郷 崇倫

(ごう・たかみち)

オレンジコースト大学、カリフォルニア州立大学フラトン校、横浜市立大学にて、アメリカ社会の歴史、日系人社会の歴史を含めるアジア大洋州系アメリカ人社会のを学ぶ。現在はいくつかの学会に所属しつつ、独自に日系人社会の歴史、とりわけ日系人社会と日本社会を「つなぐ」ために研究を継続している。また外国に「つながり」をもつ日本人という特殊な立場から、現在の日本社会における内向き志向、さらには排外主義の風潮に警鐘を鳴らしつつ、日本社会における多文化共生について積極的に意見を発信している。

(2016年12月 更新)  

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ある初老の一世の物語

派米農業労務者事業(カリフォルニア農業研修生)をとおして加州(カリフォルニア)にやってきた鹿児島県出身のYさんは、州南部はアリゾナ州境に近いインディオ(Indio)にある、アルメニア系が経営するブドウ園において、同郷の数十名の仲間たちとともに炎天下のなか一生懸命働いていました。1

ある日のことでした。Yさんは、近隣の農場に、身寄りのない初老の一世がいることを知り、会いに行くことにしました。話を聞いてみると、この人物は、Yさんと同じ鹿児島県の出身でした。そして、Yさんに、みずからの過酷な移住生活を語ったのです。

物心がついた頃から、彼には何か大きなことをやって身を立てたいという、漠然とした思いがありました ...

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ジャズの調べとともに―ジャズ・ミュージシャン、井原リチャードさん

南加(南カリフォルニア)はブレア市内のレストラン、シーダー・クリーク・イン(Cedar Creek Inn Restaurant)では、金曜日の夜から週末にかけて、レストラン内のバーで、ジャズの生演奏を聴きながら、お酒や食事を楽しむことができます。このレストランでは、地元南加を活動の拠点とする魅力的なジャズ・ミュージシャンたちが、かわるがわる演奏をおこなうので、地元の人々の人気スポットのひとつとなっています。

ある日、わたしはいつもお世話になっている井原先生から、シーダー・クリーク・インに来ないかと誘われました ...

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伴正一さんと戦後の日本政府の移住政策について

伴正一という名前を聞いてピンときた人は、日本と中国大陸の関係に詳しい人なのかもしれません。伴さんは、1977年から1980年まで中国公使を務め、中国大陸との密接な関係の基礎を築いた外交官のひとりとして知られています。

現代社会における日中関係の功労者である伴さんは、戦後日本の移住政策にも深く携わっていました。今回は、移住と海外貢献いう点において、伴さんが携わった日本人難民の加州への移住と、派米農業労務者事業をとおして、彼の人物像について紹介したいと思います。


伴さんについて

伴さんは1924年に、高知県で生まれました。父親は、地元高知を代表する名士のひとりで、地域社会で尊敬されており、母親は、由緒ある武家の出身でした。

出自のみならず、経済的にも恵まれた伴さんは、地元の名門校、土佐中学校(現在の土佐中学校 ...

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幻となった「日系人駐日大使」提案―井上議員の前に立ちはだかった「日本事情」

日系人を駐日大使に。 

これを初めて日本政府に提案したのは、今は亡き井上建議員(ダニエル・イノウエ)でした。日系人が駐日大使という地位に就くことで、アメリカと日本の双方の国益に結びつくことのみならず、アメリカ社会における日系人の地位向上にもつながると井上議員は考えました。時は1959年、日系人社会は、戦後の復興期からリドレス活動への過渡期にありました。 

駐日大使を選ぶ権限はアメリカ政府が握っていますが、日本政府の意向を無視することはできません。そこで井上議員は、当時の日本の政局における最有力者のひとりであり首相でもあった岸信介に面会し、日系人を駐日大使として東京に送ることを提案しました。

井上議員は、日本政府がこの提案に反対することはないと考えていました。ところが、岸は彼の提案を一蹴したのです。さらには、岸は日系人にたいする侮辱ともとられる予想外の発言を、井上議員の前でしたのです。

日本には ...

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community ja

「謝る人々」から学べること

加州農業経営者友愛団体の「良心」

先日、インターネットで羅府新報を読んでいたところ、大変興味深い記事を見つけました。

California Grange Apologizes for Anti-JA Prejudice
(邦訳(意訳)「加州農業経営者友愛団体、過去の日系人への反日的行為に謝罪」)

記事によると、加州農業経営者友愛団体(California State Grande)が、過去の活動などを通して行われた日系人への差別的行為に対して、市民協会(JACL)の会長であるデイヴィッド ...

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