ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2012/11/19/hot-dogs-and-asparagus/

ソーセージとアスパラガス?

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この話をどのように始めましょうか。始まりは僕の祖母、日本人の方の祖母でした。正確には日系アメリカ人、日系二世の祖母は、僕の知る中で最も腕の良い料理人でした。キッチンの中で彼女よりクリエーティブな人を僕は他に知りません。僕が10代の頃、祖母はアスパラとホットドッグ用ソーセージの手作りテリヤキソース炒めを作ってくれました。それは、僕が今まで食べた中で最も美味しい料理の1つでした。祖母がその組み合わせの料理を作ってくれたのは、それが最初で最後でした。

祖母、グレイス・ナガイ

話を少し戻しましょう。1947年に結婚して以来、祖母が65年住み続けたカリフォルニア州ストックトンは、世界のアスパラ首都を自称し、毎年アスパラ祭りを開催しています。祭りには、アスパラパスタやアスパラマルガリータ、アスパラアイスクリームまで登場しますが、さすがにソーセージとアスパラのテリヤキ炒めは置いていません。それを味わうことができるのは、祖母のキッチンだけなのです。

1束4ドルから5ドルすることもあるアスパラは、アメリカでは高級野菜と見られることが多いようですが、ストックトンでは、旬になると99セント位で安く買うこともできます。言い換えれば、アスパラは、ホットドッグ用ソーセージ同様に安く、どんな料理にも使える食材です。僕の祖母、「ばあちゃん」(僕は祖母をこう呼んでいました)は、とてもプライドの高い女性でもありました。僕が日本人の友人2人をばあちゃんの家に連れて行ったその運命の夜、友人を連れて行くことを事前に連絡しなかった僕を、ばあちゃんは怒りました。

ばあちゃんは、家の中をいつも完璧に綺麗にしておくタイプの人でした。僕が10代の頃、既に未亡人だった彼女は、20年間独り住まいをしていました。そして長年に渡り、家族全員のために日曜の夕食を作ってくれました。祖母のダイニングテーブルには、ローストビーフ、ハム、シュリンプカクテル、豚カツ、天ぷら、カリフォルニアロールが並べられました。僕が10歳位の頃、ばあちゃんに中華焼きそばがどうしても食べたいと訴えた時には、街中のどの中華料理店にも劣らない美味しい焼きそばを一から作ってくれました。

話が脱線しましたが、その夜、何がばあちゃんを怒らせたかというと、僕が2人も日系の女の子の友達をばあちゃん家へ連れて行ったことでした。でも、誤解しないでください。2人は僕の友人姉妹で、その日は1日中一緒に遊んでいました。お姉さんの方とは同じ小学校に通っていて、ばあちゃんも彼女を覚えていました。問題は、ばあちゃんが事前に準備できなかったことにありました。ばあちゃんは、用事のメモや買い物リストの走り書きを、常に玄関ドアやキッチン棚、冷蔵庫などに貼っておくような人でした。

その夜、両親や妹と一緒に僕達が友達を連れてばあちゃんの家に到着したとき、ばあちゃんはすっかり怒っていました。ダイニングテーブルは6人がけでしたが、僕らは8人でした。ばあちゃんは、妹とその友達にトレイを使ってリビングで食べるよう促し、この問題はすぐに解決されました。ばあちゃんはいつも多めに料理を作り、僕らが家に持ち帰られるようにしてくれていましたが、5人分料理するのと8人分では大きく違います。肉汁のかかったローストビーフ、じゃがいものグラタン、サラダは、全員にぎりぎり行き渡るくらいの量しかありませんでした。

僕ら全員がまだお腹が空いていることを察したばあちゃんは、事前に知らせずに大人数を連れてきたことで、また僕に小言を言いました。僕が狼狽するのをよそ目に、ばあちゃんは僕の友人たちにはとても礼儀正しく、彼女たちを歓迎していました。また、2人の両親の仕事や通っている教会、学校の成績、第二次世界大戦中に両親が収容されていた収容所がどこかなど、話を聞いていました。社会的立場、礼節、家族、作法、ばあちゃんにとって、それら全ては重要でした。ばあちゃんは、僕の友人たちに言いました。「ここでは遠慮は禁物よ。楽にしてね。」彼女たちはくつろいでいました。そして友人たちは、僕と同じくらいばあちゃんの料理が好きになりました。

