ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2019/4/5/7579/

アメリカに本格的なたこ焼き文化を — TaNoTaの柴谷健雄さん

居酒屋やラーメン店向けに冷凍たこ焼き製造

関西出身者と「家庭の味」の話になると「子どもの頃から家にはたこ焼き器があった」とよく聞かされる。九州出身の私には、たこ焼きとは家庭で食べるものではなく、屋台で買って食べるものというイメージがある。家庭で食べようが、屋台で購入しようが、日本人でたこ焼きを知らない人はいないだろう。では、アメリカでの知名度はどれくらいかと言うと、もしかしたらお好み焼きの方が知られているかもしれないとは思う。いずれも粉物だが、たこ焼きはタコとネギ、天かすなどを小麦粉の生地に入れて丸く焼いたスナック。ソースやマヨネーズをつけて食べるが、兵庫県の方ではだしが効いたスープに浸して食べる「明石焼き」という名前の変わり種もある。個人的には、優しい味の明石焼きの方が好きだ。

また、ここ数年、日本に一時帰国して目に止まるのがたこ焼きのチェーン店。その銀だこという店は、最近、ロサンゼルス近郊のガーデナの日本食マーケットのフードコート内に店を構え、アメリカ進出を果たした。しかし、今回はこのチェーン店について書くわけではない。

最近、たこ焼きはロサンゼルスのラーメン店や居酒屋でアペタイザー、はたまたデザートとしてメニューに並ぶようになっている。その仕掛け人に2018年秋にパサデナで開催されたフードエキスポで会った。その人の名前は柴谷健雄(しばたに・たけお)さん。大阪出身の柴谷さんは、現在、リトルトーキョーでたこ焼きの店、TaNoTaを経営しながら、TaNoTaブランドの冷凍のたこ焼きをレストランに卸すビジネスも手がけている。知らずに居酒屋で食べていたたこ焼きは、TaNoTaのものだった可能性が高い。柴谷さんに冷凍たこ焼きを手がけるようになったきっかけを聞くと「以前、知り合いのラーメン店を手伝っていた時に、サイドメニューとしてたこ焼きが良く売れているのを目の当たりにして、手応えを感じたんです」と答えた。チャンスは逃さず、確実に形にするタイプだ。

店舗前でスタッフと。中央がオーナーの柴谷さん

スタートはフードトラック、イベント出店で手応え

TaNoTaと聞いて思い出したのが、数年前にフードトラックで営業していたたこ焼き屋。私も何度か買ったことがあった。フードトラックで販売を始めたのは2010年のこと。同時にイベントでのブース販売にも力を入れた。最初、ロサンゼルス郊外の中国系のイベントに出店したところ、1時間待ちの行列ができたそうだ。柴谷さんは「並んでくれたのは、ほとんど日本人のお客さんでした。500食を完売しました」と当時のことを振り返る。

柴谷さんは元々日本で外食産業に勤務するサラリーマンだった。いつか海外で日本食ビジネスを起業したいという夢を持っていた柴谷さんは、趣味のサーフィンも楽しめる土地として移住先にロサンゼルスを選んだ。そして、ロサンゼルスに本格的なたこ焼きを出す店がないことに着目し、自分の出身地、大阪のソウルフードであるたこ焼きで勝負に出ることに決めた。

そこで、会社を起こす時に関わった3人の日本人男性の名前を組み合わせて、ブランド名をTaNoTaにした。前出のように、まずは手頃なフードトラックでビジネスを始めた。さらにイベントブースで手応えを感じた柴谷さんは、満を持して2018年3月に店舗を構えた。週末には多くの人が行き交うモール、ジャパニーズヴィレッジプラザのファースト・ストリート側の入り口に、その店は面している。リトルトーキョーのシンボル、火の見櫓の正面だ。店舗は広島出身のお好み焼き屋Chinchikurinとのコラボレーション。TaNoTaだけのカウンターもあるが、Chinchkurinのテーブルでたこ焼きをオーダーして食べることもできる。つまり、お好み焼きに惹かれて入店した客が初めてたこ焼きを試す機会が生まれるかもしれない。

リトルトーキョーに第一号店

TaNoTaの第一号店のメニューには、オリジナル、ハラペニョ、ポン酢、わさび、明太子、ごま、パルメジャントリュフの7種類のたこ焼きとサイドメニュー、3種類のかき氷、ビールと日本酒が並ぶ。「この辺りにお勤めの方が夕方ふらっと寄って、たこ焼きをつまみに1杯だけ飲んでいくというスタイルもよく見られます」と柴谷さん。たこ焼きは、おやつやスナックとしてと同時につまみとしても重宝する、珍しい食べ物と言えるかもしれない。

バラエティ豊かなメニュー

店でいただいたのは、パルメジャントリュフ。チーズがたっぷりかかっていて、熱でトロリと溶けたチーズとたこ焼きの相性が抜群。ボリューム的にも満足感が高く、日本で食べたことのない新鮮さがクセになる。どの種類も土台のたこ焼きは同じで、ソースやトッピングで変化をつけている。今後、さらにバラエティ豊かなメニューも追加されていくに違いない。ハラペニョがメキシコ風だとしたら、ベトナム風やインド風も登場してもおかしくない。

かつて、日本人街のリトルトーキョーは閑散としていた。そこに10年以上前、豚骨ラーメンの大黒家が登場し、繁盛するようになって街に活気が戻った。さらに他のラーメン店、焼き鳥店、回転寿司、うどん店、日本式焼き肉店が続々と店を開けることで、色々な種類の日本料理を楽しめるフードパラダイスの様相を呈すようになった。そのコミュニティでたこ焼きのTaNoTaも存在を主張している。「サーフィンが楽しめて、日本食の起業ができる場所」としてロサンゼルスを選んだ柴谷さんのヨミの確かさを、今後のさらなるビジネスの発展で是非証明してほしい。

TaNoTa Takoyaki
350 E. 1st Street,
Los Angeles CA 90012

 

© 2019 Keiko Fukuda

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執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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