは招待され、大成功を収めました。生徒たちは彼をものすごく気に入っ たんです。彼が自分自身のプロセスを語るあらゆる権利はあなた達自身にあると話したからなんですね。祝日をどう祝うか、食べ物をどう食べるか、人とどう付 き合うか、何に心を惹かれるかなど、こういうことを話していいんですよと言ったからなのです。まあ今回の件はうまく覆えりましたが、私達はこれからも(ア イデンティティワークを生徒達に教え)続けられるよう、戦っていかなくてはなりません。

Kip Fulbeck Interview #17: Changing fortunes of "identity art"
提供: editor

自分が誰であるかを主張する権利

自分が誰であるかを言う権利は自分にある、と人々が活発にそして毅然として言う限り、他の人は誰もその人が何であるとは言わないでしょ う。これは本当に重要なことです。もし私に子供がいたら、この事はしっかりと子供に伝えたい。私達の子供や友達などに対して、この人は完全な黒人ではない よとか、あの人はこうでないよとか・・・わかりますよね?そんなことを言う権利は他人には無いと思うんです。もし誰かがそんな事を私に言ってきたら、私は 「あのね、そんな風に言えるほど私のこと知らないでしょ。」と言うでしょう。人々がそうなれるように・・・願わくはこのプロジェクトがささやかながらも誰 かの助けになればと思います。

Kip Fulbeck Interview #18: The right to say who you are
提供: editor

「ハパ」の定義

「ハパ」はハワイ語で、直訳すると「ハーフ」や「一部」を意味します。「ハパ・ハオレ」という語句として広がったもので、「ハパ・ハオ レ」の意味はもともと一部ハワイ人で一部白人を指すものでした。本土からのアジア人がどんどん(ハワイに)行くようになり、(ハパという)言葉が本土に 入って来て、そして段々と(多くの人種がミックスされた)「ミックス」の人すべてを指す言葉になっていきました。ハワイでも、ミックスの人なら誰のことで もハパと呼ぶ人が時々いますが、日系アメリカ人と白人を思い浮かべる人達もいます。また環太平洋の人やその他別の人を思い浮かべるという人もいます。しか し基本的に私の定義は、複数の民族、複数の人種、一部環太平洋の人またはアジア人の祖先にもつ人は誰でもというものです。これが私なりの定義の仕方です。

Kip Fulbeck Interview #19: Defining the term "Hapa"
提供: editor

プロフィール:キップ・フルベック

1965年、キップ・フルベックは中国人の母とイギリス・アイリッシュ系の父の元に生まれました。5歳の時、中国人の従兄弟に「ハパ」と言われました。当 時はその単語の意味について深く考えることはなかったのですが、成長するにつれ、混血としての自分のアイデンティティを表す適切な言葉ない(あったとして も差別的な意味を含んでいるものが多い)ことに気づき、「ハパ」が持つアイデンティティとしての現実的・人間味のある側面を押し出すための方法について考 え始めました。

フルベックが「ハパ」アイデンティティを追求してみようと始めたのが、ハパ・プロジェクトです。ハパの顔写真をとり、「あなたは何ですか?」という質問に それぞれ自分の言葉で回答してもらうのです。現在、約1000人以上のさまざまな世代・職業をもつハパの写真を撮り終えています。このプロジェクトはPart Asian, 100% Hapa (Chronicle Books, 2006)として出版され、2006年6月8日から10月29日にかけて全米日系アメリカ人博物館で行われる特別展kip fulbeck: part asian, 100% hapaに見ることができます。

1990年以来、フルベックはハパ・アイデンティティに関する映画やアートを手がけています。アイデンティティ、他人種・他民族、ポップカルチャーなどの トピックにおける著名なアーティストであり、彼の手がけた映画やパフォーマンス、写真などは世界各国で賞を得ています。現在、フルベックはカリフォルニア 大学サンタバーバラ校芸術学部の学部長・教授であり、アジア系アメリカ人研究とフィルム研究の教員も兼任しています。優れた教授におくられる Outstanding Faculty Member Awardを過去三回受賞しています。

(2006年5月3日)

Kip Fulbeck
提供: editor

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Video interview

editor — 更新日 6月 28 2021 1:49 a.m.


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