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JACLの日本支部―「絆」をつくることが最大の課題

皆様は、JACLと言う日系アメリカ人の団体をご存知でしょうか?

JACLは、1929年、アメリカ西海岸地域に住む二世の若者らによって、日系人の人権を「護る」ことを目的に設立された団体です。戦時中は、日系社会にたいしてアメリカ政府への全面的な協力をよびかけたため、日系社会に「亀裂」をつくったことは、今でもJACLの「汚点」とされていますが、1970年代から1980年代にかけて展開されたリドレス活動(戦時中の強制収容などにたいする賠償要求運動)では、JACLによって活動が成功したといっても過言ではないでしょう。現在、JACLは全米各地に支部をもっており、今でも日系人をはじめとするマイノリティの権利向上の為の活動を続けています。

そして、このアメリカの日系社会にとって歴史的にも重要な団体であるJACLは、日本に支部を持っているのです。JACL日本支部(以下日本支部)は、アメリカのJACLと異なり、人権擁護というより、日本人と日系人をつなぐ「絆」的な役割を担っていることが大きな特徴です。今回は、その日本支部の活動について紹介してみたいと思います。

JACLの日本支部のあゆみ

JACLの日本支部の活動が活発になったのは、1980年代の以降のことでした。その背景として、バブル景気とよばれた空前の好況や、1990年の入管法改正によって日系人が日本に定住しやすくなったことがあげられます。

設立当初、日本支部は、日本に住む日系人をサポートすることを第一目的として活動を行っていました。しかし、時が経つにつれて、日系人と親しい間柄にある日本人や日系人に興味をもつ日本人も、活動に参加するようになり、次第に、日系人のみならず、日本人と日系人をつなぐパイプ的存在となっていきました。

しかし、21世紀をむかえてまもなく、事態は一変しました。会員の多くが日本支部を去っていったのです。その主な原因は、当時の支部長の「ワンマン運営」にありました。会員の多くは、自分たちの意見を尊重せずに独断専行で物事を決める支部長のやり方に我慢がならなかったのです。一時は100名ほどいた会員が、指で数えられるほどにまで減ってしまいました。結果、「ワンマン」支部長は、支持者を失ったことなどを理由に日本支部の活動から手をひき、日本支部は事実上の「空中分解」を余儀なくされました。

一方、残った会員たちは、何とかして日本支部の活動を再開させようと奔走しました。組織の立て直しを図るのが先決と、まずは日系三世の猪先生(ジョン・イノ)を新しい支部長に選びました。そして、猪先生のリーダーシップのもとで、新たなスタートをきることになりました。

「絆」づくりのための活動

猪先生は、桑港出身の日系三世です。桑港のローウェル高校を卒業したのちに、JACLから奨学金を得て、桑港の加州大学(UCSF)の歯学部に進学しました。これを機に、JACLの活動に積極的にかかわるようになりました。その後、加州の歯科医師資格を取得し、桑港で歯科医院を営むかたわら、母校であるUCSFにおいて教鞭をとっていました。

2004年、猪先生には、加州大学と提携関係にある国際基督教大学(ICU)の客員教授に就任することになりました。日本へ移住した猪先生は、日本にもJACLの支部があることを知り、さっそく日本支部のリーダーのひとりとなりました。現在は、明治学院大学において客員教授として、さらには横浜市立大学医学部においても定期的に教鞭をとっています。また、週末など時間があるときには、視覚障害者のためのマラソンの練習会に、伴走者として参加するなど、ボランティア活動も続けています。

そのような猪先生が、日本支部長としてまず最初に試みたのが、会員数を増やすことでした。会員数を増やす第一歩とし、猪先生は、会員らが家族と同様の存在であるという意識を共有し、お互いの「絆」を深めることが重要であるとし、そのためには、会員たちが同じ目的をもって活動をする場を設けること必要だと考えたのです。

しかし、日本支部の会員は、それぞれが皆、多様なバックグラウンドを持っています。会員は、日系アメリカ人だけでなく、日本人も多くいます。職業別にみると、会社員や公務員、専業主婦や学生などさまざまです。彼らを一つにまとめるにはどうすればいいのか、猪先生は、考えました。

いろいろと考えた結果、それぞれのグループに合わせて別々の活動を行おうと、3つの交流の場を設けることにしました。その一つは、学生やビジネスマンたちに英会話学習の機会を設けること。二つ目は、女性同士のコミュニケーションの場を提供すること。そして三つ目は、会員が一同に会することのできる場を定期的に設けることでした。

