ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2022/3/14/seino-toshiyuki-2/

清野敏幸さん— その2:ローワー強制収容所からツールレイク強制収容所へ

ホーソンの清野家。1938年。

その1を読む>>

清野家は、戦争の直前にはホーソンに家を購入し、かなり大きな規模の農園を営んでいたという。しかし1941年、太平洋戦争が勃発。翌年、強制立ち退き命令を受けて、一家は自宅も農園も置いて立ち退いていくことになる。サンタアニタ競馬場に作られた集合センター(アッセンブリーセンター)を経て、俊一、敏幸、達夫と小さい息子3人を連れた松吉と文子は、アーカンソー州のローワー強制収容所へと送られた。そこで娘の弘子が誕生。そして北カリフォルニアのツールレイク収容所に1943年10月に移送され、1944年、ツールレイクで四男の勝幸が生まれている。

ツールレイクにて。敏幸は前列左から2人目。1945年。
「ローワーには一年くらいいたと思います。その後で、ツーリレーキに移された。僕は4歳で全然覚えてないんですが、日系人の中でも反アメリカの人が結構いたもので、いろんな運動をやっていたらしいんですね。うちの父親もその日本は負けないと言って頑張っていた人たちの中に入っていたらしいですね。ツーリレーキでは父は別のところに送られて、あとは我々子供5人と母親が一緒に住んでいました。母親は大変だったと思います」。

1943年、収容所を運営していた戦時転住局(WRA)は17歳以上の全ての収容者に「忠誠登録」を実施した。「出所許可願」と題されたこのアンケートにはアメリカに忠誠か、日本に忠誠かを問う質問があり、これによってアメリカに不忠誠とみなされたものは、隔離収容所となったツールレイク収容所へと移送されることになったのである。今はカタカナではツールレイクと記すことが多いが、収容者はカタカタでツーリレーキと呼び、漢字では「鶴嶺湖」と記した。

この全米各地の収容所から送られてきた「不忠誠」者らは、全員が熱狂的な日本支持であったわけでも、WRAがみなしたようにアメリカに不忠誠なトラブルメーカーであったわけでもなく、自らの祖国や何十年も暮らした第二の祖国に強制的に収容された怒りや絶望から日本寄りになった人もいれば、アメリカへの忠誠を問う質問にノーノーと回答した家族にただ付いてきた人などさまざまな理由や事情があった。

しかし、そのツールレイクに1944年には「即時帰国奉仕団」や 「報国青年団」といった極端に親日的なグループが作られていく。メンバーの多くは日本への帰国を希望する一世や帰米らであった。おそらくは松吉もその一人であったと推測される。

清野一家が松吉と再会したのは、日本へ帰る帰還船の船上だった。「父親はどちらかといえば日本的な考え方でしたし、ホーソンに帰っても家もないだろうしと日本に戻ることにしたようです。その頃のことは覚えてないですし、親は苦労をしたのであまり話したがりませんでした」。

1945年12月、帰還船に乗り込む前の家族写真。出立の手伝いに来てくれた伯母たちと共に。

その3 >>

 

© 2022 Masako Miki

アーカンソー州 カリフォルニア 強制収容所 世代 日系アメリカ人 帰米 二世 ローワー強制収容所 清野敏幸 ツールレイク強制収容所 アメリカ 第二次世界大戦下の収容所
このシリーズについて

「移民」というと、ある国から別の国へと移住したきり、のようなイメージを持たれる方もいるかもしれない。それぞれの国ごとの移民史では、そこに定住した人々の物語は記録されていきやすいが、行ったり来たり、また国や地域をまたいで移動し、生きていく人々の物語は、そのはざまの文化と言語の中で見えづらくなることもある。

ロサンゼルスの日本人コミュニティーと日系人コミュニティーの両方で暮らす中で、また全米日系人博物館での仕事を通して、「二世」「三世」「帰米」といった歴史的によく使われる言葉に付随する典型的なイメージとは異なった、それぞれの個人ごとの豊かな物語を持つ人々に出会う機会が数多くある。このシリーズでは、そうした環境の中で出会った、主に日本語を第一言語とする戦後の帰米・日系移民の方々の物語を記していきたいと思う。

詳細はこちら
執筆者について

三木昌子は、全米日系人博物館・日本語渉外担当として、日本人や日本企業に向けてのマーケティング、PR、ファンドレイジング、訪問者サービス向上などを担っている。またフリーランスの編集者、ライター、翻訳者でもある。2004年に早稲田大学卒業後、詩の本の出版社、思潮社に編集者として勤務。2009年渡米。ロサンゼルスの日本語情報誌『ライトハウス』にて副編集長を務めた後、2018年2月より現職。

(2020年9月 更新)

様々なストーリーを読んでみませんか? 膨大なストーリーコレクションへアクセスし、ニッケイについてもっと学ぼう! ジャーナルの検索
ニッケイのストーリーを募集しています! 世界に広がるニッケイ人のストーリーを集めたこのジャーナルへ、コラムやエッセイ、フィクション、詩など投稿してください。 詳細はこちら
サイトのリニューアル ディスカバー・ニッケイウェブサイトがリニューアルされます。近日公開予定の新しい機能などリニューアルに関する最新情報をご覧ください。 詳細はこちら