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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

日系社会とグローバルデジタル時代の日系ミレニアル世代

合宿事業、ブエノスアイレスの「DALE」、2017年2月。実行委員会には、若手だけではなく前任者や先輩日系指導者もかなりおり、助言だけではなく財政的にもサポートする。今回のスローガンは「ALGO PUEDE CAMBIAR」とあるが、それは「何かが変化するかもしれない」という意味である。

1980年代から2000年代初めに生まれた世代は、「ミレニアル世代millennials」と呼ばれている。日本のバブル時代(1986年12月〜91年2月)に生まれ育った子は間違いなくミレニアル世代にあたるが、加えて2017年の今、高校または大学を卒業する人もそのカテゴリーに入る。彼らは生まれながらの世代である。こうした新しい世代の若者をどのようにマネジメントするか、社会または会社に役立つ人材として育成するか、またどのように彼らのニーズを把握してその市場を攻略するかは企業にとって大きな課題である。企業は労働人材および市場としての、行政は納税者としての、政治は有権者としての、ミレニアル世代にどうアピールすべきか模索している。2000年以降、先進国を始め社会的にミレニアル世代が注目されるようになり、大学や民間シンクタンクでも数多くの研究が行われている。

私も、中南米の若手日系人が留学や研修で来日するたびに、ミレニアル世代を観察してきた。日本のような先進国と、ラテンアメリカのような新興国や途上国の若者とは違う部分は当然あるのだが、しかし共通する部分も多々ある。JICA(独立行政法人国際協力機構)は、中南米日系社会青年・シニアボランティア事業1をずいぶん前から、そして近年外務省は南米日系社会との交流事業「Juntos!!中南米対日理解促進交流プログラム」2を実施しているが、現地の青少年もしくは20代前半のユースを対象にする場合は、まず日本のミレニアル世代のことをもっと知る必要がある。

このミレニアル世代に関してはいろいろな指摘や評価がある。スペインや南米諸国の特集記事を見ると3、「関心のあることだけしかしない怠け者世代」、「過保護に育ったため自分勝手の子が多い」、「恵まれて甘ったれているので、わがままな部分が多い」、「弱々しくて、草食系(すごくやさしい)である」、「理想が高いが、共感することでしか仲間と付き合わない」、「目的意識や共感できる価値観があれば、SNSソーシャルメディアでは会ったこともない人とも親しくなる傾向がある」、「語学ができる若者は世界中に仲間をつくるが、その世界が案外狭い」、「あきっぽい要素もあるので、サークルに入っていてもすぐにでてしまう」、「特定の政治的・宗教的組織に属しない傾向が強い分、寛容である」、「異文化や多様性を評価するが、面倒になってくると真正面から理解しようとせずそのグループから去っていく」、「視覚的に魅力的な物事を好み、そうでないものにはあまり関心を寄せない」、「基本的に無駄な出費を好まず、共感できるものやどうしても欲しいものしか買わない」、「マイホームやマイカー、それも高価なものにはあまり関心がない」、「今の(グローバル化した)世界経済は、一部の金融関係者や権力者のみを豊かにし、あまりにも大きな不公平を築いたと思っている若者が多い」、「自分たちとは世代が異なっていても、そうした格差や不正義を訴える指導者(米国大統領選の民主党候補バーニー・サンダース氏など)を応援する傾向が強い」、「親が口うるさく言うようにたくさん(大学等で)勉強しても、いい仕事には就けないし、卒業後に教育ローンの支払いをすることはできないと、学生のときからなんとなく感じている」、「今を大事にし、共感できる仲間を大切にし、政府も社会制度もあまり頼れないと感じている」、等々と書かれている。

一般論的な内容だが、学生や20代の社会人と接している人ならなんとなく納得できる部分もあるに違いない。しかし、人類が集団で活動するようになった時代から流布されている、どの時代でも変わらず「若者に対して描くイメージ」に該当するも多い。ミレニアル世代に特有の新しい要素は、デジタル情報との付き合い方や、「感動」が瞬時に世界中どこにいても伝わる時代であることだろう。たが、何かに共感したからといって実際の問題が解決するわけではないのであることは忘れないでおく必要がある。問題を共有できても解決には至らないが、しかし時と場合によっては、多くの人に共感してもらうことはできるし、その結果少しでもプラスになる変化を促すことができるかもしれない。

