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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

ラテンアメリカの経済成長と日系社会

2011年の7月末から9月の頭まで、約40日間にわたってペルー(リマ)、アルゼンチン(ブエノスアイレス、ラプラタ、ロサリオ)、ブラジル北部(ベレン、マナオス)、そしてメキシコ(カンクン)を訪問した。アルゼンチンへの里帰りも兼ねてだが、ほぼすべての国において日系社会と関係した行事や会合に参加してきた。と、当時に今大きく変動し注目を浴びている訪問先の社会や政治についても興味深く可能な限り観察した。いずれにしても、どの国の日系社会も活気がある部分とそうでない側面がみられた。

ペルー日系人協会、移民資料館30周年記念講演に出席。2011年8月

近年の海外での日本食・日本文化(主にマンガやアニメ)ブームによって日本に対する関心が高まっているが、このサブカルチャー現象の恩恵を受けているのは、団体として様々な教室や講義を企画し、提供しているところだけである。日系団体というだけでは人が集まらず、組織の企画力、運営力、そして営業力が集客を左右する。また、その財源で組織の諸経費や講師の講義料をきちんと支払っているところにいい講師陣が集まり、その受講生のほとんどは非日系である。

今回、リマのペルー日系人協会(APJ)やブエノスアイレスのセントロ日系を訪れた。日本のカルチャーセンター並の講座の多さとその企画力やマネジメント能力には驚かされた。役員たちは無償で奉仕しているが、事務スタッフは有給であり、事務局というものがきちんと機能している。また、日本語教室と和太鼓、夏の盆踊りやスポーツ事業を通じて地元住民との交流を深めながら、参加者の拡大によって財政を改善しているところもある1

日系団体の多くは世代交替が進み、二世や三世が多い。また、元気なところはユースという若者グループ(青年部)の活動も目立つ。リマのAELUやAPJの青年部、ブエノスのセントロ日系のDALEは上部団体との連携と協力体制がしっかりしており、先輩からの指導だけではなく、多くはリマのAELU等でリーダー研修を受け、様々なセミナーやスポーツイベントにもここ数年前から参加している2

ペルー日系人協会企画の講座や教室の一部

ブエノスアイレスのセントロ日系、会長のリカルド外間氏。教室のカレンダー

このようなことが可能になったのは、やはり中南米諸国の経済が豊かになってきたからだろう。天然資源開発や穀物の生産だけではなく、新しい非伝統商品の生産と輸出、観光産業の活発化、インフラ整備事業が盛んになってきた。一部の国を除いて、政治的にもかなり安定し、民主主義も定着したと言える。汚職問題や制度の不備はまだ課題として残っているが、全体として経済的に活気があり、低所得者の底上げと新しい中産階級の登場が消費を拡大している。多くの国が大きな市場になってきていることがこれまでと違った経済発展と言える。

また、ブラジルのイニシアチブによってペルーやボリビア、コロンビアとの貿易や人的交流が飛躍的に伸びている3。当然、中国やアジア諸国も大きなシェアを占めているが、かなりバランスのとれた貿易構造を構築しており、極端な依存を避けようとしている4。こうした域内貿易や人的交流は、国境地帯に留まらず広域に拡大しており、ペルーやボリビアのアマゾン地域とブラジルのアマゾン南西部は一つの地域経済圏として捉えることができる。筆者が訪問したマナオスは、人口が200万人を超えており、港には7万隻が登録されており、コンテナ港には大型貨物船が数多く見られ、タンカークラスの船も停泊していた。空港も24時間稼働しており、ブラジルをはじめ中南米の主要都市やアメリカのマイアミとも直行便が運航し、活気に満ちていた。

ブラジルのマナウス

こうした経済環境の下、日系人にとっても様々な交流が実現しやすくなったと言える。日系社会の現地化によって非日系人との交流も拡大しており、むしろこれらの存在なしには多くの事業は成り立たない状況になってきている5。団体の運営は今も日系人によるものだが、日系人の混血化や世代交替によって意識や考え、振る舞いがかなり変わってきている。しがらみがない分、多人種や他国の日系人との交流も増えている。今後、これら団体が日系社会へどのような付加価値を提供してくれるのか、また彼らが国際社会へプラスになる違いをアピールすることで、どのような存在として評価されていくのか注目される。

注釈:
1. ブエノスアイレス郊外の日系社会は農業移住地「コロニア」が多いが、そうしたところの日本人会は、盆踊りやバザーというイベントを企画して、多くの人の参加によって日本語学校やその他の施設の経費を工面している。

2. AELUはラ・ウニオン協会のことであり、リマの日系社会ではもっと総合的な団体である。学校も、充実したスポーツ施設もあり、広範囲にわたって社会活動を行っている。http://www.aelu.com.pe/  
そして、APJはペルー日系人協会のことであり、すべての日系団体を統括する連合会の役割を果たすとともに、自身も様々な事業を展開しており、文化センターとしても多岐にわたる教室を実施している。http://www.apj.org.pe/ 

3. 道路等のインフラ整備によって多国間事業を展開している。アマゾン川流域のネットワーク化を強化し、ブラジルの物資が川や陸路によって太平洋側の港からアジア諸国に運ばれようとしている。当然、空路の便も増えており、地方都市同士の路線と国際便が今後も増えるとされている。

4. GDP/貿易依存率という指標があるが、ブラジルが20%、アルゼンチンが27%、ペルーが約38%等であり、どの国も輸出相手国として中国の存在が大きくなったとはいえ、一番依存度が高い国でも15~20%以内であり、全体としてバランスのとれた貿易構造である。http://www.jetro.go.jp/world/cs_america/ 

5. 国や地域にもよるが、未だに制限している学校や団体もある。近年、ほとんどの国ではかなりオープンになってきており、日本文化に関連する講座の受講生のほとんどが非日系人である。

© 2011 Alberto J. Matsumoto

argentina Brazil nikkei in latin america peru

このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。