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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2017/3/3/asian-students-working-in-japan/

アジアからの留学生の勢い、日本の中小企業海外進出に貢献

中国、ベトナム、ネパール留学生のために企画された就職セミナー。横浜にて。2016年9月9日に開催。

昨年9月にかながわ国際交流財団から、これまで南米出身の日系留学生の研修をしてきたこの私に、アジア系留学生のセミナーに講師して参加してほしいという依頼がきた。驚きでもあったが、自分もアジア系留学生のことをもっと知りたいという好奇心にかられて、快く引き受けた。神奈川県内の専門学校と日本語学校、ベトナム協会が連携した企画で、諸先輩の体験発表や法律関係のアドバイス講義(筆者が担当)、関係団体による就職支援コーナーが設けられた。午前と午後の2回にかけて行われた研修では、在学している学校のサポートもあり、数百人単位の留学生が次から次へと各講習会に参加した。研修は日本語だけでなく、ベトナム語、ネパール語でも行なわれた。参加した留学生の多くは、現在日本語を学んでいる者、または既に日本語コースを終えて専門学校に在籍している者だったので、日本語の理解力はかなり高く、日本での就職を希望していた。

法務省入国管理局の2015年12月末の統計によると、現在日本に在留している外国人は220万人で、そのうち183万人がアジア諸国出身、南米系は一割超の23万人である。ここ数年は日本に在留しているアジア系外国人が増加しており、これまでと違い留学生と技能実習生数が飛躍的に伸びたことが原因となっている。在留者数をみると、トップが中国籍で66万人、次に韓国が46万人、フィリピンが23万人、ベトナムが15万人、ネパールが5万4千人と続く。

また、技能実習のためのビザ(在留資格)を取得して実際就労している者が19万人おり、そのうちの8.5万人が中国人で、5.5万人がベトナム人、そして1.6万人がフィリピン人である。この約20万人弱の若い労働者は、製造業や食料加工の工場、アパレルや清掃業、物流等の各分野で研修しながら就労しており、見習い扱いではあるが毎日平均10時間から12時間も働いていることが報告されている。当然これは違法行為であるが、日本の人手不足という需要と本国への送金という必要性がこの状況を助長している。

他方、私費留学で所得があまり高くない諸国出身の約24万人の外国人留学生は、規定内の週28時間を就労しながら生活と授業料を工面している。なかには、ブラック(実態のない状態で、支払いも現金のみで行われる)で働き、所得申告のない会社から収入を得ている者もおり、留学生の違法な長時間労働を招いている。留学生らは必要性があるため、法に触れるとわかっていてもこのような市場で就労してしまうが、卒業後に違法就労の経歴が発覚すると在留資格(ビザ)の変更ができなくなり、日本での就労の道が絶たれてしまうケースも報告されている。

最近は、コンビニや飲食店でも以前より多くの留学生アルバイトの姿が見られるようになった。国別にみると、中国からが10万人で、ベトナムから約5万人、ネパールから2万人であるが、以前二位だった韓国からは1.5万人にまで減少している。中南米出身者は、千人前後で推移しており、その半分がブラジル出身者である。

職業安定所ハローワークのブースもあり、留学生向けの求人情報がたくさん準備されていた。

ここで、多くの技能実習生と留学生が来日しているベトナムとネパールについて触れてみたいと思う。ベトナムは今東南アジアでもっとも外資系の投資が増えており、社会主義国家とはいえ経済的には資本主義の仕組みを導入し、国民はとても働きものだという評価がある。歴史的には、近隣諸国や大国との対立の狭間で何度も侵略され、一時的にフランスの植民地になったこともあるが、戦争には負けたことのない国である。領土の大きさは日本とそう変わらず、人口は9千万人である。国内総生産GDPは今のペルーと同等の20兆円相当であるが、一人当たりの年間平均所得は2千ドル(22万円相当でペルーの3分の1 )でしかない。

