孤独な望郷 ~ フロリダ日系移民森上助次の手紙から
20世紀初頭、フロリダ州南部に出現した日本人村大和コロニー。一農民として、また開拓者として、京都市の宮津から入植した森上助次(ジョージ・モリカミ)は、現在フロリダ州にある「モリカミ博物館・日本庭園」の基礎をつくった人物である。戦前にコロニーが解体、消滅したのちも現地に留まり、戦争を経てたったひとり農業をつづけた。最後は膨大な土地を寄付し地元にその名を残した彼は、生涯独身で日本に帰ることもなかったが、望郷の念のは人一倍で日本へ手紙を書きつづけた。なかでも亡き弟の妻や娘たち岡本一家とは頻繁に文通をした。会ったことはなかったが家族のように接し、現地の様子や思いを届けた。彼が残した手紙から、一世の記録として、その生涯と孤独な望郷の念をたどる。
このシリーズのストーリー
第24回 姪に諭す、結婚の7ヵ条
2020年1月10日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。実家を継いだ妹がなくなったこともあったのか、実家の資産の相続にかかわることも助次は心配する。さらに結婚前の姪には、独自の「7ヵ条」を示して諭す。交通事故に遭うといったアクシデントもあるが、ひきつづき造園に励んでいる。 * * * * * 〈夢の中で日本に帰る〉 1966年1月19日 美さん…
第23回 故郷にいる妹の死
2019年12月27日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。年齢のため、体のあちこちが痛み気分もすぐれないが、畑仕事への情熱は相変わらずで、桃を植え、ミカンやバナナなども植える予定だという。ただ後継者がいないことが悩み。そんなとき、故郷・宮津で実家を継いでくれていた妹が亡くなったことを知り衝撃をうける。 * * * * * 〈畑で詩吟をやってみる〉 …
第22回 池は出来た。小魚を放った。
2019年12月13日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。自分の土地に果樹園や庭園をつくることに熱心な助次は、池を完成させ、魚を放ったことを報告する。大きなトラクターも買い、さらに住宅も建設すると夢を語っている。周りの人から何と言われようと、自分の進む道を行くという。 * * * * * 〈日本からは年賀状一つ来ず〉 1964年1月15日 美さん…
第21回 誕生日も畑で働く
2019年11月22日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。1963年、日本は高度経済成長をつづけ、その様子を新聞などで知るほか、フロリダで日本製品をよく目にする助次。一方、遠い昔、故郷で植えた杉や檜を見にいって写真におさめ送ってほしいという。いきなり清里(山梨)へ行くつもりだと伝える。 * * * * * 〈池堀りであばら骨を折る〉 1963…
第20回 初恋の人が嫁いだと知らされた時
2019年11月8日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。故郷のこと、過去への回想はますばかりとなる。渡米して間もなくのころのこと。郷里での初恋の女性が嫁いだと知らされ、自分がどれだけ落胆したかを姪に伝える。また、同郷でフロリダにわたった友人は列車事故に遭い亡くなったという。この事故に危うく助次も巻き込まれるところだった。 * * * * * 〈恋い…
第19回 消えた帰国の夢
2019年10月25日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、夫(助次の弟)をなくした義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。1961年5月以降のこと。義妹一家のために家を建ててあげたいといって調べるが、日本の地価の高さに驚き、結局それは不可能だとあきらめる。同時に、日本に帰るという計画も消えたと伝える。 * * * * * 〈故郷の新聞を送ってくれ〉 1961年5月4日 美さん(義妹)、永い間休刊して居た宮津の…