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話題のリアリティーショー 「Born This Way」の出演者、エレナ・アッシュモアさん

ロサンゼルス郊外のグループホームでくつろぐエレナさん

ダウン症の若者と実生活・親との関係性と葛藤描く

「Born This Way」と聞いて思い出すのは、歌姫レディー・ガガの大ヒット曲。しかし、ここ最近は、そのワードで検索するとA&Eチャンネルのリアリティーショーが真っ先にあらわれる。そう、ダウン症の若者たちが主役の話題の番組だ。単に話題になっているだけでなく、権威あるエミー賞にもノミネートされるほど高い評価を受けている。

私がその番組の存在を知ったのは、いつも髪を切ってもらっている日本人ヘアスタイリストのサロンでだった。鏡の前に置かれたポートレイト。7人の若者たちが満面の笑みをカメラに向けている。白人や黒人に混じって、東洋系の女性も一人。彼女の名前はエレナ(英玲奈)・アッシュモア。父親がオーストラリア人、母親が日本人のエレナは、その写真に写っている他の若者たち同様、「Born This Way」の出演者なのだ。ヘアスタイリストは随分前からエレナのヘアカットを担当しているそうだ。彼女はその場で、iPadで「Born This Way」のエピソードを見せてくれた。

すぐに惹きつけられた。これまで私はダウン症の人たちと触れ合う機会がなかったから新鮮に思えたという理由もあったかもしれない。しかし、何より登場人物の一人ひとりが非常に個性的だった。彼らと親との愛情関係、障害を持つゆえの葛藤が生々しく、時にユーモアも交えて描かれていた。

それから2週間後、私はロサンゼルス郊外にあるグループホームの前で、エレナさんの母親の広美さんと待ち合わせていた。広美さんが私に挨拶した後、路上駐車の場所を探していなくなった直後、小柄で色白の女性がホームのゲートから走って出てきた。エレナさんだった。

自閉症やダウン症など知的障害者の入居者が共同生活を送るグループホームには、2年前から住んでいるそうだ。障害者の自立を促すプログラムをUCLAのエクステンションで取っていた時は寮生活、さらにウエストウッドにアパートを借りたが、「寂しくなると夜、一人で外に出て行くので危ない(広美さん)」と、24時間見てくれるスタッフがいる今のホームに移った。アパート暮らしも経験して自立心が芽生えたエレナさんには実家に戻るという選択肢は既になかった。

グループホームのダイニングルームでインタビューしていると、そこにはホームのスタッフや他の入居者がひっきりなしに顔を出した。その度にエレナさんは「彼女は日本の雑誌の記者なのよ。しかも彼女は日本人なのよ」と嬉しそうに紹介してくれた。

エレナさんがダウン症だと言われなければ、ごく普通の母と娘に見える広美さんとエレナさんだが、もう直ぐエレナさんが30歳になると聞き驚いた。そのイノセントな表情と、広美さんが娘をまだ少女のように対する関係性からはとてもそう思えない。


日本生まれの“英玲奈”、叔父の形見を受け取りに

エレナさんは日本で生まれた。その後、父の母国であるオーストラリア、その後アメリカのロサンゼルス、イギリス、さらにオーストラリアに戻り、2002年に再びロサンゼルスに父の仕事の転勤で渡ってきた。スキューバダイビング用具の製造会社に勤務している父親のスティーブンさんは日本語を話し、現在は日本に単身赴任。パパっ娘のエレナさんは、週末には父親と一緒に映画を見に行くのが楽しみだったとか。

エレナさんにこれまで住んだ国の中でどの国がいちばん好きかを聞いた。

「それを選ぶのは難しいわ。でも日本かな。なぜなら私は日本生まれだから。でも本当に行きたい場所はハワイなの。素晴らしい島だって聞かされている。それからカタリナも良かった。ハミルトン島もバヌアツも良かったわ」

着物姿のエレナさん。4歳  

彼女は次々に旅行で訪れた地名を挙げた。日本には7か月までしか住んでいなかったが、その後、何度か母方の祖母や叔父を訪れた。写真の中の幼いエレナさんは着物姿で微笑んでいる。

日本の何が好きかを聞くと、「寿司!寿司がナンバーワンね。それからそぼろご飯に天ざるそば」。取材したのは8月だったが、9月には久しぶりに日本を訪ねると言う。「随分会ってないから。日本の家族が恋しいの。そしておじさんのラップトップをもらわなくちゃ」。

広美さんに何の事かを尋ねると、エレナさんを自分の娘のように可愛がっていた広美さんの弟さんが今年の頭、電車の事故で亡くなったのだそうだ。形見として、エレナさんは叔父さんのパソコンを受け取ることになった。

大好きだった叔父さんと日本で  

広美さんは「エレナはエモーショナルなことを的確に受け止めることができません。瞬間的に物事を把握することしかできない。私が彼女を育ててきた上で大変だったのは、今でもそうですが、リーズニング(理由付け)ができないこと。時間の感覚でも、『あと5分』と伝えても、5分と30分の差がわかりません。また、一人暮らしの時は節制できず、食料を一度に食べてしまうので、体重が増えてしまいました。それでもこのグループホームでは夜には冷蔵庫や戸棚に鍵をかけて余分なカロリーを摂取しないように管理し、スタッフの人が体重を定期的に測るなどの健康管理をしてくれるので以前の体型に戻り安心しました」と語る。

縦社会に生きてきた母親のジレンマ、「それでもエレナは私の天使」

広美さんは日本舞踊の踊り手だ。「舞踊の世界は縦社会。その中にいて、私は100%どころか、120%の力を出し切らねばならない、常に完璧でなければならないという傾向が強かったのです。ですからエレナに対しても、できるだけ多くの事を自分でできるようにまた社会から認められるようになってもらわなくてはいけないと教えてきました。まるで教育ママゴンみたいに。本当に辛かった。でもある時、カウンセラーの方に辛さを聞いていただいた後、『それでもエレナは私の天使なんです』と言ったら『天使がおうちにいる人はいませんよ』と言っていただいたのです。本当にそうだと思いました。彼女をビーイングのままで受け入れればいいのだ、ドゥーイングしなくてもいいんだ、とやっと気づきました。それまでは自分が自分を四角い箱にはめようとしていたのだ、と」

「Born This Way」の中でも、その時々の感情をネガティブなものでもそのまま露出させてしまうエレナさんと、その態度に絶望的になる広美さんのシーンが登場する。それでも包み隠さず、母と娘の関係も視聴者に見せることで、広美さん自身も変わることができたと話す。エレナさん自身に「テレビに出ている自分を見てどう思う?」と尋ねると「『わあ、私はスターだわ』とスーパーエキサイトする。でも、自分の行いがネガティブにうつっている時は反省して、次はちゃんとやらなくては、と思うの」と答えた。

たとえ脚本がないリアリティーショーとはいえ、テレビ番組だから編集される。実際のエレナさんは番組でクローズアップされていたネガティブなキャラクターとはかけ離れた、初対面の私でも思わず愛おしいと思わずにはいられないほど魅力的な女の子だった。9月11日にはエミー賞の結果が出る。見事受賞して、エレナさん母娘が故郷である日本に錦を飾ることを祈っている。

母親の広美さん(左)も「Born This Way」の出演者だ

 

© 2016 Keiko Fukuda

Born This Way down syndrome Elena Ashmore