一方、インド北部のヒマラヤ山脈にある小さな国ネパールは、日本の本州の半分ぐらいの大きさ(14万㎢)で、人口は2,700万人である。しかし、経済も基礎インフラも未発達で、非識字率も乳児死亡率もまだ高い。GDPが2.1兆円相当で一人当たりの年間平均所得は7.5万円にも及ばない。

南米諸国と比べると、ベトナムの平均所得は今のパラグアイの半分ぐらいで、ボリビアのより低い。そして、ネパールのは最貧国であるハイチのに近い。しかし、ベトナムは今急成長しており、今後の可能性も高く、日系企業は今中国に持っている一部の生産拠点をベトナムに移しつつある。既に⒈500社の日系企業が進出しており、年間の直接投資額が20億ドル(2,200億円相当)で、15,000人の邦人(多くが企業の駐在員)が居住している。他方、ネパールは、2015年4月に発生した大地震で多大な経済的損失と9千人の死者を出し、アクセスの悪い山岳地帯では1年半後でも2万人が過酷な避難生活を強いられていた。

これらの二つの国から多くの技能実習生と留学生が来日しているのは、人手不足に悩んでいる業界のニーズとタイミングよく一致している。今後もこの傾向はしばらく続くと言われている。とはいえ、技能実習生の人権や労働法の遵守は今後の課題の一つでつい最近受入企業や団体の違法行為を阻止またはもっと厳しく取り締まる関連法が制定された 。

実習生や留学生は必死に日本語を勉強し、卒業後もこの日本での就職を希望している。少しでも多く稼ぎ、家族や自身の未来のためにとかなり無理をしながらも頑張っている。しかし、最近の犯罪統計では、ベトナムやネパール出身留学生による刑法犯事件や凶悪事件が中国人を抜いて上位を占めており、ここ数年での増加ぶりが懸念の材料となっている 。

いずれにしても日本での経験と人脈を活かしながら、いずれは本国に帰る人もいれば、日本に定住するものもいる。日本の一般の若者や返済の必要がない奨学金で留学する日系人より、アジアからの留学生らの選択は非常に限られ生活も大変なのだが、彼らは、とてもエネルギッシュでかなりの犠牲を払ってでも、このような機会を手に入れようと努力している。こうした姿勢は、日本の企業から高く評価されており、重宝されている。今後の日本の更なる国内外のグローバル化には必要な人材である。

注釈:

1. 2016年11月18日、「外国人技能実習制度適正化法」が成立し、受け入れ団体の監督強化や暴行や脅迫による労働の強制に対する罰則や刑罰も厳しくなった。 
2. 外国人犯罪の勢力図に変化?ベトナム人の刑法犯が中国人抜く、産経新聞、2016.11.27

 

© 2017 Alberto Matsumoto

アジア系の学生 日本 日系ラテンアメリカ人 ネパール リドレス運動 ベトナム
このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。

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執筆者について

アルゼンチン日系二世。1990年、国費留学生として来日。横浜国大で法律の修士号取得。97年に渉外法務翻訳を専門にする会社を設立。横浜や東京地裁・家裁の元法廷通訳員、NHKの放送通訳でもある。JICA日系研修員のオリエンテーション講師(日本人の移民史、日本の教育制度を担当)。静岡県立大学でスペイン語講師、獨協大学法学部で「ラ米経済社会と法」の講師。外国人相談員の多文化共生講座等の講師。「所得税」と「在留資格と帰化」に対する本をスペイン語で出版。日本語では「アルゼンチンを知るための54章」(明石書店)、「30日で話せるスペイン語会話」(ナツメ社)等を出版。2017年10月JICA理事長による「国際協力感謝賞」を受賞。2018年は、外務省中南米局のラ米日系社会実相調査の分析報告書作成を担当した。http://www.ideamatsu.com 


(2020年4月 更新)

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