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日系アメリカ文学を読む

第15回 『ヒサエ・ヤマモト作品集 -「十七文字」ほか十八編』

1921(大正10)年8月に、南カリフォルニアのレドンド・ビーチで生まれたヒサエ・ヤマモト(Hisaye Yamamoto)は、初期の日系アメリカ人作家の一人で、戦後短編作家として全国的に知られるようになった。

両親は熊本県からの移民で、南カリフォルニアでトマトやイチゴの栽培を手掛けていた。農村の日系人コミュニティーのなかで育った彼女だが、十代から創作活動に励み、戦前は日系の新聞である「加州毎日」などに寄稿していた。

コンプトン短大で学び、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ラテン語を専攻した。このほか日本語学校にも12年間通った。太平洋戦争がはじまると1942年からアリゾナ州のポストン収容所に家族とともに入れられるが、収容所の新聞である「ポストン・クロニクル」に、記事や短編小説が掲載された。

戦時中、マサチューセッツ州に一時転住したが、従軍した弟の一人がイタリアで戦死し家族のいる収容所に戻った。

戦後は、黒人の週刊紙「ロサンゼルス・トリビューン」で3年間働き、また、平和運動や貧困者の救済運動をするカトリック・ワーカー(The Catholic Worker)の思想に共鳴し、1953年から3年間ニューヨークでボランティア活動をする。その後結婚し、5人の子供をもうけた。

この間、「十七文字」(Seventeen Syllables、1949)、「茶色の家」(The Brown House、1951)、「ヨネコの地震」(Yoneko's Earthquake、1951)、「祝婚歌」(Epithalamium、1960)などを発表した。

子育てをしながら創作活動をつづけ、作品は日系の新聞などに発表された。日本では、作品の一部が1980年代に翻訳されたが、書籍としては2008年に『ヒサエ・ヤマモト作品集-「十七文字」ほか十八編』(山本岩夫、桧原美恵訳、南雲堂フェニックス)まで待たなければならなかった。本書の出た3年後にヤマモトは89歳の生涯を閉じた。

原作は、「Hisaye Yamamoto, Seventeen Syllables and Other Stories. Introduction by King-Kok Cheung. Rivised and expanded ed.(New Jersey: Rutgers University Press, 2001 )」で、もともと1988年に「キッチン・テーブル有色人種女性出版」から出版されたものを改訂し、あらたに4編が加えて装いを新たにした。


隠されたプロット、抑制された筆致

タイトルにあるように、1943年から1995年まで、彼女のほぼ生涯に渡るなかで発表された作品18編をおさめている。このほか、長い間彼女の作品研究をしてきたキン=コク・チャン(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)のまとまった解説が序文として添えられている。

このなかで、チャン教授は作品の魅力について次のように書いている。

「ヤマモトは大袈裟なレトリックや戦闘的な表現を好まず、それとは別の書き方で私たちに訴えかける。(中略)隠されたプロットを掘り出し、登場人物の抑制された気持ちを測り、また作者の無言の批判と明白な思いやりを見抜くために、ページにあるすべてのことばに私たちは注意を払わなければならない」

また、作品が扱うテーマについては、「多様な民族集団の交流、一世と二世の関係、そして移民地における一世の困難な適応状況、とりわけ一世の女性が受けた抑圧という三つのテーマである」(訳者あとがきより)という。

作品は、戦前からのヤマモトの人生経験がベースになっている。移民であり日系人であること。戦争に巻き込まれ収容所に入れられるということ。黒人の抱える問題やアルコール依存など精神の病を抱えるということ。家族を失うということ。なかなかヘビーな体験だが、チャン教授が言うように、その語り口は淡々とし抑制がきき、作者の真意が謎めいてさえ見えるときがある。

「ラスベガスのチャーリー」という長い作品は、彼女の家族の歴史にもとづいていると思われる。彼女は実際戦争で弟を失っているが、主人公の息子も戦死し、その知らせが来る。だが、こうした悲劇もあっさりと語られていく。

はっきりと作者の心情が伝わってくるのは、人種差別に関わる事柄に触れている時だ。それは白人の他人種に対するものに限らず、自らの内にある差別間にも及ぶ。収容所政策に対する怒りはあるが、「改訂・増補版によせて」としてヤマモト本人が書いているなかで、黒人差別についてこう気持ちを明らかにしている。

「およそ二百年間、奴隷状態に置かれ、偏見に遭ってきた人たちと比べると、私たちが収容されたことは取るに足らないことのように思えるようになったのだ」

最後に、本書は短編小説集であり、詳しい序文での作品解説は、あとで読んだ方がいいだろう。小説を解説から読む人は少ないはずだ。

(敬称略)

 

© 2017 Ryusuke Kawai

Hisaye Yamamoto nisei Seventeen Syllables

このシリーズについて

日系アメリカ人による小説をはじめ、日系アメリカ社会を捉えた作品、あるいは日本人による日系アメリカを舞台にした作品など、日本とアメリカを交差する文学作品を読み、日系の歴史を振り返りながらその魅力や意義を探る。