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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

中南米と日本の日系人との連携強化策とは

安倍総理のアルゼンチン訪問の際、沖連会館で日系社会と懇談(2016年11月21日)。この時は、中南米各国から日系リーダー多数がブエノスアイレスに集合し、総理と懇談した。このリーダーの多くは、外務省の招聘事業ですでに来日経験があり、留学経験のあるものも数人いる。こうした指導者への期待と連携が高まっている。

2012年末の第二次安倍内閣発足以来、総理は南米諸国を訪問するたびに積極的に地元日系社会の指導者や関係者と懇談している。これに並行して日本大使館やJICA事務所も日系人とそれまで以上に交流するようになり、今後の協力関係の強化を模索するようになった。世代交代が進んでいる中南米日系社会では、3世や4世が主体的な役割を果たしていることが多く、従来の日本人移住者対策では限りがあるからである1。2013年には外務省による日系次世代指導者招聘事業が再開され2、日本の官僚や政治家も中南米日系社会の実情や新たなニーズだけではなく、これまでより踏み込んだ連携の可能性を認識するようになった。

現在、日本の産業は、製造業はもちろんのこと農業やサービス部門においても、これまで以上に海外進出を意識して開拓していかねばならない状況に追い込まれつつある。近年のこうした危機意識が政財界の有力者に中南米の日系人に注目するきっかけを与えたかどうかは定かではないが、中小企業の進出や文化事業の展開に、日系人をもっと有効に活用しようとする動きがみられるようになった。

日系人との協力関係強化へ期待が高まるなか、今年(2017年)の5月9日、外務省内に設置された「中南米日系社会との連携に関する有識者会議」で、数カ月間にわたって今後の日系社会とのあり方が審議され、多くの提案を含んだ報告書が薗浦副大臣に提出された3。この報告書では日本在住の中南米出身の日系人についても触れており、デカセギ就労者子弟の高等教育による社会進出やその多様性(語学力、異文化間調整力)が注目されている4。今後は、日本国籍でなくとも例えばJICAの「日系社会ボランティア活動」に応募できるという可能性も検討される5

外務省中南米局主催の「中南米日系社会との連携に関する有識者会議」にて。第3回目の会合で筆者も発表の機会を得た。

私も、第3回目の会合に参考人として出席し、主に下記の3点について意見を述べさせてもらった6

1)今後は、すでに存在する有力な日系人ともっと効果的な協力、連携関係を実現し、日本との関係に関係においては単なる日系コミュニティーにとどまらずその社会全体をもっと意識して対応する必要がある。

有力な日系人が常に日系団体に所属し、活発に活動しているとは限らず、歴史が古いペルーやブラジルをみると、有力者のほとんどが日本語も話せず、日本とあまり接点がない。そんな彼らも、その社会または従事している業界では、かなりの地位を得て影響力を持っていることが多い。官僚や上級官僚の政治職、業界団体の役員職、大学教授や科学者、司法の役職(検事、判事等)、軍や治安当局の幹部等がいい事例といえる。

2)若手日系人の現地社会への統合または同化をプラス要素として受け入れるべきである。

今回の会議で若手日系人による日本や日本語への関心が薄くなっているという指摘がでた。国や地域によって差異はあるにせよ、世代交代が進むにつれ非日系人との婚姻率が増えたこともその原因の一つである。一昔前の世代から見れば絶望的に映るかも知れないが、逆に今の若手は社会に溶け込んでいるということでもあり、このプラスの側面をもっと冷静に評価する必要がある。

3)日系社会と関わっているまたは様々な行事に参加している非日系人の存在を評価し、そうした人材をもっと積極的に日本のリソースとして活用できるよう、彼らにも着目する必要がある。 

実際、日系社会との繋がりがなくとも、社会的、経済的、そして政治的に活躍し、地元社会の一員として大きな功績を残しているものは多数存在している。日系社会はそうした人々から多くのことを学ぶこともできし、コミュニティー外に影響力があるからこそ今後の日本との連携強化にも大いに役立つのである。

既存の日本人会や日本語学校のほとんどは、今や非日系人の存在なしには財政的に運営できない状況にあり、これからはもっとオープンな日系社会を築いていかねばならない。日系人プラス非日系人の「連携」が、日系人のさらなる社会的飛躍の秘訣である。そして、日本はこうした現実を踏まえながら日系社会との連携を進めていくことが望まれる。


また、これまであまりメインの日系団体と関わりがなかった地方都市や農村の日系人について把握し、彼らとの協力関係を模索する必要もあるだろう。近年、ソーシャルメディアのおかげで、そうした日系人たちの存在を以前よりも楽に把握できるようになってきた。そこには日本人移住者のあまり知られていない実情もあるだろうし、彼らの歴史を知ることで新たな発見につながるかも知れない。

日系社会も、自分たちの経緯だけではなく、これまで以上にその社会で活躍してきた日系人や日本と縁のある非日系人のことをもっと知り、次世代に伝授しなければならない。南米では、日系の若者たちが実施している体験型合宿や若手起業経営者等の勉強会が増えている。今後はそうした手本になる人たちを招いて活用できるノウハウや人脈を拡大していくことが求められる7。そして、日本もこうした試みをサポートし、日本企業の経済活動や文化交流の発展と普及に、このような人的資源を巻き込んだ姿勢で臨んでいかねばならない。 

注釈:

1. 国策による戦後移住が推進されたパラグアイやボリビア、ドミニカ共和国の移住地などに対しては、これまでも支援策が継続されているが、自律力と財力のあるところは更なる地域開発のために日本の重要な連携パートナーとして期待されている。

2. アルベルト松本、「次世代日系人指導者の役割と期待」、(ディスカバー・ニッケイ、2015年6月19日掲載)

3. 「『中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会』報告書の薗浦外務副大臣への提出(結果)」(外務省、2017年5月9日)  
報告書(PDF)

4. アルベルト松本、「在日二世代目の日系ラティーノの挑戦」、(ディスカバー・ニッケイ、2017年5月31日掲載)

5. JICAボランティア事業のサイト

6. 「中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会第3回会合(結果)」(外務省、2017年4月17日)

7. 10代後半から20代半ばまでの若者たちは、先輩たちのサポートを得て体験型合宿を企画している。例えばペルーではLidercambio、アルゼンチンではDale、メキシコではVibra Jovenというグループがあり、パラグアイやブラジルにも同じような若者のグループがある。日本政府はこうした試みに注目しており、外務省はJUNTOS(一緒に)という「中南米対日理解促進交流事業」を行い、日本の若者も一部のブログラムに参加させ、その国を公費で訪問できるようにしている。

 

参考資料:

『中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会』報告書の薗浦外務副大臣への提出(結果)」(外務省、2017年5月9日)/ 報告書(PDF)

アルベルト松本、「次世代日系人指導者の役割と期待」(ディスカバー・ニッケイ、2015年6月19日掲載)

アルベルト松本、「次世代日系人と日本との繋がりー中南米日系社会の変化—」(ディスカバー・ニッケイ、2016年9月30日掲載)

アルベルト松本、「在日二世代目の日系ラティーノの挑戦」(ディスカバーニッケイ、2017年5月31日)

中南米ビジネス・セミナー 安倍内閣総理大臣政策スピーチ」(首相官邸、2014年08月2日、ブラジル・サンパウロにて)

日系人との交流行事 安倍総理スピーチ」(首相官邸、2016年11月21日、アルゼンチン・ブエノスアイレスにて)

 

© 2017 Alberto J. Matsumoto

Japan Latin America relationship

このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。