ディスカバー・ニッケイ

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孤独な望郷 ~ フロリダ日系移民森上助次の手紙から


2019年1月25日 - 2020年10月30日

20世紀初頭、フロリダ州南部に出現した日本人村大和コロニー。一農民として、また開拓者として、京都市の宮津から入植した森上助次(ジョージ・モリカミ)は、現在フロリダ州にある「モリカミ博物館・日本庭園」の基礎をつくった人物である。戦前にコロニーが解体、消滅したのちも現地に留まり、戦争を経てたったひとり農業をつづけた。最後は膨大な土地を寄付し地元にその名を残した彼は、生涯独身で日本に帰ることもなかったが、望郷の念のは人一倍で日本へ手紙を書きつづけた。なかでも亡き弟の妻や娘たち岡本一家とは頻繁に文通をした。会ったことはなかったが家族のように接し、現地の様子や思いを届けた。彼が残した手紙から、一世の記録として、その生涯と孤独な望郷の念をたどる。

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このシリーズのストーリー

第18回 京都へ帰ったときには……

2019年10月11日 • 川井 龍介

南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。1961年。五ヵ年計画で所有地に庭園らしきものを造る計画を伝える一方で、中米旅行やこれまで一度も実行したことのなかった日本の故郷への帰還について、いよいよその決意が固まったかのように伝えている。 * * * * * 1961年1月6日 〈孤独もなれると悪くはない〉 玲さん(姪)、今日は1月…

第17回 眠れる夜に思い出すこと 

2019年9月27日 • 川井 龍介

南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。1960年の後半は、姪からの手紙と写真に目を細め、相変わらず故郷のことや昔の自分を思い出している。突然、自分は親に愛されていなかったとも振り返る。台風の襲来、作物、長年痛めている歯の治療について。そしてサンクスギビングやクリスマスのことを報告している。 * * * * * 1960年6月24日…

第16回 自分の意志を継いでほしいが…… 

2019年9月13日 • 川井 龍介

南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。友人に中米のホンジュラスでの開拓を誘われ心が動く助次。ひとり身の自分の意志をついで、土地をいかして事業などを興してくれる者はいないだろうか。正直な気持ちを伝えている。 * * * * * 1960年5月9日 〈将来のため、努力しろ〉 明ちゃん(姪)、お手紙ありがとう。昨日のメールで参考書数…

第15回 百歳まで生きてみたい

2019年8月23日 • 川井 龍介

南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。1960年、アメリカで暮らして、とうとう養老年金をもらうようになったという。相変わらず読書欲は旺盛で、宇宙の神秘を知りたいから百歳まで生きたいという。 * * * * * 1960年1月×日 〈南部フロリダはパラダイス〉 明ちゃん(姪)、お手紙ありがとう。明けましておめでとう。…

第14回 南米行きか、帰化か

2019年8月9日 • 川井 龍介

南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。帰国するかとどまるか、長年心が揺れ動く助次だが、今度は南米に行くといったり、帰化を考えたり……。知的好奇心は相変わらずで、日本から書物を送ってほしいと頼んでいる。 * * * * * 1959年1月×日 〈アンデスの大草原へ〉 美さん、私はこの作(農…

第13回 アンクル・ジョージ語る 

2019年7月26日 • 川井 龍介

南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。わが子のように甥や姪のことを心配し、あしながおじさんとして学費の援助やアドバイスをし、直接手紙のやりとりをしてきた。とくに、一番年下の姪には、アンクル・ジョージとして、自分の墓のことなどについても話している。 * * * * * 1957年6月×日 〈アメリカでも猫はニャーとなく…

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このシリーズの執筆者

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)