日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

日系日本語雑誌の多くは、戦中・戦後の混乱期に失われ、後継者が日本語を理解できずに廃棄されてしまいました。このコラムでは、名前のみで実物が見つからなかったため幻の雑誌といわれた『收穫』をはじめ、日本語雑誌であるがゆえに、アメリカ側の記録から欠落してしまった収容所の雑誌、戦後移住者も加わった文芸 誌など、日系アメリカ文学雑誌集成に収められた雑誌の解題を紹介します。

これらすべての貴重な文芸雑誌は図書館などにまとめて収蔵されているものではなく、個人所有のものをたずね歩いて拝借したもので、多くの日系文芸人のご協力のもとに完成しました。

*篠田左多江・山本岩夫 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

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『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その3/6

>>その2

3.『鉄柵』の内容

他の収容所の出版物と比べると、『鉄柵』には小説が多く掲載されている。その小説は圧倒的に短編だが、3篇の連載長編小説もある。このほかに随筆、評論、詩と短歌・俳句などの短詩型文学が配置されているが、川柳は掲載されていない。編集者はあくまでも「文学」にこだわり、文学的水準の高い作品を望んだ。編集者のひとりはのちに、同じ収容所で発行された『怒濤』との相違点は作品の質の高さだったと筆者に語っている。さまざまな作品が持ち込まれたが、質の低いものは掲載せず、そのために人びとの間で感情的摩擦を生じたことも度々あったらしい ...

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『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その2/6

>>その1

2.『鉄柵』の創刊と目的

1943年の晩秋、3人の帰米青年が毎晩のように加川文一の家に集まっていた。彼らはグラナダ収容所から来た山城正雄と野沢襄二、ポストンからの河合一夫であった。お互いにロサンジェルス市立ポリテクニック・ハイスクールを卒業した友達同士で、文学という共通の趣味で結びついていた。その頃は忠誠者と不忠誠者の交換がほぼ終了し、次第に過激な親日派が勢力を伸ばし始めており、3人は不忠誠を選択したものの、所内の雰囲気に馴染めなかった。過激な帰米青年たちの運動に巻き込まれたくないと感じた3人は独身で生活の心配もなく、あり余る時間を使って何ができるかを模索していた。加川と文学談義を重ねるうちに、文学誌を発行する話がまとまった。

加川は14歳で渡米し、カリフォルニア州パロアルトで父とともに農業に従事するかたわら独学で英語と詩を学び、1930年に英詩集Hidden Flameを出版した ...

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『鉄柵』 発展途上の帰米二世の文学 -その1/6

トゥーリレイク収容所の文学同人誌『鉄柵』は、収容所で発行された雑誌のなかでもっともよく知られている。『カリフォルニア強制収容所』(白井昇、1981年)で詳しく紹介されているほか、『南加文芸選集』(藤田晃編、1981年)および『遠い対岸』(山城正雄、1984年)、『帰米二世』(山城正雄、1995年)など日本で出版された本のなかで言及されている。そのため帰米二世文学のルーツは『鉄柵』にあると言うのが定説になっている。しかしその全容は明らかにされていない。当事者の野沢襄二は『南加文芸選集 ...

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青年活動から生まれた文芸誌『怒濤』-その5/5

>>その4

青年団の機関誌であっても投稿者は団員に限られたわけではない。編集者はいっそう読みごたえのあるものにするために、すでに日系文壇で知られた人にも原稿を依頼した。そのためかなりの数の一世の作品が含まれている。

戦前、『收穫』に寄稿している森百太郎は一世で、団員の若者とは一世代年長であったが、小説「或る系譜」(第4号)、「幕末の或る数学家」(第5号)、「師の印象」(第6号)、「馬鹿庄」(第7号)、および散文詩「流れ」(第5号)、啓蒙読物「女性読本」(第3号)を載せている ...

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青年活動から生まれた文芸誌『怒濤』-その4/5

>>その3

4.『怒濤』の内容

これは機関誌という性格から、青年団の活動報告などが多数掲載されていると考えられるが、そのような記事は少ない。野球が創刊号と第2号に、相撲大会の結果が第2号に、各部の行事は創刊号、第2号、第5号で扱われているが毎号載っているわけではない。スポーツ大会の結果は週一回発行の新聞紙上に掲載されたため、ニュース性の少ない機関誌には載らなかったのであろう。

特徴としては青年たちを啓蒙する記事が多く掲載されている。安芸良「結婚と出産とキャンプ生活」(創刊号)、丸山郁雄「戦時体制下の日本」(創刊号)、「組合への再認識」(第2号)、「戦争への回顧」(第5号 ...

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