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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

海外の日本語教育

近年、日本のアニメやマンガ、和食ブーム等によって日本語を学習する人が海外でも増えており、そのことがきっかけで来日する外国人も増加している。

国際交流基金 (Japan Foundation)が2012年に行った調査1によると、世界には約400万人が16,000の機関で63,000人の教師のもとで日本語を学んでいるという。この30年間で、学習者数は3倍に、教師数は6倍に増えており、主に東南アジアや中国で上昇している(台湾や韓国は、近年減少傾向にある)。COOL JAPANを代表するポップカルチャー関連や日本の文化的要素への関心から、日本語を学ぶ人が多く、逆に将来、日系企業に就職するためとか、日本に留学するといった目標を持っている人はそう多くはない(調査結果では、5位と7位の順にある)。

海外では、大学で日本語を学んでいる人もいるが、学習者の8割以上は日系人と同様に私塾である日本語学校で学んでいることが多い。ただ、一部の日系コミュニティーでは、そうした学校が発展して地元教育省からも正規の学校として認定され、母語であるスペイン語でのキャリクラムに加えて日本語コースも認められている。メキシコのリセオ(日墨学院)、ペルーのラ・ウニオン学校、アルゼンチンの日亜学院等が、そうした事例である2。バリリンガル的な要素を持っている私立校で、今はかなり熱心に日本の文化や伝統などを学びたいという非日系人の生徒が多いのも特徴的である。

それから、海外で教えている日本語母語教師の割合は全体の4分の1以下(23%)で、その他はノンネイティブと言われる講師である。国際交流基金の報告書では、問題点として、教材不足、学習者不熱心、不十分な設備、教材・教授法の情報不足、学習者減少をあげている。とはいえ、今は教材や関連資料などは、ネットで購入したり、ダウンロードすることができるので、現場のニーズを把握している講師は手作り教材をつくることもそう困難な作業ではない3。学習者不熱心に関しては、それぞれの生徒の学習目的があまりにも多様化しているため、それぞれが満足できるコースが提供されていないからだと言われている。しかし、たとえアニメ関連の簡単な日本語習得が目的であっても、その表現や漢字を理解するにはかなりの時間と忍耐が必要である。

他方、本格的に日本留学を希望する学習者は、「日本語能力試験(JLPT)4」の勉強は欠かせない。JLPTの勉強をすることでステップアップをし、目標に向かって頑張ってもらうしかない。もちろん、経済的に可能なのであれば日本の日本語学校で勉強するのがベストである。

地域的な学習者の割合を見ると、日本に地理的に近く経済的・文化的にも交流が深いため、54%が東アジアで、28%が東南アジアにおり、この両地域で82%を占める。北米は4.5%、日系人が多い南米は1%弱しかいない。南米での日本語学習者の割合は少ないが、世代交代が進んでいる日系団体では、日本語学校の運営戦略を工夫し、やりがいを高め、経済基盤を強化することで、講師陣の処遇改善や質の向上、さらには独自の教材開発などが期待できる。

日本語への関心は、日本への短期または中期留学や観光旅行にも繋がる。日本語学習者が多い国は、中国(26.3%で、100万人)、インドネシア(21.9%で、87万人)、韓国(21%で、84万人)、オーストラリア(7.4%で、30万人)、台湾(6%で、23万人)、米国(4%で、15万人)で、これらの国々からの留学生数や観光客数にもかなり反映している。2015年の来日外国人観光旅行者の統計によると、2千万人が来日しており5、中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアという順である。留学生数をみると6、2015年5月現在の統計では208,379人が大学や専門学校、日本語教育機関に在籍しており、そのうち大学もしくは専門学校進学のために日本語だけを勉強している留学生は、56,317人である。

スペインのサラゴサ大学開催の日本学会(2015年2月)ここには日本語教室もあり、一部の学生は日本語を積極的にマスターし、神戸市外国語大学との交換留学にも参加している。

