波雅 文人

(はが・ふみひと)

ブラジルの日系社会とはまだ3年あまりのつきあい。「旅行者」ではないものの、「移民」でももちろんない中途半端なかかわり。移民とその子孫へ一方的に関 心を向けているうちに、自分が「日本人」であることを繰り返し問われる破目となって自己解体中。現在日本在住。少し距離を保ってブラジル日系社会について 思いを巡らしてみる。

(2008年12月 更新)

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腰かけブラジル日系社会体験記

第2回 日系二世という「種族」 その1

ルイーザさんは、少なくとも仕事相手としては、きわめて第一印象の悪い人だ。ぶっきらぼうというのか、人によったらけんか腰に感じるのではないかと いうような態度を、わけへだてなく、誰にでも初対面から容赦なしにとるものだから、会った途端にルイーザさんの人柄に魅了される人などまずいそうにない。 私はやや例外的だったと言えるが、それは何も私の心が特別に広いといったことではなく、私がルイーザさんとは正反対の自他共に認める八方美人的人間だから だ。好んでそうしているつもりではない私には、ルイーザさんの公平なぶっきらぼうさはまぶしく、憧れの対象ですらある。

日本からブラジルに仕事にやってくる会社の、ブラジル側コーディネーターがルイーザさんの仕事だ。年齢は40代半ばというところだろう。ブラジル 特有の強い紫外線にずっと無頓着だったことをうかがわせる肌に化粧っ気なし、実用的な理由だけで束ねられた髪の毛、挨拶本来の効用みたいなものは全廃され た投げつけるような「はじめまして ...

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腰かけブラジル日系社会体験記

第1回 しょせん腰かけの辞

連載タイトルの由来からはじめることにしよう。話は少しだけ遠いところからはじまる。

高名な民俗学者と付き合いのあった出版社の主人が書いたエッセイ集を読んだことがある。『本屋風情』というタイトルがその本につけられた理由が、確かその巻頭の一文に記してあった。かなりあやふやだが私の記憶の中には、こんな話になってしまいこまれている。

その大先生に何か出版の計画があるというので主人は料亭に呼ばれる。主人を呼んだのは大先生本人ではなく弟子か何かである。料亭に着いて部屋に近 づいたところで先に話を始めていた御一同の声が聞こえ、もうすぐ呼んである本屋の主人が到着するという報告とそれに対する大先生の不興げな「本屋風情 が!」というやり取りが耳に入る。主人ははっとするが、その後なるほど自分は一介の本屋だと得心する。自分の本屋としての見聞を本にまとめることになり、 ほかに適当なものはないと題名に戴く。

そんな言われ方をして愉快なはずはないだろうと思うし、それをわざわざ本の題名に採用し、大先生の嫌なところをそれとなく世間に知らせることで意 趣返しをしているようにも取れるのだけれど、いきさつを記す文章はどこまでもさわやかだった ...

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この筆者が寄稿しているシリーズ