1. English Speaking Society

English Speaking Society (ESS) は、英語を必要とする日本人の学生やサラリーマンを対象とした集まりです。多くの日本人は、英会話に関心を持っていますが、英会話の学習はお金のかかるものです。そこで、経済的に負担がかからず、効果的に英会話の学習が出来る場を設けることで、日本人の多くの方に日本支部の輪を広げ、さらには日本人と日系人の絆を深めようというのが、この活動の狙いです。

ESSの1回あたりの所要時間は、およそ3時間です。参加者は猪先生の指導のもとで、著名人の演説や新聞記事などを活用して英会話学習を行います。ESSの講義は、会員だけに限らず、非会員にも開講し、できるだけ多くの人に参加してもらえるようにしました。また、参加費を会員無料、非会員は初回のみ無料(それ以降は1回につき1000円)とすることで、ESSへの参加をきっかけに、日本支部の会員数を増やそうとも試みました。

猪先生の思惑どおり、ゆっくりではありますが、ESS参加をきっかけに、日本支部の会員となる日本人も増えていくようになりました。

2.オハナとHello Housewives

今年になってから、女性を対象にした二つの集まりが始まりました。ひとつは、働いている女性を対象にしたオハナ(ハワイ語で「家庭」を指す言葉)で、もうひとつは専業主婦や子育ての時期をむかえている女性を対象にしたHello Housewivesという集りの場です。

日本は、依然として男性中心の社会とされており、女性同士で意見を交換する場が限られています。猪先生は、女性同士が率直に社会問題などに関して意見交換したり、家庭での問題を共有しあうことで、お互いの「絆」を深めるころができるのではないかと考えたのです。

この二つは、はじまったばかりでなので、成果はまだ良くわかりませんが、わたしは今後の展開に期待をよせています。ESSと同様に、オハナとHello Housewivesをとおして、日本社会に活きる女性同士の「絆」が深まることを、わたしは願っています。

3.Hello Cocktail

Hello Cocktail (HC) は、日本支部の会員が(会員からの紹介者も参加可)一同に会することのできる場です。会員同士のあいだに、質の高いコミュニケーションを持つ場を設けることを目的としています。

先にも述べたように、日本支部の会員には様々なバックグラウンドの方々がいます。ESS、オハナ、Hello Housewivesといった特定の興味関心を持った人々の集りだけでなく、ここでは、別の分野の人々と知り合い、いろいろな意見を交換し合う場を提供することで、異なったバックグラウンドを持つ会員同士の「絆」を深めようと考えたのです。


これらの新しい活動の結果、一時は会員数が指で数えられるほどにまで落ちこんでしまった日本支部ですが、現在の会員数はおよそ40名で、その数は増加傾向にあります。さらにうれしいことに、数年前に日本支部を去った人々も、猪先生が支部長なら・・・ということで日本支部に戻ってくるようにもなりました。

猪先生による「絆」作戦は成功したといえるでしょう。その成功の秘訣は、猪先生のアイデアだけでなく、猪先生の「人となり」にあると、わたしは思います。

猪先生は、優秀な教育者でもあり、高いマネージメント能力を持った人物です。多様なバックグラウンドをもつ会員をひとつにまとめるのは、並大抵のことではありません。それをできるのは、先生が、ひとりひとりの能力を適切に評価し、その能力を伸ばすことが出来るからです。また、会員の皆さんが、猪先生の人柄を慕っているということも、日本支部の「強み」であると、わたしは思っています。


そして今、着実に会員数を増やしていく日本支部の活動に、アメリカのJACL本部が大きな関心を寄せています。なぜなら、アメリカのJACLは会員数の伸び悩みという大きな問題を抱えているからです。特に若い世代のJACL離れは全国の支部において深刻な問題となっています。

猪先生がおこなったように、アメリカのJACLも、会員ひとりひとりが「家庭」そして「絆」という意識を深めていくことが重要だとわたしは思います。また、日本支部がおこなったように、日系コミュニティだけに留まらず、各コミュニティが求めている、「対話の場」をもっと提供することが、アメリカのJACLにも必要なことなのかもしれません。

日本支部の活動については、フェイスブックを参照してください。

URL http://www.facebook.com/groups/jacljapanchapter/

 

© 2012 Takamichi Go

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