一部の日本語教育機関は、日本文化やアニメなど様々なニーズに対応できる日本語教室を開いており7、独自のテキストを準備し各講座に対応している。これらのコースの特徴は、あまり高度な日本語を要せず、特化した実用的な単語と表現を教えている。他方、専門学校や大学進学を目的としたコースでは、入試を意識したカリキュラムが組まれている。就職活動や社会人のための講座やビジネス日本語のコースを提供している機関もある。また、外国人日本語教師(ノンネイティブ教師)を養成する特別コースを設けている学校も存在し、日本語教師としてのスキルアップのため南米からの非日系人の受講生が少しずつ増えている8

アジア地域からの外国人留学生は、全体の93%を占めている。国別でみると最も多いのが中国で(全体の45%、94,111人)、次に多いのが近年勢いが止まらないベトナム(18.7%で、38,882人)とネパール(7.8%で、16,250人)からで、多くは卒業後日本で就職することを希望している9。彼らにとって日本語は、日本もしくは本国の日系企業に就職するための武器である。少しでも収入のいい仕事に就いて、家族の生活水準をアップしたいという思惑が強く、日本滞在中は明確な目的を目指し必至に日本語を勉強している。

ただ単に日本語を教えるといっても、すべての受講者の多種多様なニーズに応えることはできない。JICAは、日系社会を含む世界中の大学や教育機関等から日本語教師の派遣要請を受けているが10、目的や期間に応じて教師のスキルレベルやタイプを考慮し派遣するというが、ニーズにあった適格な教師を探すことは悩みの種になっているという。日本語教師の派遣要件についても、これまでとは異なった要素も取り入れたり、目的や期間についても更に柔軟な取り組みが期待される。

政府のクールジャパン政策をみると11、日本語教育や日本文化関連普及事業は、今日本が最も必要としている日本の海外広報と市場開拓にマッチングしている。海外との交流を深めることで、縮小しつつある国内市場の海外販路拡大に繋がる一方で、様々な分野に精通している日本人が海外でその特技を紹介もしくは伝達することが、日本にもっと興味を持ってもらうためのソフトパワーである。

ただ単に日本語を言語として習得するのではなく、日本の文化や歴史、習慣なども一緒に学ぶことで、受講者に日本語への関心を高めてもらいたい。日本語をどのように活用するかは、ひとり一人が最終的に決めることではあるが、日本語学習を通して、多くの日本ファンが生まれ、旅行、留学、就労等による来日者が増えることを追求せねばならない。

アルゼンチン国際関係評議会CARI「日本研究グループ-Grupo Japón」。サンチスムニョス元大使が主宰。日本の機関に勤めたものや日本に留学した日系人及び非日系人が多い。非日系人の方々は、日本にも精通しており、留学後もアルゼンチンで日本に関わる様々な事業に参加している。紛れもなく素晴らしい日本のソフトパワーである。

注釈:

1. 国際交流基金、2012年度「日本語教育機関調査」英語版もダウンロードが可能

2. 日本メキシコ学院ラ・ウニオン学校日亜学院 

3. 国際交流基金のサイト「ひろがる日本語」、「日本語学習教材

4. 日本語能力試験(JLPT - Japanese Language Proficiency Test)

5. 日本政府観光局(JNTO)「統計データ

6. 日本学生支援機構(JASSO - Japanese Student Services Organization) 「平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果
20万人の留学生のうち、67,472人が大学の学部に、56,317人が日本語学校に、41,396人が大学院に、そして38,654人が専門学校に在籍している。

7. 一部の参考事例:TIJ 東京日本語研修所千駄ヶ谷日本語学校(SJI - Sendagaya Japanese Institute)

8. 国際交流基金の日本語国際センターは、海外の日本語教師のために様々な養成・研修プログラムを用意しているが、多くが公募である。 「JF 日本語講座

9. JASSOは、私費外国人留学生学習奨励費として月48,000円の支援制度を提供しており、学校そのものの奨学金や民間の財団法人の助成金もある。

10. JICAナレッジサイト(日本語教育分野)の派遣実績 「日本語教育

11. 経済産業省「クールジャパン・クリエイティブ産業」 
 クールジャパン機構(㈱海外需要開拓支援機構)「投資スキーム・関連法規

 

© 2017 Alberto J. Matsumoto

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このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。