ばあちゃんは、競争好きと人に思われることは嫌がると思いますが、ストックトンの他の二世のおばあちゃんより自分の方が料理が上手いと言われると喜んでいました。両親が、エアジョーダンのスニーカーを僕に買い与える余裕がなかった時、ばあちゃんが喜んで買ってくれたことを僕が日系の友人に話すと、ばあちゃんは満足していました。ばあちゃんが特別に作ってくれたサッカー柄のあて布をしたトレーナーが近所の子の羨望の的となったことも、ばあちゃんを喜ばせました。その晩、お腹をすかせた家族とその友人たちに食べさせるためキッチンに戻ったばあちゃんは、実質的な理由の他に、自分のプライドにかけて料理を作っていたのだと思います。

大鍋でご飯を炊く間、ばあちゃんはアスパラを洗って刻み、ソーセージをスライスし、砂糖と醤油を合わせてテリヤキソースを作り、それら全てを中華鍋で炒め合わせました。出来上がるまでの間、ばあちゃんは煎餅と切ったばかりのハニーデューメロンを大きなボウルに入れて僕らに渡しました。ばあちゃんは、僕のせいでお客さんにお菓子とデザートを一緒に出すはめになったと小言を言いましたが、友人たちは気にしませんでした。キッチンから漂う美味しそうな匂いに、待つ価値が十分あることはわかりました。僕らは皆テリヤキソーセージとアスパラを堪能し、僕はばあちゃんに、もっと頻繁にこの料理を作るべきだと言いました。

しかし、ばあちゃんは、これは本当の料理じゃないと言いました。どたん場でただ全部一緒に合わせただけ、と言いました。僕への当てつけでそう言ったのか、本当に美味しいと思わなかったのかはわかりませんが、その後、ばあちゃんがソーセージとアスパラのテリヤキ炒めを作ることはありませんでした。僕は、レシピを教えてもらおうと何年も頑張りましたが、祖母にとって、これはレシピを書き残すような料理ではありませんでした。ホットドッグ用のソーセージとアスパラを刻むところまでは簡単ですが、ばあちゃん手作りのテリヤキソースに匹敵する味にはまだ到達できていません。毎回水っぽかったり濃過ぎたり、甘過ぎたり塩辛かったりするのです。

ばあちゃんには、砂糖と醤油のみと教えられましたが、僕にはなかなか上手く作れません。友人たちのアドバイスを受け、パイナップルジュースをひと振り加えたり、ジンジャーパウダーをひとつまみ入れたり、小さじ1杯のみりんを加えてみましたが、やはり同じにはなりません。砂糖と醤油の割合は、妥当と思える範囲で全て試したし、魔法のような製法の秘密が暴かれることを期待して、僕の無駄な挑戦を記す日誌までつけました。でも、正直なところ、ばあちゃんのテリヤキソースを一から作り、再現することはもう諦めました。美味しいテリヤキソースが味わいたい時は、僕は地元の日本食レストランに出かけることにしています。その店のマッシュルームとズッキーニ添えのテリヤキチキンは、僕の期待を裏切りません。

僕は、稀にテリヤキソーセージを自分で作りたくなりますが、(日本食レストランにはないので、自分で作らざるを得ないのです!)そんな時は、既製品のシラキクのうなぎ蒲焼きのタレかキッコーマンのテリヤキソースを使っています。ばあちゃんの手作りソースの代替品としてはまずまずですが、もちろん同じではありません。僕の1歳と6歳の子供たちが僕の年齢になる頃、彼らがどのように自分のばあちゃんの味を想うのか、時々考えます。彼らのばあちゃんはフィリピン系とポーランド系ですから同じではないでしょう。でも、彼らの日系のじいちゃんが作ってくれるすき焼きを、子供たちは喜んで食べていますし、フィリピン系のじいちゃんの好きな食べ物は刺身なのです。一体どうなるのでしょうか?

僕はただ、テリヤキソーセージとアスパラ炒めのレシピが欲しかった、と思っています。

グレイス・ナガイ、タティアナ・ナガイ(娘)、僕

© 2012 Tyrone Nagai

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このシリーズについて

世界各地に広がるニッケイ人の多くにとって、食はニッケイ文化への結びつきが最も強く、その伝統は長年保持されてきたました。世代を経て言葉や伝統が失われる中、食を通しての文化的つながりは今でも保たれています。

このシリーズでは、「ニッケイ食文化がニッケイのアイデンティとコミュニティに及ぼす影響」というテーマで投稿されたものを紹介します。

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執筆者について

サンディエゴ州立大学からクリエーティブ・ライティングの修士号(MFA)を取得したタイロン・ナガイ氏は、『Fiction International』、『The Strip』、『New Verse News』、『Armageddon Buffet』等で著作を発表しています。

(2011年2月 更新) 

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