ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2018/1/26/uwajimaya-4/

第4回 日本から研究の対象にも

小さな食料品店から出発して90年の歴史をもつシアトルの食品スーパーUwajimaya(宇和島屋)は、愛媛県にルーツをもつモリグチ・ファミリーによって経営されてきた。日系で、かつ一貫したファミリー経営で成功したUwajimayaについて、地元メディアではしばしばとりあげられるが、その成功、発展の理由などについては、日本の大学からも注目されいま調査・研究の対象となっている。

取り組んでいるのは愛媛大学の地域創成研究センター、法文学部人文社会学科の佐藤亮子准教授を代表とするグループ。佐藤氏らは昨年シアトルでUwajimayaの顧客へのアンケート調査やモリグチ家への聞き取り調査などを行い、今年もアメリカで関連調査を行う。

愛媛大学では、「愛媛という『ローカル』な場から発信、越境移動する価値・技術・制度が、『グローバル』に広がり根付いていくメカニズムを学術的に分析すること」を目的として、2016年4月に「グローカル地域研究ユニット」という研究グループを発足させた。

愛媛からアメリカへという広がりをもつシアトルの宇和島屋研究はそのひとつで、このほかには「福岡正信と自然農法研究」、「松山俘虜収容所研究」、「越境する海のNomad研究」という4つの事例研究が進行中だ。

地方の大学ならではの、ローカルな利点を生かし、それぞれの事例がいかに「グローバル」に展開してい行くかというつながりを見ていく、ミクロからマクロを見通すユニークな研究になっている。

佐藤准教授らの進める「シアトル宇和島屋研究」では、「日系移民」、「食料品店」、「アジアの食文化」をキーワードに、愛媛県八幡浜出身のモリグチ家による宇和島屋が、アメリカで発展、成功した要因について、また愛媛からアメリカへもたらされたものやその影響についてさぐっている。さらに研究によって、地方の企業の海外展開への参考となることを見通すという。

こうした観点から、2016年9月、まずは現地で、宇和島屋の現状や歴史について、トミオ・モリグチ氏をはじめ経営陣や関係スタッフならびに歴史を知る人にインタビューなどを行った。

また、シアトル周辺にある現地の一般のスーパーをはじめアジア系やエスニック系のさまざまな食料品店などを視察し、つぎに実施するUwajimayaの顧客へのアンケート調査などに備えた基礎的データを収集した。

2017年3月には、これらをもとに、Uwajimayaシアトル店とベルビュー店で、週末に訪れる顧客に対してアンケート調査を行った。

前提として、日本人・日系人以外のアメリカ人がどのようにとらえているかという点に注目した。調査・分析の具体的な手法については、法文学部の三上了准教授の主導で行われた。

アンケートでは、店舗でなるべく買い物を終えたお客に対して、タブレットを使用して画面を見て質問に答えてもらう形をとった。

「どこから来たのか」、「どのくらいの頻度で利用するのか」、「来店した目的は何か」といった、顧客の動向についての質問のほか、「創業者はどういう人(日系など)か知っているか」や店名になっているUwajima(宇和島)について「日本のどこか知っているか」といった、日本とのかかわりについての質問などを行った。

タブレットを顧客に示してのアンケート(写真提供:佐藤亮子・愛媛大准教授)

このほか、愛媛県からの依頼もあり、「じゃこてん」など愛媛県の物産についての認知度を測る質問もした。

細かい分析結果はまだ公にされていないが、調査を終えて佐藤准教授は、つぎのような感想を述べている。

「アジア系のお客さんは、宇和島屋と他のアジア系のお店と比較して、宇和島屋を評価している傾向があるようだ。比較的ハイソな人たちが訪れているという感触も得た。また、街中で聞いた感想では、日本製品の良さや宇和島屋の製品の良さが相当広まっているという気がした」

佐藤准教授らは、宇和島屋研究に関連して、今春、カリフォルニア州でチェーン展開している日系の食品スーパーの調査をする予定だという。

                              

© 2018 Ryusuke Kawai

ビジネス 経済学 愛媛大学 経営 佐藤亮子 シアトル アメリカ 宇和島屋(食料品店) ワシントン
このシリーズについて

アメリカ・ワシントン州シアトルを拠点に店舗を展開、いまや知らない人はいない食品スーパーマーケットの「Uwajimaya(宇和島屋)」。1928(昭和3)年に家族経営の小さな店としてはじまり2018年には創業90周年を迎える。かつてあった多くの日系の商店が時代とともに姿を消してきたなかで、モリグチ・ファミリーの結束によって継続、発展してきたその歴史と秘訣を探る。

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執筆者について

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)

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