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映画『ガイジン』と『ファミリア』の共通点

2022年11月22日に新宿で行われた完成披露上映会の様子。役所広司、吉沢亮、右端が成島出(なるしま・いずる)監督ら

日本移民を通してブラジル社会描いた『ガイジン』

ブラジルでの日本移民の苦労を、現代の日本に置き換えたような話だな」――映画『ファミリア família』(成島出監督、配給:キノフィルムズ)のオンライン試写を見終わったとき、そう感じた。1月6日から新宿ピカデリーほか日本全国で公開中だ。残念なことに日本以外では見られない。

あの役所広司と吉沢亮が親子役となり、さまざまな違いを乗り越えて〝現代の家族〟を作ろうとする骨太の人間ドラマだ。その主要な役どころに、オーディションで選ばれた在日ブラジル人が抜擢されている。

映画『ガイジン』のポスター

この試写を見ながら、ブラジル映画『GAIJIN・Caminhos da Liberdade』(1978年制作、山崎チヅカ監督、以下『ガイジン』)と共通点があると感じた。

日系3世の山崎監督の祖母がモデルになった『ガイジン』では、移住した日本女性が、配耕されたコーヒー農園での多くの苦難を乗り越えてブラジルで逞しく生きていく姿を描いた作品だ。

「ブラジルには金のなる木がある」とダマされて移住し、農園では奴隷同然のような労働条件に苦しむ。農場の用心棒が理不尽に暴力を振るう中、こっそり夜逃げして都市部へ出て、労働運動に身を投ずる様子を仄めかして終わる。

文化活動に多くの規制が課された軍政時代に、少数民族である日本人移民が迫害される様子をリアルに描く話題作だった。

同映画の主演女優・塚本恭子さんは、日本ブラジル中央協会に寄せたコラムの中で《軍事政権下、出演者もスタッフも反体制側の人間ばかりで、映画の中に反体制的なシーン・セリフが何気なく盛り込まれていました。最後は労働運動のシーンで終わるのですが、さすがにこのシーンの許可がなかなか下りず、警察の監視下で撮影したのを覚えています。日系移民の話をメインにはしていましたが、ブラジルの社会問題を描いていたので、カンヌ映画祭含め多くの映画祭で受賞したのだと思います》(「ブラジルと日本の映画、TVドラマ制作現場」日本ブラジル中央協会)と当時の様子を振り返っている。

塚本さんのコメントにある通り、第1回移民船笠戸丸から70年も経った制作時、日本移民はブラジル社会の一部になっており、それを通して社会全体の問題を描くという手法が評価された。

制作時に若干29歳の女性、しかも初の日系監督だった山崎チヅカに、カンヌ映画祭の賞をもたらし、一躍ブラジル映画界にその存在を知らしめた作品になった。ユーチューブに動画はあるが、外国語放送すら禁止された軍事政権時代にゆえ、全編ポルトガル語だ。


まるで裏返しのような存在

一方、日本への日系ブラジル人就労がブームになったのは、1990年の入管法改正からだ。2008年のリーマンショック直前には、30万人超が訪日就労していた。そこから30年余りが経ったところで『ファミリア』は制作された。

この「30年」という時間は、日本生まれ日本育ちの世代が大人になって台頭する期間だ。まさにそんな日本育ち世代が映画には出てくる。

この映画のモデルとなった愛知県の保見団地は、トヨタ自動車の関連工場が集中する地域にある。60棟を超えるマンモス集合住宅で3900戸には約7千人が暮らしており、その半数近くが外国人、中でも圧倒的多数がブラジル人と言われる特殊な地域だ。

かつて『ガイジン』では日本移民の大半が体験したコーヒー農園での奴隷同然の過酷な労働が描かれ、現代を描く『ファミリア』では自動車工場で外国人労働者として働く在日ブラジル人の日常が描写される。

『ガイジン』に出演した日本人俳優は知名度の高い人はおらず、実際の日本移民がエキストラで多数参加した。だがブラジル側はアントニオ・ファグンデスを筆頭に蒼々たる俳優が演じていた。

『ファミリア』では、普段は工場労働をしている役者初挑戦の在日ブラジル人が起用され、日本人側は役所広司が主役を張り、吉沢亮、佐藤浩市、松重豊、中原丈雄、室井滋ら大物俳優がしっかりと脇を固めている。

傷ついた在日ブラジル人マルコス(サガエ・ルカス)に語りかける陶器職人役の役所広司(提供=©2022「ファミリア」製作委員会)

『ガイジン』では農場の用心棒によって暴力的にいじめられる日本移民の姿が描かれたが、『ファミリア』では反グレ集団によって痛めつけられる場面があり、1997年10月に同県小牧市で起きたエルクラノ君暴行死亡事件を思い浮かべた。

『ガイジン』では自由を獲得するためにコーヒー農場から夜逃げして都市部で自分の居場所を見つける姿が描かれるが、『ファミリア』では格闘を経た最後に日本社会の中における居場所を見つける。共に、外国人移民が移住先国でどう生きていくかを模索し、それに共感するその国の人間がいる様子が描写されている。

英語をしゃべるシーンのある日本映画は珍しくないが、『ファミリア』では登場人物の大半が非白人の外国人や日系人で、台詞の多くがポルトガル語というのは珍しい。一般の日本人が知らない在日ブラジル人コミュニティの様子が、日本社会の一部として初めて描かれているという意味でも興味深い。


東宝映画社長が拒否した『ガイジン』ロードショー

2018年6月に山崎監督に取材した際、『ガイジン』に関する興味深い後日談を聞いた。

「1980年に東京映画祭で『ガイジン』で上映した際、私は絶対に日本でもこの映画は受け入れられると確信して訪日した。ところが、上映が終わった後、東宝映画社の社長と会う機会があり、その時にこう言われたの。『この映画を日本で紹介するつもりは一切ない』。はっきり言ったのよ。その時、私はもう発狂するかと思ったわ。後でわかったけど、日本では『移民』という歴史的事実はタブーだったのね。だって、多くの人は食べるものがない、仕事がない、生活できないから移住したワケでしょ。だから日本人的には恥ずべき歴史と考えているんじゃないかしら」と山崎監督は首をひねった。

80年当時の日本では、ブラジルに移住した日本人が25万人もいたと言う事実すら、隠したいような雰囲気があったのかもしれない。

でも現在は、その日本移民の子孫が日本国内にコミュニティを作って、定住・永住する時代になり、その存在を通して日本社会を描く一般商業映画がロードショーされる時代になった。

映画『ファミリア』からは、大きな歴史の歯車がグルリと回ったことを感じさせる何かがあると感じる。

 

© 2023 Masayuki Fukasawa

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