「ノーノー・ボーイ」の世界を探る
太平洋戦争を挟みアメリカで生きた日系アメリカ人二世、ジョン・オカダ(John Okada)が残した小説「ノーノー・ボーイ(No-No Boy)」。1971年に47歳で亡くなった彼の唯一の作品は、戦争を経験した日系アメリカ人ならではの視点でアイデンティティをはじめ家族や国家・民族と個人の在り方などさまざまなテーマを問う。いまも読み継がれるこの小説の世界を探りながらその魅力と意義を探っていく。
このシリーズのストーリー
第7回 ジョン・オカダの歴史
2016年4月22日 • 川井 龍介
「ノーノー・ボーイ」の著者、ジョン・オカダとはどのような人物なのか。プロフェッショナルな作家として有名だったわけではなく、彼について残された記録は多くはない。 その経歴については、ルース・オゼキによる新版の序文のほか、昨年出版された「Art, Literature, and the Japanese American Internment: On John Okada's No-No Boy」(Thomas Girst 著)に詳しい。これらをもとに、オカダの人生をたどって…
第6回 新版の序文から
2016年4月8日 • 川井 龍介
一昨年アメリカで出版された、新版の「No-No Boy」には、これまでになかった新たな序文がつけられた。1957年のオリジナルは小説のみで、1976年の復刊にあたっては、そのいきさつなどをまとめた序文とあとがきが加わり、新版でさらに新版用の序文がついたことになる。 解説的に後ろにまとめて掲載されるのではなく、これだけいろいろなものを前後につけて構成されると、小説としては読みにくいと思われるかもしれない。しかし、新版にあたっての新たな序文がこの作品の今日的な意味を説き、また…
第5回 新版がアメリカで一昨年出版
2016年3月25日 • 川井 龍介
表紙に描かれた主人公の苦悩 初版はまったく注目されなかった「No-No Boy」は、1976年に復刊された。以来読み継がれ、版元のワシントン大学出版では13回版を重ねて累計で10万部以上を出版している。この間、ずっと同じ表紙で同じ内容だったが、一昨年新たな序文を加え表紙も一新した新版が出た。 ボブ・オノデラの手によるこれまでの表紙のイラストは、一見何をあらわしているのかわからないが、よく見ると人間の顔のようで片方の目は星条旗が、そしてもう片方には旭日旗が小さく描かれてい…
第4回 日本での出版
2016年3月11日 • 川井 龍介
1979年、中山容氏が翻訳 小説「ノーノー・ボーイ」がアメリカで復刊されたのが1976年。それから3年後の1979年3月、日本語で翻訳が出版された。出版社は海外の文芸作品の翻訳など個性的な作品を手がける晶文社(東京都千代田区)で、中山容氏が翻訳を手掛けた。 翻訳のタイトルは「ノー・ノー・ボーイ」と表記され、「時は1945年、徴兵を拒否して二年間の刑務所ぐらしを終えて、故郷のシアトルに戻ってきたイチロー。自らの生き方を求めて激しく悩み、傷つきながら彷徨する魂の姿を、叩きつ…
第3回 復刻版にこめられた熱い思い
2016年2月26日 • 川井 龍介
3月12日、シアトルのワシントン州日本文化会館で、「ノーノー・ボーイ」に関するシンポジウムが開かれる。第二次大戦中にアメリカの日系人が収容所に入れられた際に問われたアメリカ国家への忠誠に対する質問の意味をはじめ、日系人社会の反応など、小説の背景にある問題を研究者らが語り合うという。 シンポジウムは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校アジア系米国人研究部のプログラムの一環として行われるというが、いまもって「ノーノー・ボーイ」に象徴される世界は、文学だけにとどまらず、考察されつ…
第2回 再発見された“我々の文学”
2016年2月12日 • 川井 龍介
アイデンティティの問題などを鋭く問うジョン・オカダの小説「ノーノー・ボーイ」は、1957年に出版されたのち、世間の注目を浴びることなくほぼ忘れ去られてしまった。それが70年代に入り見直されることになる。 そのいきさつについて触れる前に、昨今のアメリカをはじめ世界各地での移民や民族間、国家・文化間に生じている摩擦や問題からみて、「ノーノー・ボーイ」を考察する意味をひとこと触れておきたい。 いま、なぜ「ノーノー・ボーイ」なのか 大統領選がはじまったアメリカでは共和党の大統…