中南米から来日する日系研修生や留学生も、特に若い世代ほど、こうした要素を持ち合わせており、素直に多くのことを学ぶ一方、センシティブであると同時に、ときには軸になるものを持っていないと感じることが多い。大人しそうに見えても、ネットでは積極的に発言をするし、授業でも紙に感想などを書かせると、びっくりするほどしっかりした指摘や主張をすることがある。また、正しいことや理想論を好み、その分、今、社会問題になっているようなブラック企業や格差という歪んだことが大嫌いなのである。多分、1960年代のように大集会に参加して抗議することはなくとも、SNSなどでははっきりと主張するか、単にそうした問題は無視するのかもしれない。いやなものからは、恩義やしがらみを感じることなく離れていくのである。前のまたその前の世代が「手本」としている「ライフスタイル」や「価値観」をあまり重要視しておらず、かなりマイペースなところも見受けられる。私は、そうしたところが結構好きで、固定観念に縛られない視点で、日本では南米の切り口で、南米では日本の切り口で、話を進めたりするとそれなりに関心を持って聞いてくれたりする。

彼たちは、ネット世代といいながらも空想の世界に浸かっているのではない。むしろ、とても現実的に答えを求めて、実態と実現可能な選択を知りたがっている。ときには物事を単純化してしまい、焦りすぎているのが気になる短所である。きれいごとを敬遠し、左か右を問わず政治のメッセージをかなり疑っていて、それが政治離れへとつながっているようだ。どちらにしてもあまりにも極端な答えを求めたりするので、むしろそれが危険なところかもしれない。

面白い違いとしては、大学の授業で私がミレニアル世代に、「収入が増えたら何に使うか」と尋ねると、日本の学生からは「老後のために貯金する」という慎重な答えをもらうことが多い。しかし南米のミレニアル世代は、「今を楽しむために使う」という回答が目立つ。だが、日本、中南米のミレニアル世代に共通するのは、この世代は大して収入がなくとも、寄付もボランティア活動もすることだろう。目的(事業)別のオンライン寄付がそのいい例であるが4、災害現場にいくボランティアも、受け入れ態勢がしっかりして、ある程度役割が事前に定まっているところには人が集まるという。

また、コンセンサスをとって、みんなで何かをするというのがミレニアル世代のスタイルである。だから、南米で開催されている日系ジュニア・ユースの合宿(Dale(アルゼンチン), Lidercambio(ペルー), Vibra Joven(メキシコ)等々)事業にしても、かなり時間をかけて先輩の指導を受けながら準備をし、参加者が活動しやすく、楽しみにながら感性を育み、充実感を得られるように工夫を重ねている。そして、何かの問題提起に関しても共通できるものを考えるだけではなく、一人一人の自尊心を高めることも目的としている。このプロセスによって、内向的な青年に自分を再発見することになるし、グループ内の団結力も強化されていく。また、自然とリーダーが育成され、集団で作業を行う訓練になる。しかし、その団体やグループへの帰属意識が磐石なものになるとは限らず、飽きられてしまうとあっという間に離れていく。

とはいえ、やはり「今の若者は!」と愚痴る前に今のミレニアル世代に我々がもっと近づいて、様々な課題に対する答えを一緒に探していくことが求められ、その過程を大事にしていけばきっと世代間の信頼関係も構築できるに違いない。

 

注釈:

1. JICAの海外ボランティアとは? >> 

2. Juntos!! 中南米対日理解促進交流 >>

3. Carolina Mila, ¿Estaos criando una generación de inútiles?, UPSOCL,2015.

Luján Scarpinelli, Los Millennials y el dinero: ahorro e inversión de una generación con muchos objetivos y pocas certezas, La Nación, 2016.05.09.

 Sanae Akiyama, 世界は、ミレニアル世代の「自己顕示欲」が社会を揺るがす時代に突入している、「WIRED」 2014.10.13

 2016年デロイトミレニアル年次調査「次世代のリーダーたちの獲得をめざして」

4. ファンドレイジングというもので、目的別・事業別に寄付することができ、その結果をフォローすることもできる。

日本ファンドレイジング協会 Japan Fundraising Association

 

© 2017 Alberto J. Matsumoto

JICA JUNTOS millenials student exchange volunteers

このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。